輝きの海 ACT5
イツキはやっぱりただの子供じゃないらしい


 イツキとクリスを捜す一行は、恐らくこの洞窟の「ゴール」であろう場所に辿り着いていた。
 壁を掘って作ったと見られる人工的な空間の中央に、大きな穴が空いている。
「恐らく、この下にイツキやクリスティーナさん……そして、この洞窟の主がいるのでしょう」
 エレンが、確かめるように言った。
「でもよ、この穴……かなり深そうだぜ?行って戻ってこれる保証はあるのか?」
 レイガが心配そうに言う。たとえロープの類があったとしても、それを引っ掛ける所が無いのだ。
「そんなことはどうでもよい!」
 ルーフェイが怒鳴る。
「こうしている間にもシスター・クリスやイツキの身が危険にさらされているやもしれぬというに……もはや迷う理由など皆無!俺は行くぞ!」
 そう言うなり、彼は確かめもせずに勢いよく穴に飛び込んでいった。
「あっ、ルーフェイさん!?」
 レイガが慌てて後を追う。
「……俺達も行こう」
 アゼルは皆を促すと、自らも飛び込んだ。
 続いてミルフィーユが、エレンが、そして少し遅れてぜフィーが、次々に一方通行の道を通っていった。



 ぼふっ!

「おわ!?」
 待ち構えているのは堅い岩肌だとばかり思っていたレイガは枯草を敷き詰めたクッションに足をとられてバランスを崩し、仰向けになった。
 たった今自分が落ちてきた穴が見える。かなり深いところまで落ちてきたらしい。少し、潮の匂いがした。それもそのはず、彼らが今いるのは海の中なのだ。

 と――

 ぼふっ!ぼふっ!

 むにゅっ!

 レイガの顔面に、柔らかいものがのしかかってきた。
「いったぁ〜い……」
 "それ"はレイガの顔面からどこうともせずに何か言ったが、彼には聞き取ることができなかった。
「そうか?俺はちっとも……」
「私もよ」
「私も平気です……」
 ミルフィーユが言うと、彼女と同時に飛び込んでいた三人が口々に彼女とは反対のことを言った。
「えー?どうしてわたしだけ……」
「おい゙……ミルフィーユ」
 彼女のいる場所の真下から、苦しそうな声が聞こえてきた。
「え?……レイガ?どこにいるの?」
 辺りをきょろきょろ見回すが、彼の姿はどこにもない。
「お前のでげぇケツが邪魔で、鼻で息がでぎねー。マジ苦じい……」
「ほへ?」
 目が点になる。
「だがらっ!お前のケツの下だっづーの!」
「……嘘ぉ!?」
 慌てて退くと、確かにレイガの姿があった。
「きゃーー!?ごっ、ごめんごめ……ん?」
 不安定な足場の上で、座って頭だけペコペコ下げるミルフィーユだったが、ふとそれをやめると――
「……謝んなきゃいけないのはレイガじゃんか。純真なオ・ト・メvの可愛いお尻に顔をうずめた挙句、それに文句つけるなんて……」
 その顔にだんだん憎しみが浮かんでくる。
「……だ〜れが『純真なオ・ト・メv』だよ……」
 あさっての方向を向いてレイガがつぶやく。
「言ったわね!?もぉ許さないんだからぁ!」
「んな!?ちょっと待て、さっきのにしたって明らかに事故だし、お前が原因だろ!?」
「問答無用!覚悟なさぁ〜いッ!」
 ついに逆恨みを爆発させたミルフィーユから、枯草を掻き分けて慌てて逃げ出そうとするレイガだった。
「……どいつもこいつも……俺は先に行ってるからな……」
 一足先に床に降り立っていたルーフェイは、その背中に哀愁を漂わせながら歩いていった……



