Repeat Program


 生き物達の住まう惑星があった。まだ文明の進まない、平和な星だった。
 だがそれは惑星の外の者達によって発見されて一変する。その惑星は、彼らに都合のいいように改良されていくことになる。
 文明の進んでいない惑星の住民達にはなす術があるはずもなく、外の者達によって、惑星の整備が終わった。
 そして外の者達はその惑星の住民を利用することを考えた。
 労働力確保の為に、彼ら一人一人に合った様々な役割を与え、役割に応じた教育がされていった。
 仕事で臨機応変に対応できるようにするために思考能力も与えられた。労働力としては疲れを知らないほうがいいが、痛覚が無いと、反逆を起こしたときに制圧できないため、疲れの感覚だけを麻痺させた。
 また、住民達がいつか強制的な押し付けに気がつき、自分達の知識を飲みこみ、逆らう事を恐れた外の者達はこの世界にたった一つの掟をつくった。

“自分の存在を疑ってはならない”

 自分は何故こんなことをしているのか、何故ここに存在しているのか。その意味を考えてはならない。

 しかし、どんなに教育を施しても、欠陥は生まれる。
 自分が利用されている事、監視されて生きている事を理解したものもいた。が、必要の無いものは消去が好ましい。
 だが、住民を殺すわけにはいかない。殺して余るほど、労働力があるわけではないからだ。
 そこで考えられたのが牢屋だ。欠陥を押し込んでおく、最適の場所。しかし、ただ入れておくだけでは意味がない。そのため、欠陥には記憶消去という罰を与える事にした。牢に入って一定期間が過ぎれば、その欠陥を正常なものにするための作業が行われ、再び世界に返っていく。惑星では永遠にこの作業が繰り返され、死ぬことはなくただいきるのみだった……。

 ある牢屋の中にスピーカーと呼ばれるものがいた。
 コツン…
 物音がした。
 ただ静かなだけの牢屋での物音は珍しい。
 不思議に思ってふいに顔を上げると、その先に一人の少女がいる。
 どこから入ったのかは、わからない。
 気がつかなかった。
 少女が何かを喋った。
 この牢のもの達は、番をしているものの話を聞き、話すために必要な言葉を学習している。
 勿論スピーカーもである。
 だから少女の言葉は簡単に理解できた。
「ここから出よう」「外に行こう」
 理解できたが、不可解だった。
 記憶を消されたもの達は、万が一の為に一時的に生きる意思を取り上げられる。記憶消去はまだ一定期間中は不安定で、ふとした拍子に思い出してしまう事もまれにあるからである。その間に牢屋を逃げ出されると、困るのだ。その記憶の中の考え方を他に広げられたくないのだろう。だからスピーカーは少女の言っている事が完全には理解できなかったのだ。
 何故ここを出る必要がある?別にいいじゃないか。
 生きる意思を失っているスピーカーには、その少女は奇妙な存在に見えた。
「ドウシテ…?」
 スピーカーは覇気のない声で呟いた。
「ドウシテ、ソトニイコウトシテルノ…?」
 少女は当たり前のように答えた。
「かわいそうじゃない。」
「カワイソウ…?」
 キリッとスピーカーの頭が痛んだ。
「こんな狭い場所にずっといるのがかわいそうじゃない。」
「ソウ…ナノ……?」
 また彼の頭が痛む。
 …ナニカ…ワスレテル……?
「自由になろうよ。私と同じで、生きているんだもの、君も。」
 キィン……
 強く、強く頭が痛んだ。
 イキテイル……イキル……生きる……?
 ジユウニ……ジユウ……自由……?
 思い出せない。
 思い出せないけど、でもずっと昔、大切だと思っていた気がする。
 急に、生きる気力が湧いてきた、気がする。
 出なきゃ、ここから出なきゃ。
 そう心の奥が叫んでいる。
「行こう。」
 少女の言葉に彼は頷いていた。
「じゃあ、こっちだよ。」
 彼女は微笑んだ。
 今まで記憶消去に伴う無気力から誰も逃げる事を考えたりはしなかったため、牢屋の警備はほとんど無いに等しい。いるとすれば番をしているもの達だけ。しかし彼らはずっとこちらに背を向けて話しこんでいる。よって、逃げ出すことは驚くほど簡単だ。
 そして牢から逃げ出した。

