クレーメルメモリー「風」〜ブルーフェザーの育み〜後編
シルフ「それから、僕は風まかせにふらふらと旅してたんだけど、
それでも風の噂でアルのことは耳に入ってた」
下級平民出身の青年が兵士に出世したとか、その兵士が隊長になったとか、
その時、順調にやってんだなってアルの成長に喜んでいたよ。
でも・・・
最初は良い噂だったのが、時間(とき)が経つにつれ・・・
敵国の村を焼き払い・・・女・子供容赦なく切り捨てる残忍な隊長の話・・・、
徴兵制度を強化させ無理矢理実践経験の無い若者達を家族から引き離し、
戦場に駆り出す騎士団長の話・・・、
己の出世のためなら、どんなことでもする・・・
アルは自由を求めるが故・・・変わっていった・・・。
最初は、まだ人間の世界には下克上と言うものがある・・・と言うことで
納得し・・・いや納得させていた。
あの時・・・アルの笑顔を信じたかったから・・・。
だけど・・・
自らの国の王を殺し・・・邪魔する者、
反対する者を全て処刑して、その国に軍事国家を建てた・・・
それから加速度的に、アルは・・・暴走していったんだ・・・。
アルフレッド王「我らが風の軍事大国『フリーデン』!!
我らにあだなす者は全て滅びよ!!!
我らは自由を勝ち取るもの!!」
その勢いは圧倒的だったね・・・国を打ち建てた数日で、
隣国諸国を制圧し・・・その勢力を拡大していく・・・
やり方は実に簡単、逆らわなければ殺す、全滅するまで殺し続ける・・・。
その凄絶で残虐なる手口は世界全体をも恐れさせた・・・。
もう・・・手遅れだった・・・
僕の責任だと思った・・・彼に常人とはかけはなれた力の可能性を与え・・・
開花させてしまった・・・自らの自由を勝ち取る代わりに・・・
他の全ての自由を奪ってしまう力を・・・。
そして明らかに自然の摂理に反した彼の存在を・・・
大晶霊たる僕は・・・倒さなければならなかった・・・。
シルフ「・・・これが・・・おまえの望んだ自由か、アルよ・・・」
シルフは立っていた・・・悲しげな瞳を・・・鋼鉄の城門を前に向けながら・・・。
シルフ「門を開けよ!!」
兵士A「誰だ貴様?」
シルフ「ここの王に用がある、門を開けよ」
兵士B「なんだコイツ!?、怪しい奴め!!」
シルフ「開けてくれぬなら・・・悪いが、力ずくで通してもらうぞ」
そう言うと、彼は門に手を当てた。
兵士C「そんなことでこの城自慢の鋼鉄の城門は・・・何ぃ!?」
兵士は驚いた・・・人が数十人がかりでやっと動く城門を・・・
彼は・・・片手で開いていくのだ!!
シルフ「この程度・・・風を使うまでもない」
兵士A「くっ!!ば、化け物か!?・・・チクショウ!応援を呼んでくる!!」
シルフ「今行くぞ・・・アルよ・・・」
そこへ立ちはだかる、数十人の兵!!!
兵士B「みんな!やっちまえ!!」
兵士達「うおおおおおお!!!!」
シルフ「エアスラスト」
彼は静かに言い放った、
それは人が扱う同名のクレーメルアーツとは遥かに桁違いだった・・・
兵士達が気付く間もなく、発生した風の刃によって切り裂かれていく・・・
これが本当の風・・・。
シルフ「安心しろ、加減はしてある」
その後も次々と兵士や騎士達がシルフを止めようと攻撃を仕掛けるが・・・
生身の人間如きに大晶霊の足を止められるハズは無かった。
アル王「何だと!?
