輝きの海 ACT8
ACT8だよ、全員集合


一行あらすじ:クリスが生き返りました。

 ルーフェイは正直言って「マズい」と感じ始めていた。レイガはまだ立ち直っていないし、しかもセルヴの「全力」が予想以上に強い。格闘戦であっても押されるようになったのに、敵は精霊魔術まで使うことができるのだ。
「どうした、貴様はこの近辺でもっとも強い勇士なのだろう。これでは余興にもならぬ、もっと私を楽しませてくれぬか?」
 セルヴは嫌味な笑みを浮かべた。
「ふん、言われんでもそうしてくれる!」
 このまま戦っていても勝ち目が無いことは明白だが、それでも彼は戦うしかなかった。




 アゼルとエレンが隠し通路を抜けてきた先は、少し大規模な部屋だった。石造りの壁の所々が欠け、明かり窓のようになっている。先程見えた光はここから漏れていたものだったらしい。
「畜生、まさかこんな結末だったとは……!」
 その向こうには、確かにルーフェイが、恐らくはイツキやクリスをさらった張本人であろう男と戦っていた。そして視界の端にレイガが苦しそうにうずくまっている姿が見えたが、角度を変えてもそれ以上のものを見ることはできない。イツキやクリスの、そしてゼフィーやミルフィーユの安否が気にかかる。
「しかし、今から戻ったのでは遅すぎます。ルーフェイさんもよく戦っていますが、もってあと五分……いえ、四分程度です」
 アゼルと同じようにあちこち調べながら、エレンは絶望を告げた。どこを探しても扉は無く、今度こそ仕掛けも何も無かった。
「……なら、この壁をぶち破るしかないな」
「―しかし、申し訳ありませんが私には手伝うことができません……神術では物理的な衝撃を与えることができないのです」
(せめてレイガがピンピンしてりゃ手伝わせられるってのに、畜生っ)
 アゼルは、壁石の欠け具合が特にひどい箇所の正面に立って深呼吸した。

 ――ドンッ!

 ――ドンッ!

 ――ドンッ!

 しかし、壁は一向に崩れる気配を見せなかった。




(…………くそっ)
 レイガは、自分が情けなく思えてきた。
 ルーフェイは圧倒的に押されていながらも必死で戦っている。どんなに傷ついても、倒れることなく立ち向かっている。

 だと言うのに、自分はなんだ。

 不意にとはいえ、たかが一撃ボディに入れられたぐらいで。

「俺を……」
 剣を拾い、立ち上がる。痛くないと無理やり自分に言い聞かせ、距離をとりつつ、ルーフェイとの戦いに集中していて隙だらけのセルヴの背後に回り込む。セルヴはそれに気付く様子も無く、ルーフェイの防御を崩さんばかりの連続攻撃を繰り出していた。
「なめてんじゃねぇぞ、テメェェェッ!!」

 ズン。

 特に狙いは定まっていなかった。怒りと勢いで剣を前に出しただけの、さながら「鉄砲玉」のようなその突きは、セルヴの腹部を深々と貫いていた。
「へへっ……ざまぁ見やがれ……」
 だが、その傷口からは、血は一滴も滴ることが無かった。
「愚かなり」
「は……?」
 レイガの剣が貫いた魔法人形のセルヴの体が消え、彼の後ろに本物のセルヴが現れる。
「馬鹿な――」
「滅びよ、無能な種族めがっ!」
 セルヴは右手の平をレイガのほうに向けた。音もなく「何か」が放たれる。
 すんでのところで横に転がってそれを避けたが、吹き飛んだ床の破片が額に当たった。




 激しい戦いから少し離れた場所で、ようやく状況説明が終わろうとしていた。
「……と、」
「こういうコト」
「へぇ……」
 ミルフィーユやイツキから事の経緯を聞かされ、クリスはひとまず安心した。彼女の膝の上では、相変わらずゼフィーが赤子のようにすやすや眠っている。その寝顔は、とても幸せそうに見えた。
「…それじゃ、わたしはあっちに加勢しにいくから。イツキちゃんのコトお願いねっ」
 少し離れたところで繰り広げられている戦いのさなかへ、ミルフィーユは走っていった。精霊魔術が使えなくても、多少なりとも格闘術の心得はあった。たとえ足手まといになるかもしれなくても、何もせずにはいられなかった。彼らが苦戦しているのを黙って見ていられるほど彼女は消極的な人間ではない。
「悲しむ人がいることを忘れちゃ駄目よ!」
 あえて個人名は出さずにクリスが彼女の背中に忠告を飛ばす。
 ――後に、その思惑が少しズレて彼女に伝わってしまったことを、クリスは知ることになるのだが。
 ふとイツキを見やると、彼は両拳を胸の前に構えて心配そうに戦いを見守っていた。戦いの状況は、一対三になったにも関わらずセルヴのほうが押していた。それどころか彼には、ルーフェイを痛めつけるたびにイツキのほうを見てニィ……と笑う余裕すらあった。

