クレーメルメモリー「氷」〜ふゆトマトの温もり〜後編
そんなことがあってから、わたしは、ますます自分見たいな冷たい存在が
暖かい心持つなんて、できないって決め付けるようになっていた。
それでも・・・なぜか体は、ふゆトマトを育て続けていたわ・・・。
それから・・・十数年の月日が流れて・・・
わたしは相変わらず無気力状態が続いていたわ、
ほとんどバテンカイトス・・・精神世界の方にいて、
ふゆトマトの世話の時だけはこっちの世界に出てきてたかな・・・、
自分の心の檻の中に・・・そう臆病になっていたのね。
今年もまた、ふゆトマトの収穫の時期がやってきて、
わたしはこっちの世界に出てきた。
そんな時だったわね、あの少女が来たのは、
???「えっと・・・あの・・・セ、セルシウス様ですか?」
びっくりしたわよ・・・いくらこの時期が一番寒くない時だからと言っても、
この地は常に氷点下の世界・・・今だってすぐそこで吹雪が起こっている。
そんな中、たった一人の少女がここまでやってくるなんて・・・。
セ「え、ええ・・・そうだけど・・・貴方・・・は?」
???「あっ!、ごめんなさい!!・・・
こっちから呼んでおいて名乗らないなんて失礼ですよね、
私、ツクヨって言います!!」
セ「ツクヨちゃんね、でも・・・
よくこの極寒の地に足を踏み入れてここまで辿りつけたわね」
ツクヨ「そう・・・なんですよねえ、
私もちょっと無茶かなぁって思ったんですけど
なぜか私が歩く道はあまり雪が積もってなかったり、
吹雪も急に止んだり・・・多分、運が良かったんだと思います」
わたしもしばらくあんな状態だったから、力が鈍っていたのね、
その時は気付いていなかった、彼女を暖かく見守る存在のことを。
セ「ツクヨちゃんは、ここへどうして来たの?」
ツクヨ「それなんですけど・・・うーん・・・なんて言うか・・・
私、生まれついての不治の病があるんです!」
元々、こういう娘なのかどうかは分からなかったけど、
彼女は、特に暗い顔をすることもなく
ケロリと、その事実を語った。わたしは逆に呆気にとられたわ、
けど、すぐ思い出した・・・『不治の病』・・・そう、ムツキのことを・・・。
ツクヨ「あ・・・ごめんなさいっ!私ったら・・・やっぱり、
いきなりこんなこと言われたら、びっくりしちゃいますよね?」
セ「う・・・うん、そりゃ・・・そうね」
ツクヨ「お医者様からも言われた・・・ううん、聞いちゃったんです、
ここまで生きてるだけでも奇跡だって、
なんかそんなこと聞いちゃうと
逆に、生きたい!って思っちゃうじゃないですか!」
セ「・・・随分と前向きなのね」
ツクヨ「セルシウス様もそう思います?、
人からはお母さん譲りの芯の強さって言われてます」
セ「そうなの・・・それで・・・ここにはどうして・・・?・・・もしかして・・・」
ツクヨ「んっと・・・ふゆトマトを食べにきましたっ!!」
セ「・・・ごめん・・・」
ツクヨ「えっ?」
セ「わたしのゆふトマトに万能薬の効果があると思って来たなら
・・・間違いなの・・・
そんな言い伝え・・・ごめん・・・ごめんなさい!」
ツクヨ「それは・・・麓の村の人達からも聞きました。
でも、そういうことじゃなくて・・・
ただ、純粋にセルシウス様の作った、
ふゆトマトが食べて見たいなぁって思っただけなんです!!」
セ「純粋・・・に?」
ツクヨ「はい!、こんな植物も育たないような地で、
育つふゆトマト・・・そしてそれを
育てるセルシウス様、素敵だなあって思ったんです」
セ「そんな・・・わたしはただ・・・」
ツクヨ「この地でセルシウス様のような優しい人に育てられて
一生懸命育った、ふゆトマトを食べれば、きっと、
私だって、まだ・・・まだ生きられる・・・うん、生きる力を
もらえるんじゃないかなって」
セ「そんな大層なものじゃない・・・
けど、けど・・・そこまで言ってくれるなら・・・」
わたしは、収穫したての、ゆふトマトをツクヨに持っていった。
ツクヨ「わぁ〜!!綺麗・・・
見ているだけで胸いっぱいになっちゃいそうですね♪」
セ「ふふっ、ありがと」
ツクヨ「でも・・・やっぱり食べなきゃ!、では!いただきます」
「シャリッ!」粋のいい音を立てながら、ツクヨは、ゆふトマトをほうばる。
ツクヨ「美味しい〜!!、こんな美味しいもの食べたのはじめて!!
ひんやりしてるんだけど、食べて見ると不思議!