突然現れた一人の青年に我が軍の精鋭達がことごとく全滅だと!?」
連絡兵「はい・・・」
アル王「「して、その者は今何処に?」
連絡兵「真っ直ぐ、この玉座に向かっているとの情報が・・・」
アル王「分かった、それと貴様はこれを全兵に伝えろ
皆、奴が来たら兵を退けと」
連絡兵「そ、それでは奴がここまで来てしまいます!!」
アル王「奴は・・・いや、あの人は人間が勝てる相手では無い
我のことは良い、さぁ急げ!!」
連絡兵「わ、分かりました・・・!!」
それから数分後・・・。
アル王「やはり来たか・・・風の大晶霊よ」
シルフ「あれから20年か・・・久しぶりだな、アル」
シルフが見たアルの姿は、
あの頃とは明らかにかけ離れており・・・軍事大国の王たる威厳を放ち
その鍛え抜かれた肉体、正に覇王たる器の持ち主だった。
そして・・・その右手には・・・剣が握られていた・・・。
シルフ「まるで、私がここに来て、
何をするかを分かっていたような素振りだな」
アル王「無論。今の我を見れば、分かる事だ」
シルフ「そうか・・・ならば・・・、人の国の王、
アルフレッドよ・・・おまえは人にあらざる力を
持ちすぎてしまった・・・それは自然の摂理を破壊するもの・・・
そしてそれを与えしは私の責任・・・よって、
風の大晶霊シルフの名において、おまえを・・・・・・倒す」
アル王「うおおおおおおおおおおお!!!!」
シルフがその言葉を言い終わるや否や真っ先に攻撃を仕掛けたのは
アルフレッド王だった!!
シルフ「・・・遅いっ・・・」
アル王「それは・・・どうかなっ!」
素直なまでの斬りを軽くかわすシルフ、しかしアル王はそれをすでに
読んでおり、剣の軌道を無理矢理変える!
シルフ「なっ!?、この反応速度は・・・」
アル王「これが・・・我が自由を得る力だっ!!」
シルフ「くっ!ウインドカッター!!」
アル王「無駄だああああ!!!!」
迎撃にうつるシルフであったが、アル王の剣は風をも切り裂く!!
それに驚いた一瞬の隙を今のアル王が見逃すハズはない!
豪快とも言える横薙ぎを放つが、
風の大晶霊の動きを捉えきることはなかなかできない。
シルフ「私の風を切り裂くとは・・・」
アル王「ああ、貴方にもらったブルーフェザーの力、
我に貴方の風は効かない!!」
シルフ「ならば、こうでどうだ・・・エアスラスト!!」
アル王「例え何が我の前に立ちはだかろうと・・・ただ、斬るのみ!!」
無数の・・・それも常人では捉えきる事が不可能なスピードで飛び回る風の刃を
ことごとく切り払っていくアル王・・・。
シルフ「それほどまでに力をつけるとはな・・・」
アル王「貴方に言ったハズだ、貴方がビックリするくらい凄くなる・・・と」
シルフ「そうだったな・・・だが、本当にそれがおまえの望んだ力なのか?」
アル王「与えた貴方が何を言うか・・・。
貴方を倒せば我の自由はすぐそこだ・・・いくぞっ!!」
もう・・・自分にはどうすることもできない・・・そう思ったよ・・・。
彼の心は彼の力自身で固く閉ざされてしまっていた・・・。心が痛かった・・・
そして僕が決着をつけなきゃいけなかった・・・。
アル王「なぜ動かん!!、隙だらけだぞっ!!」
全く動きを見せないシルフに、
アルはシルフ背後にまわり、全力の一撃を放とうとする!!
例え達人でもよけられるハズのない絶対的な間合い・・・。
アル王「これで・・・くっ・・・終わりだっ!!」
一瞬の心の躊躇・・・しかしそれは心だけ!体は確実にシルフを捉えていた!!
シルフ「許せ・・・これが真の風・・・ウインドブレイド!!」
「シュン!!」正に刹那・・・風の瞬き・・・
アル王すら一体何が起こったか分からなかった・・・
自らの剣の刃が空中に舞っていることを確認するまでは・・・
シルフ「全力を出すのは何千年振りか・・・アルよ、最後の・・・チャンスだ、
もう止めよ・・・これ以上争いを繰り返してどうなる?」
アル王「・・・愚問だな。全ては自由を得るため、
貴方は言った、自由とは誰の束縛も受けない事
全て自分の選んだ道を行くこと・・・とな」
シルフ「そうか・・・やはり私のせいで・・・」
アル王「気にすることはない・・・我・・・僕の選んだ道だ」
シルフ「・・・アル・・・?」
アル王「最後の勝負だ・・・いくぞおおおおおおお!!!!」
折れた刃を持ち・・・彼は形振り構わずシルフに突っ込んでくる・・・!!!!!