 イツキが、足を一歩前に進めた。
「イツキちゃん?」
 クリスが呼びかけても返事がない。メルビも彼に黙ってついていくだけだった。
「――よしなさい、遊びじゃないのよ!?」
 しかし、イツキはこちらを振り返ろうともしない。
「アンタが戦ったって足手まといがいい所よ!それに……みんながここへ来た意味を失くしてもいいの!?」
 何かにとりつかれたような固い表情で、無謀にも自ら戦いに身を投じようとするイツキに、クリスはつい語調を荒げた。ようやく、ハッとしたようにイツキが振り返る。
「……なにか言った?クリスねーちゃん」
「……なにか言った?じゃないでしょぉ……はぁ、お子様って気楽でいーわね」
 最早ツッコむのにも疲れきり、クリスは大きな溜息をついた。彼の心の内で何かただならぬことがあったのは事実だが、原因も何もわからない以上考えるのは無駄。後できっとなんとかなるだろうという、かなり楽観的な考えに基づく溜息だった。




「おのれ、魔物なんぞに遅れをとるほどこのルーフェイは青くはないぞッ!」
 ルーフェイが破れた胴着を脱ぎ捨て、帯を締め直す。
「魔物ではない。私は『魔族』、誇り高き最高種族だ。間違えないで頂きたいな」

「フぉおオォォぉぉォォォッッ!!」

 セルヴの言葉を無視し、獣の咆哮にも似た怒声で気合を入れる。彼の盛隆な筋肉がさらに膨れ上がった。セルヴは傍から見れば隙だらけのルーフェイに攻撃しようともしない。レイガやミルフィーユはルーフェイの気合に圧倒され、迂闊にセルヴにしかけようともしなかった。
「……ふーむ、少しはパワーアップしたのだろうな?見せ掛けだけのコンセントレーションほど醜いものはない」
「人間をなめるな。貴様ら魔族には一生かかっても身につけることのできない『底力』を見せてやるわ」
 ルーフェイは地を蹴り、超低姿勢で飛び出した。
「獅 子、戦・吼ッ!!」
 低空から斜め三十度の角度で左腕を突き出す。彼の氣が猛り狂う獅子を象り、セルヴの鳩尾めがけて襲い掛かる。セルヴはなんとか防いだが、強い衝撃によって体が少し浮いた。
「ぬぅっ…!」
「――追牙!」
 そこへルーフェイが、使わなかった右腕に溜めておいた氣でもう一発獅子戦吼を放つ。踏みとどまる場所のないセルヴは、衝撃をもろに受けて天井に激突した。
「……フ、フフフ、そうだ。それでいいのだ!猛き血を滾らせろ!本能に火を点けろ!」
 間合いをとってセルヴが笑った。全くダメージを受けている様子が無い。こいつの体力は底無しか。ルーフェイは吐き捨てるように呟いた。
 ――と。
「おや……」
 急に関係無いほうを向いて、セルヴが驚いた顔をした。
「新たな客人が、裏口の開門をお待ちのようだな」


「アゼルさん、危険です!離れてくださいッ!!」
「何だと?」

 ドォッ、

 ガラガラガラガラ……!!

 セルヴの魔力弾によって部屋と部屋を隔てていた壁が崩れ、余波で彼らがいた部屋の天井までも破壊した。あっという間に二人が居た部屋は瓦礫の山となり、二人を埋めた。

 ガシャ……

 瓦礫の山から、アゼルが顔を出した。
「……よぉ、アゼル」
 レイガは何と言っていいものかわからなさそうだった。
「ヒ、ヒーローは遅れて登場するものだろう?」
「そんなカッコで言われても間抜けなだけだぜ」




九十九
2001/08/08(水)22:52:29公開
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場したきゃらくたー達……海岸洞窟編、長いなァ……今回も初登場はございません…
◎いわゆる後書きの本文
ぜ、ぜぇぜぇ……さすがに体力と気力と時間、そしてネタが切れてきたので一日空いてしまいました。
ペースを乱してしまい申し訳ございませんっ(ぺこぺこ)
さて、今回からちょっとだけ改行の使い方を変えてみました。
要は今まで改行しなかったとこも改行してるだけですが^^;
心理描写って難しいですね……私もまだまだ標準レベルには遠いなぁ。
ところで、「鉄砲玉」。コレ、何のコトかわかりますよね?ヤーさん用語のほうでっせ♪
えー、それから……ルーフェイさんにこっちで特技をつけちゃいました。
デスティニーの獅子戦吼に一番近いですけど、かなりオリジ入ってます。ちなみに追牙はツイガと読みます。
次回作の獅子戦吼の自分なりのイメージであります♪(何?)
ところで……現役モノカキな方に質問。プレビューから戻ったとき、投稿フォームに作品は残ってますか?
私は再セットアップ前までは、戻ったときも削除キー以外ぜんぶ残ってて修正が楽だったのですが……
何故だか最近、戻るとタイトルから何からぜーんぶ真っ白けになってるんですよね(^^;


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