輝きの海 ACT12
「剣」持ちし者


一行あらすじ:手紙の内容は凄まじかったです。


 海岸洞窟の戦いから数日後のこと。

 遠い場所で、運命が交差を始めようとしていた。





 午前零時。
 電灯の明かりもない裏路地に、せわしげな足音がいくつも響いていた。闇を影でさらに暗くさせながら、少年は必死に逃げていた。
「ちっくしょ〜っ、しつこい奴らだな!」
 少年の黒い長髪が、オレンジ色のコートとともに揺れる。彼は腰に佩いていた立派な鞘をもつ剣を抜き放った。
「よせ、数が多すぎる!まずは逃げるんだよ!」
 その剣が喋った。意思を持つ剣、ソーディアンである。少年がいま追われているのも、少年がこの剣を持っているからだ。
「でもよ……」
 反論しようと少年が剣に顔を向けた。
 その時。

 パァン!パァン!

 銃声が二つ響いた。
「いてっ……」
 かすった程度ではあるが、右肩に痛みが走る。
「よせ、殺しちまったら何にもならねぇだろが!」
「るせぇ!シェルドさえ手にはいりゃ依頼人だって満足すらぁ!」
 ワケありの依頼を解決し、その報酬で生きる者「ハンター」だと思われる男たちが言い争う。
「依頼内容を復唱してみろ、ジェイス!」
「『シェルドという名の喋る剣を持つ少年ジン=マクロードを捕獲して欲しい。強いので四人以上は人手がいるだろう』、依頼人の目的は喋る剣だろうが!違うってのか、ギノス!」
 ハンターになる者は、えてして頭が足りない腕力バカが多い。足りない頭で必死に考えた結果行きつく先はいつも、自分がやりたいこと――破壊と殺戮。
「馬鹿野郎、依頼は忠実にこなさねぇとな、依頼人に殺された例だってあんだぞ!?」
「二人とも、言い争ってる場合じゃねえ。フーガとキロルスが先回りした。俺たちはターゲットをそこに誘い込んで挟み撃ちにするんだ」
「おぉ、バフマにしちゃいい作戦だぜ。さっそく曲がり角に来たがどっちへ誘い込むんだ?」
 ジェイスが感嘆した。
「右だ」
 本来なら報酬の取り分が減るのでチームを組んだりはしない。だが、今回は五人で分けても有り余るほどの高額な報酬だったため、共通の目的に対する抜群のチームワークを見せていた。


 ジンは、狭い路地で前後から挟み撃ちにされていた。
「へ、へへへ……四十万ガルドはいただきだぜ……」
 ジェイスの顔が思わずにやける。二百万ガルドの報酬は、5人で分けても超高額だった。

「こうなったら……やってやろぉぜ、シェルド!」
「わかったぜマスター。いっちょ、やってやろぉじゃねぇか!」
 ジンは立ち止まって振り返ると、シェルドを天に掲げた。光のソーディアンであるシェルドからまばゆい光が放たれ、暗闇に慣れていたハンターたちの視力を一時的に奪った。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 レンズに光を集約しながら、後ろに振りかぶる。
「『レイ』っ!!」
 はた迷惑な大声とともに剣を振り下ろし空を斬り、地面に叩きつけた。シェルドの刀身から光が散開し、ハンターたちの頭上に何個かのかたまりになって再び集約する。
「な、な、な、一体なんだってんだ、こんなの聞いちゃ――」

 ドドドドドォォォォォンッッ!!