シルフ「・・・・・・こんな形で、再びおまえを空中に舞わせたくなかったよ・・・
くっ・・・サイクロン!!」
アル王「ぐお!?・・・くっ!・・・負けん・・・
ここで負けるわけにはああああ!!!!!!」
しかし、そんな彼の叫びとは裏腹に、すでに彼は空中に舞っていた・・・
もちろん、これほど凄まじい風流の中の身動き一つ取れるハズは無い・・・。
アル王「ブルーフェザーよ!!!我に・・・我に力を!!!!!」
凄まじい執念・・・己の体から全ての力を引き出すアル王・・・
少しずつ・・・少しずつだがその体は、風流の中央・・・シルフの元へと迫る・・・
そのシルフは・・・それに動じる事もなく、
しばらく静かにそれを見守っていた・・・
シルフ「私にも分からない・・・私のしたことが間違ったいたのか・・・
真に自由を望む者にその力を与えて何がいけなかったのか・・・」
アル王「何を躊躇う!貴方は風の大晶霊、
世界のバランスを破壊する存在は倒すべき存在のハズだ!!」
シルフ「アル・・・・・・」
アル王「自由を守るのが貴方の役目・・・我を倒し、
多くの者の自由を救うがいい!!」
シルフ「・・・ぐっ!!・・・シルフィード・・・」
シルフの手に風の弓が産まれる・・・それを取り・・・
彼は引き裂かれるような心の風の刃をその身に
受けながら・・・その矢を・・・
シルフ「アロー!!!!!!」
アル王「・・・・・・ガハッ!!!!!!!!!」
風の弓は・・・必殺必中・・・必ず敵に命中する・・・そして確実に敵を仕留める・・・。
静止した風の中、おちていくアルを、
シルフは静かにそして強く抱きかかえる・・・。
シルフ「アル・・・アル!!」
アル「ゴフッ・・・こ、これで良かったんだ・・・シルフよ・・・」
シルフ「私は・・・私は何てことを・・・」
アル「気にしちゃ・・・ダメだ・・・僕は・・・道を間違えた・・・だから、
裁かれて当然なんだ・・・」
シルフ「違う!!その道を・・・導いたのは私だ!!」
アル「ううん・・・シルフは、大切な事、「自由」を教えてくれただけ・・・」
シルフ「ああ、それが結果的にこんなことを・・・」
アル「はあ・・・ガハッ・・・違うんだ・・・違うんだ・・・
大切なのは・・・心・・・シルフ・・・僕の体を・・・
あの蒼い羽根を宿した体を・・・見て・・・」
シルフ「何を・・・!!これは・・・」
そう・・・アルの胸にはシルフが宿したブルーフェザーと、
もう一つの小さな小さな蒼い羽根が宿っていた・・・。
シルフ「ま、まさか・・・これは!?」
アル「そう・・・ブルーフェザー・・・と、同じ・・・
人間はね・・・持っていたんだよ・・・最初から・・・」
シルフ「そ、そんな・・・!!、私はおまえに無理矢理2枚目を・・・」
アル「しょうがないよ・・・大晶霊でも知らないことの一つや二つ・・・
あるんでしょ?」
シルフ「わ・・・私は・・・一体・・・何を・・・」
アル「シルフ・・・姿・・・が!?」
シルフの姿が・・・少しずつ少しずつ・・・若返・・・違う・・・
子供の姿に戻っていく・・・。
シルフ「・・・気にするな・・・晶霊は精神的な痛みを受けると
肉体が非常に敏感に反応する・・・少しばかり
幼児退行を起こしてしまっただけだ・・・そんなことより!!!」
アル「ふふっ・・・その顔・・・僕の小さい時の顔と・・・
シルフと出会った頃の顔とそっくりだね」
シルフ「そうだな・・・!?・・・アル・・・おまえ、喋り方が・・・」
アル「ウッ!・・・ガッ!・・・さ、最後に伝えたい事が・・・あるんだ・・・」
シルフ「もういい・・・もう・・・喋るな・・・」
アル「人間はね、産まれた時から体に宿されている蒼い羽根を、
自分の成長と共に
ゆっくり・・・ゆっくり育てていくんだ、なぜかは・・・」
シルフ「分かっている・・・いや、分かった。
力だけが優先してしまわないように心も育てなければ
ならないからだ」
アル「うん・・・それもあるけど・・・本当は、心の方が大切なんだよ・・・
何者にも束縛されない心・・・自分の選んだ道を進もうとする心・・・」
シルフ「それが風の心・・・」
アル「そう・・・僕はね、多分、ちょっと急ぎすぎちゃったんだと思う・・・