お腹の中でパ〜ってあったかくなる!」
セ「そんな・・・美味しいだけで・・・お世辞はいいわよ♪」
ツ「お世辞だなんて・・・そんなことないです!」
セ「ほ・・・ほんとに・・・?」
ツ「もちろん♪」
セ「ありがとう・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」
それからしばらく、ありがとうを繰り返してた・・・ホント嬉しかったのよ、
私の中に少しずつ・・・少しずつ・・・何かが芽生えはじめていた。
ツ「あの〜、セルシウス様」
セ「なに?」
ツ「私、ここでしばらく、ふゆトマトの栽培のお手伝いがしたいんですけど、
いいですか?」
セ「えっ・・・わたしは構わないけど、でも・・・貴方、体が・・・」
ツ「はい・・・お医者様が言うには、
いつ発作がきてもおかしくない状態って言ってらっしゃいました」
セ「なら、なおさら!!」
ツ「でも・・・私、このまま黙って死を迎えるなんて、絶対イヤなんです!!
生きて・・・生きて生きて・・・
最後まで精一杯生き抜くって決めたんです!!」
セ「ツクヨ・・・」
ツ「セルシウス様のふゆトマト、美味しかった、
食べさせて頂いたお礼と、私も育てて見たいんです!
お願いします!!」
セ「・・・・・・どうせ、ダメって言ってもきかないだろうしね、分かったわ」
ツ「ありがとうございます!!」
そうして、わたしとツクヨ、二人の、ふゆトマト栽培がはじまったの、
本当に楽しい一年だったわ、種をまき・・・肥料をやり、
吹雪で飛ばされないようにしっかり守って・・・二人で、
ふゆトマトの成長を少しずつ・・・少しずつ・・・その少しずつの成長に
喜び合いながら・・・そしてついに!収穫の時期を迎えたわ。
セ「ツクヨ〜!ツクヨ〜!何処行ったのかしら?、
これから収穫しに行くって時に・・・
ツクヨー!!・・・・・・ツクヨ・・・?・・・!!、ツクヨ!!」
あの日の悪夢が・・・再来した・・・。直感的にそう思ってしまった・・・。
ツクヨは・・・彼女・・・ムツキと同じ様に血を吐き・・・倒れていた・・・。
ツ「はあ・・・はあ・・・セルシウス・・・様・・・?」
セ「ツクヨ!!ツクヨ!!しっかりして!!」
ツ「だ・・・大丈夫ですってば♪・・・この・・・くら・・・カハッ!」
セ「ツクヨ!!ツクヨ!!ツクヨ!!」
ツ「ごめんなさい・・・ちょっと・・・
せっかくの収穫なのに・・・ここまで来たのに・・・
悔しい・・・悔しいよお・・・」
セ「!!・・・ダメ!!・・・死んじゃ・・・死んじゃだめええええ!!!!!!!」
咄嗟に外に飛び出した・・・絶対・・・絶対に死なせたくなかった!!
無意識にわたしは・・・向かった・・・『ふゆトマト』の元に!!!
でも・・・『ふゆトマトの前に立った時』、我に返ってしまった・・・。
セ「!!、どうして・・・私はここに・・・違うのに・・・
これは万能薬なんかじゃないのに・・・
救えないのに・・・わたし・・・わたし・・・」
手を地面につけ・・・わたしの頬からは涙が伝っていた・・・
すぐに凍っちゃうような涙だったけどね、
わたしにはお似合いなんて・・・絶望の淵に立たされていたわ・・・
でもね、その時、聞こえてきたの、
???「勇気を出して!
一生懸命・・・願って!想って!!奇跡は・・・きっと起きる!!」
セ「!!!・・・願う・・・想う!!!」
わたしは、ありったけの願いを・・・想いを!!ふゆトマトに託したわ・・・!!
あの娘を・・・助けたい!!!
セ「ツクヨ!!!!! これを・・・これを食べて!!」
ツ「セルシウス様・・・あ、ふゆ・・・トマト・・・」
セ「そうよ!!わたしと貴方で、二人で作ったふゆトマト!!」
ツ「うん・・・!!、負けない・・・負けない!!」
残りの力全て、
最後の一噛み・・・最後の一飲み込みに、彼女は全てを託した!!
「ゴクン・・・」飲み込む・・・そして、
一瞬、静寂なる時の流れが辺り一体を支配する・・・。
整わない呼吸・・・高鳴る鼓動・・・わたしは奇跡を・・・強く想った!
セ「ツクヨ・・・?・・・ツクヨ!!・・・ツクヨ!!!」
ツ「(にこっ)」
セ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
奇跡は・・・・・・起こったのよ!!
セ「・・・良かった・・・ホント良かったよお・・・・・・」
ツ「グー・・・グー・・・zzz・・・」
セ「こ、この娘ったら!、人がどれだけ心配したか・・・」
その時からかな、あたしが泣いてもその涙は凍らなくなったのは。
その夜は、ずっとツクヨを見守っていた。
ツ「ん、う〜ん!!、
おはよーございまーす!って・・・アレ?セルシウス様・・・?」
セ「グーグー・・・」
ツ「人がせっかく完治!したって言うのに・・・まったくもー!