 暗い暗い道を少女は彼の手を引き、どんどん進んでいく。
 どこへ行くのか、彼には何の当てもない。
 彼の知っている場所は、あの牢だけだから。
 そして、少女は話しだす。
「君はね……」
 彼はスピーカーという、話す事を仕事としているものだった事。この世界の掟の事。
 そして生や自由について疑問を持ってしまったために、牢に入れられてしまった事。
 彼にとっては意外で、驚愕に満ちた内容であったが、何故か嘘だとは感じなかった。どこかで、肯定している自分がいたからだ。
 歩いているうちに、少し開けたところに出た。
「ちょうどいいから休もうかな。」
 少し息を切らしながら、少女は提案した。
 この惑星のものは疲れを知らない。が、少女には疲れるということがあるらしい。
 彼は特にやることも無いので、その場に腰をおろした。
 もしかしたら、少女はこの惑星のものではないのかもしれない。
 そんな疑問を考えてもみた。
 それから、どのぐらいこの場にとどまっていたのか…。
 少女はいきなり立ち上がり、慌てた様子で言った。
「…来た、行かなきゃ。」
 そして彼の手をつかみ、ここに来たときよりさらに急いで進んでいく。
「どうしたの?」
「しっ!見つかっちゃう!」
 逃げたことに気づかれ、追手が近くまで迫って来ているようだ。
 彼は少女の言葉に従い、ただ手を引かれながら早足で暗い道を行く。
 すると、突然甲高い音が響く。
 近くにあった小石が鋭い音をたてて飛ぶ。
 はっと少女が目を見開く。
 周りには黒い金属らしい物を構えたたくさんの男達…。
 すっかり、囲まれていた。
 にじり寄ってくる男達を、少女はきっと睨みつけた。
 少女は手を広げ、彼を守ろうとしている。
 しかし、少女の抵抗も空しく、再び甲高い音が響く。それと同時に鈍い…そんな痛み。
 そして、少女の悲鳴が聞こえた。
 彼は倒れる瞬間に、少女が立っていた場所を見上げた。が、少女の姿を見ることはなかった。
 そうして、彼の意識は消えていった。

 朝。いつも通り来るもの。
「起きた?」
 静寂を破るように突如として生まれる音。
 そこには見知らぬ少女がいた。
「行こう。外に。」
「ドウシテ…?ドウシテ、ソトニイコウトシテルノ…?」
「かわいそうじゃない。」
「カワイソウ…?」
「こんな狭い場所にずっといるのがかわいそうじゃない。」
「ソウ…ナノ……?」
「自由になろうよ。私と同じで、生きているんだもの、君も。」
「……………」
「行こう。」
「ウン…」
 そして牢から逃げ出した。

 そうして今日も、甲高い音と少女の悲鳴が響く。

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さて、唐突ながら後書きです。
今まで書こうかどうしようか迷ってきたのですが、この際ですし、書きます。
この話を書く経緯。と言うか、なぜ私なんかがお話を書いたのか?と言うと、(中三の時に)学校の国語の宿題で「原稿用紙3枚程度でお話を書く」と言うものがあったからでした。また、このお話を書く。と言うのは、どんな話でも良い訳ではなく、皆が名詞と動詞を一つずつ書き、その紙をくじ引き形式でひき、自分の課題を決める。と言うものでした。そして、私のお題は・・・「スピーカー」「逃げる」・・・。始めに思いついたのは、学校や家にあるスピーカーに手足がにょっ。と生えて、うぉぉぉ〜!!!なんて言いながら走り回って逃げるものでしたが、在り来たりすぎて面白くないし、個人的にも嫌だったので却下。もう少し考えてはみましたが、他に良い案も無くもう少し悩んだ挙句出た結果が・・・悩まなくても、まだ時間はあるわけだし漫画の続きでも読もう。という事でした。
そして、私の予定通り(?)に漫画を手にとり読み始めました。その漫画は、この前から読み返し始めていた天使禁猟区と言う漫画でした。
一冊読み終わり、ふと思いました。スピーカーって、何も物のスピーカーじゃなくても良いのでは?スピーカーって言ったら、英語では・・speakerだし、話す者。っていう風にとらえてもおかしくは無いよなぁ?んじゃ、やっぱり話す者。って言ったらお仕事かぁ〜。権力者が居て、その人の思っている事を他者に伝える・自分を通していろいろな事を話す。みたいな仕事とか・・・?何となく、それって秘書さんっぽいかも。権力者とか、お偉いさんとかそういう人に常に寄り添ってるわけでしょ?
そうだよなぁ。(以下、頭の中で話を作るまでの行程。ぶっ飛ばしてくれてOK)天禁(天使禁猟区の略)のカタンっぽいかも。いつも、ロシエルの事ばっかり考えてる感じで、常に寄り添ってたし。何か・・・スピーカーのイメージって・・カタン??それに、そう言えばさっき読んだ所でカタンは(ある意味)閉じ込められてる状態で。そこに連れて来られた一人の天使・ティアイエル(略してティアラ)は、カタンに一緒にここから出よう。って言ってた・・・。やっぱり、逃げるって言うのからして、牢獄だよなぁ〜。(何故)そしたら、カタンは牢屋に入ってて、そこにティアラが来て逃げる、と。ふむふむ。でも、じゃぁ何でカタンは牢屋に居るんだ?むぅ〜。何か設定欲しいよな。じゃぁ、スピーカーって仕事があることにして、それで、その仕事をする事にまったく不平不満を感じない彼ら、ある惑星の住人。てことは、やっぱりそれを支配している他の惑星の人たちがいるわけでっと。


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