だから力しか見えなくなっていた・・・」
シルフ「私が・・・成熟したブルーフェザーをおまえに宿したばかりに・・・!!」
もうシルフの姿は、8〜10歳の子供となんらかわりがなかった・・・。
今は抱きかかえると言うより、支える形となっていた。
そしてアルもまた、姿は大柄の大人であったが・・・
口調は完全にあの頃に戻っていた・・・。
アル「違う・・・僕の心が弱かっただけだよ・・・だから自分を責めないで・・・
シルフお兄ちゃんは・・・
これから・・・伝えていかなくちゃ・・・風の心を・・・」
シルフ「ああ・・・分かった!!」
アル「約束だよ・・・ほら・・・」
これだけは変わっていない・・・約束の小指の誓い・・・
『指きりげんまん、嘘ついたら針千本の〜ますっ!』
アル「うっ・・・痛っ!!・・・シルフ・・・お兄ちゃんは、大晶霊なんだから
嘘ついたら、ちゃんと千本飲むんだよっ♪」
シルフ「ふふっ・・・もちろんだ」
アル「良かった・・・ふぅ、ちょっと・・・疲れたかな・・・
ごめん・・・僕、少し眠るね・・・」
シルフ「!!・・・ああ・・・おやすみ・・・」
アルは・・・静かに息をひきとった・・・。
まるであの頃のような無邪気な笑顔で・・・
私はアルの大好きだった大空へ・・・
彼を還した・・・せめてもの『つぐない』に・・・。
そして私の元には、本当の自由は常にその人の心の中にある・・・
と言うアルの言葉と、一枚の蒼い羽根が残った・・・・・・。
シルフ「今でも僕の罪の意識は消えてない・・・
それでもアルは僕に言った、風の心を伝えて言ってくれ・・・ってさ
だから僕は、今もココにいる」
イフリート「それでいいんじゃねーのか?オレだって、
そういうの背負って今を生きているぜ」
シルフ「そうだね・・・最近アイツら見てると、
ちょっとそういうこと分かって来たかな」
ウンディーネ「彼女の・・・ことですか?」
シ「うん、彼女はおかしてしまった過去を自分と
仲間達の力で越えることが出来た」
セ「なら、今なら貴方もできるんじゃない?」
ノ「そ〜いうことだよ〜ん♪」
ヴォルト「ウム」
シ「まぁ、そう簡単にってワケにはいかないけどね
・・・それでも・・・うん、ありがとう!!」
シ「アル、僕はおまえを忘れないよ・・・このブルーフェザーと共に・・・
約束だって・・・絶対に忘れないよっ!!」
☆お約束?設定図鑑♪
・ウインドブレイド
読んで字の如く、風の刃である、
アダルトバージョンの頃の彼は剣も使えたらしい。
あまりに高速の刃であるため、人には何が起こったかすら分からない。
おそらく瞬間の速度のみなら、全大晶霊NO.1(ただし統括・高位は除く)
術ではなく、彼専用の武器と考えてもらった方が良い。
お子さまバージョン時に使わないのは、
単に似合わないからであろう。(笑)
その代わり弓の腕が上達し、空中戦の技量は上がったと見られる。
・ブルーフェザー
その正体は、人が元々宿しているもの。
人の心の成長と共に羽根も成長していく。
これが本来のブルーフェザーの育み方。
フィブリルとも前回のセカンド・アイズとも違い、
はじめから誰もが持っているものである。
創造者であるシルフすら、この事に気付いていなかったことから、
やはり人間には、まだまだ
知られざる事柄が眠っていると言うことだろう。
・今のシルフ
アダルトバージョンのシルフが、
あまりの精神的ショック(本文参照)により、
幼児退行(肉体が)を起こしてしまった姿。
大晶霊がそういう外的なもにによって
傷害を受けやすいことはゲーム中のセルシウスの件を見ても
分かるハズ(彼女は繊細って言う設定がありますけどね)
が、実は元の姿に戻れない事はない、
それでも今の姿でいるのは、過去の出来事についての
自分への戒めのため・・・そしてアルを忘れないためであろう・・・。
遊人
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■作者からのメッセージ
言語表現不足って感じかなあ・・・(未熟未熟)
それでもじょじょに少しずつ上手くいってるかな?なんて実感も少しあるんですけどね。
しかし・・・やっぱり2話構成は辛いな・・・。