「ふむ……変態……」
 セルヴはさして痛がる様子もなく、おもむろに右手を前に出し、掌をクリスに向けた。
「魔族を侮辱した罪は万死に値する」
 そして、彼が魔力を集中させると――
 音もなく、クリスの体が吹き飛んだ。牢屋の壁に勢いよく背中からぶつかる。
「あ……ッ」
 視界がフラッシュし、徐々にぼやけていく。体が思うように動かない。恐怖によるものではなく、純粋に肉体的ダメージによるものだ。
「どうした、口では強がっていてもその程度か。まさかもう終わりだと言うのではあるまいな?」
 セルヴが嫌味な笑みを浮かべてクリスを見下ろす。彼女が反応を示さないので、彼はクリスを無理やり立たせた。
「人間とは、何と脆く弱い生き物なのだ……」
「…………アンタなんか……」
 混濁する意識の中で、やっとの思いでクリスは言葉を紡ぎ出す。
「アンタなんかね、都会のオトコに比べりゃ、ちっとも怖かないんだから……アンタなんかイモよ、イモ。サル山の大将が、お似合いね……」
 その声には勢いが無いが、言ってることは相変わらずキツい。目の焦点がズレて像がぼやけてしか見えないが、彼の顔面がピクピク痙攣しだすのがわかった。
「貴様……どこまで私を愚弄するか!」
 セルヴは彼女の左頬を容赦無く右平手で叩いた。
「うぁっ!」

 ガ ッ 。

 鉄格子にしたたかに頭を打ちつけたクリスは、頭から血を流しながら気を失っていった。生暖かい血が彼女の髪を紅に染めていく。
「ち……少々手加減を誤ったか。まあ死にはせんだろう。脆いくせに生命力だけはゴキブリ並だからな、人間とは。ハーッハッハッハッ……」
 セルヴはさして後悔もしていない様子で、冷たく言い放った。
「セッ……セルヴのおじちゃん」
 それは彼にとってとても勇気のいることだったが、恐怖に支配されていたイツキが、捕まったその時から思っていたことを訊いた。
「俺をこんなトコに閉じ込めてさ、いったいどうする気なんだよ?」
「……転生の副作用で記憶を失ったか?教えてほしくばメルビに訊くがいい。奴が全てを知っている」
 明らかに何かを知っているようにセルヴが言った。しかし、イツキにとっては全くワケがわからない、初耳なことだ。イツキが困惑していると、セルヴは念を押すように訊いた。
「思い出せ。貴様は何故ここに来た?」
「なんでって……ずっと前からここをタンケンしたかったんだ」
「本当にそうか?」
 セルヴが問い詰める。
「……う……」
「貴様は来るべくしてここへ来たのだ。そして今、再び我らの友となる!『我ら』魔族に幸あれ!」
 大げさな身振りとともにセルヴが高らかに叫んだ。
「……だってさ、メルビ。教えてくれよ」
「キュー……ククィー」
困ったようにひとつ鳴くと、メルビはクリスの傍に駆けていった。
それを見てイツキの迷いはふっきれた。
「……おじちゃん、俺はおじちゃんの言ってることはなんだかサッパリだけど……」
 イツキは大きな瞳でキッとセルヴを睨んだ。
「クリスねーちゃんのカタキは、ぜったいにやっつけてやるんだからな!」
 それを聞いたセルヴが、ある種満足げな笑みを浮かべる。
「フ……フハハハハッ!それでこそ誇り高き魔族!面白い、やってみせろ!だが、その脆く弱い器で何ができる?強がりは記憶を取り戻し、本来の姿に戻ってから言うのだな!フハハ……」
 高笑いを中途半端なところでやめると、セルヴはくるりと背を向け牢屋の外に出た。
「大好きな『パパ』のお出ましのようだな。ククク、父親が目の前でただの肉塊となっていく様をその目に焼き付けるがいい!」




九十九
2001/08/04(土)21:54:20公開
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
◎いわゆる後書きの本文。
なんと申しましょうか、私はバトルの中でも負けバトル書くのが好きっぽいです。
そーゆーの書いてると燃えます。女キャラなら萌(強制終了)
……えー、失礼しました。とにかくですねっ、気合入れて書いてるんで勘弁してくださいっ。
……ゆ、許されるわけありませんよね^^; 埋め合わせはいつかしますから……−−;
えーと、大丈夫です。たぶん死にませんから。
★組み合わせ秘話:ルーフェイ&イツキ編
さてさて、この二人は応募して下さったキャラの中でも最年長&最年少となっております。
非常に貴重な存在で重宝しております(^^
イツキみたいなキャラがいると、必然的にその親も必要なワケですね。
ところが皆様若者キャラばっか投稿されるもので、半ば強制的にこうなりました^^;
結果としては「親が親なら子も子だな」ってカンジになったのでは?とまぁ、とりあえず満足です^^;
※次回は「アゼル&レイガ&ミルフィーユ」です♪


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