でも・・・本当に・・・ありがとうございました!!!」
自分のかけられていた毛布をセルシウスにかけ、
自分は外の朝日を満喫していた。
もちろん、セルシウスは氷の大晶霊、
寒さを感じるハズはないし、彼女もそれは分かっていた、
でも、その行動が「心の暖かさ」「心の温もり」なのである。
セ「じゃあ、そろそろ行こうか」
ツ「はい!、すいません、送ってもらって」
セ「気にしない気にしない♪」
セ「っと、ここでいいかしら?」
ツ「はい!!いろいろとお世話になりました」
セ「ううん、こちらこそ、貴方にはいろいろと教えてもらったわ」
ツ「え?」
セ「深く考えない♪」
ツ「ぶー、気になりますよお!」
セ「それより、一つ聞くけど」
ツ「なんですか?」
セ「貴方のお母さ・・・ううん、やっぱりいいわ」
ツ「?・・・そうですか!、では、行きますね!」
セ「ええ、気をつけて帰るのよ」
ツ「はい!、あ、それと、また遊びに行っていいですか?」
セ「もちろんよ♪」
ツ「わぁい♪、ぜぇぇぇったい!
行きますからね!それじゃ、さようなら〜!!」
セ「待ってるわよ、バイバイ♪」
帰り道
セ「貴方には2度も助けられたわね、ムツキ」
彼女は誰もいないハズの場所に話し掛ける・・・。
セ「娘を想う母心か・・・凄いね、貴方は
でも、わたしの想いだって、なかなかのものだったでしょ? ふふっ」
誰もいないハズのその場所から・・・静かに何かが微笑みかける。
セ「ありがとう、あの娘の事、見たでしょ?
もう大丈夫♪あたしだっているんだから、
だから、貴方はもう静かにお眠り」
安堵の笑みと一礼を残し、彼女は・・・天へと昇っていった・・・。
イ「うおおおおおおん!!!!いい話じゃねえか・・・ちくしょう・・・」
セ「あなた・・・頼むから、いい男が泣くんじゃないよ・・・」
ウ「まぁ、良いではないですか、素直な感情の現れですし」
セ「(今私を想ってくれる人・・・)
イ「うおおおおおおおおん!!!」
セ「(絶対、こいつとは違うと思うけど・・・こいつは心が暖かいんじゃなくて
体が暑苦しいだけだしね・・・でも、まぁ、どうかしらね)」
イ「うおおおおおおおおおおおおん!!!」
セ「もうっ!うるさいっ!」
イ「おおっ!良かったぜ、セルシウスはそうこなくっちゃな!!
オレも安心したぜ」
セ「!!、バ、バカなこと言ってるんじゃないの!!(照)」
イ「バ・・・バカ・・・」
セ「(まさかね・・・・・・)」
今年もまた収穫された ふゆトマトを手に取り彼女は言う、
セ「今なら確かに感じれる・・・この、ふゆトマトの温もりを・・・」
いつまでも・・・何処までも届け・・・私の想い」
☆日課の設定図鑑☆
・ツクヨ・アマモリ(天守 月夜) 年齢 14歳 女
普段は、ちょっと控えめでおとなしい、が、
自分から何かをしだす時は実に行動的に。
って言うのが最初の設定だったけど、
何処が控えめじゃいって感じになりましたね。(笑)
芯の強さ・生きる意志は母親譲りらしい。
バレバレ(笑)だけど、母親の事はこれ以上深くは語りませぬ。
・ふゆトマト
これの設定自体は、なんら変わりはありません♪
けど!、でもね、奇跡は起こるんです!!(叫)
・元ネタ?
直接ネタにしたと言うより参考になったのが、
浪○倶楽部2巻のお話ですね。
分かる人だけニヤついてください。(笑)
しっかし、改めて読むと、ええ話ばかりやのう・・・浪○倶楽部・・・(しみじみ)
遊人
http://www5.ocn.ne.jp/~ingaku/
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■作者からのメッセージ
多分、今までの作品の中で一番「素直」に書けた作品だと思います。
自分でもちょっぴし満足げ。(笑)
今回は、あえて前編に死を持ってくることによって、後編でハッピーエンド♪と言う形にもっていってます。
じゃあ、インフェリア大晶霊達はどうなるんだ!?って
なるんですけど、元々セルシウスって辛い立場なんですよね。氷って他の大晶霊達と違って、直接恵みを与えるものじゃないし、寧ろ苦しませる事にもなりかねない。。
ゲーム中でも繊細を理由に、あんな風にされてますしねえ。
それでもペイルティの人は優しいセルシウスって言ってますから、今回の話のような転機がセルシウスにあったのかなあって思ったり。