 幾筋もの光線が空中に現れ、ハンターたちの足元に落ちると爆発を起こした。直撃を受ければひとたまりもないだろう。
「と、畜生。俺は帰るぜ!あばよっ!」
 恐れをなしてジェイスは逃げ出していった。
「あ、てめぇコラ、ジェイスッ!報酬の取り分はねえぞ!」
 ギノスが叫んだ。その時には、彼らの背後に光線が迫ってきていた――
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ……」
 残った四人の悲鳴が夜の町にこだました。

「なんだ、楽勝じゃんか」
 銃で撃たれてまで逃げる必要なかったじゃん、とでも言いたげにジンはシェルドを見た。
「……いきなり俺を使うたぁ思いもしなかったからな」
 どこか不満げな声でシェルドが返す。
「お前な、俺をモノと思ってるだろ?そうじゃなきゃあんなに力いっぱい叩きつけられねえよな。俺だって痛いし疲れるんだよ、晶術使うのはよ」
「わ、悪かったよ、ごめんって」
「わかればいいんだけどよ」
 シェルドは剣であるゆえにジンに表情を読み取ることはできないが、彼は誰よりもシェルドのことを理解しているつもりだ。シェルドもそれはわかっているのだが、ソーディアンマスターとしてはまだまだ未熟なジンに対して、時に厳しくあたることもある。
「ところでジン、これからどうすんだ?」
「どうするって?」
 ジンが素っ頓狂な声をあげる。
「もうこの町……いや、この近辺にはいられないだろ?遠くでもでかい町はダメ。この辺は都市が多いから、相当遠くまで行かなきゃ…そのうち毎日がこんな風になっちまう」
「あぁ〜……そっか……あ〜、めんどくっせぇなぁ〜。狙われてる理由はお前なんだろ?捨ててこっかな〜」
「い、いきなり何言い出しやがんだこのタコ助!俺がいなきゃお前はそのへんのガキと一緒だ、いやそれ以下だ!」
 慌ててシェルドがまくしたてる。
「冗談冗談。……アレ、試してみるか?」
「アレ……って、まさかあの「アレ」か?」
 何かしら安全ではなさそうなものが彼らの脳裏に浮かぶ。
「晶術『テレポーテイション』」
「やっぱりな……」
 シェルドは、予感の的中に大きな溜息を一つした。
「つーわけでよろしく。行き先は『ド田舎』で」
「そんな曖昧でいいのか?」
「いーの」
 ジンはあさっての方を見ながら大きな欠伸を一つした。
「じゃ、おっぱじめるぞ……失敗しても俺は責任持たないからな」
「失敗するような言い方すんじゃねえって」

 シュイイィィン・・・

 シェルドを持ったジンの姿は、光に包まれてその場から消えた。






「伝書鳩さん、お願いねっ」
 伝書鳩は小さく鳴くと、クリスの手紙を持って空へ羽ばたいて行った。
「さ〜て、と……名残惜しいけど、そろそろ先へ進まないとね」
 ゼフィーに出発を告げに、小さな一軒家に戻ろうとした、その時――背後に、光が現れた。
「だれ!?」
 咄嗟に振り返り、光の中の少年に高圧的に言い放つ。
「……あ〜ぅ……」
 転送のショックでまだ意識がはっきりしないその少年は、訳のわからない呻き声しかあげられなかった。
「…………」
 剣を鞘から抜いてはいるが、どこか間の抜けたその顔にはまるで敵意がない。
「あ〜……ここ、何処だろ。あれ……すっげー明るいじゃん?」
 剣を鞘に収め、寝ぼけたような眼であちこち見回す少年は、クリスとほとんど背丈が変わらなかった。
「あたしの存在に気付かないことには、思いっきり脳天チョップでツッコミをいれるべきなのかしら?」
「へ!?何なに何?」
 慌てて声がしたほうを向く少年。歳は十四,五といったところだろうか。
「あ……ごめんよ。俺はジン、ジン=マクロードってんだ」
「あたしは、クリスティーナ=マクガーレン」
「じゃ、クリスちゃんだね!よろしく、クリスちゃんっ♪」
 ジンは満面の笑顔で握手を求めた。
「……ガキには興味ないわ。それで、アンタはどーやってここへ来たのよ?」
 クリスはさらりと受け流すと、さっきから気になっていたことを訊いた。
「ふっふっふっ、全てこの……」
腰の鞘から剣を抜き放ち、天に掲げる。
「光のソーディアン・シェルドの力なのだっ!」
「コラ、あっさり教えてどうする!」
 瞬時に剣が喋ってツッコんだ。
「……剣が……喋ったぁぁ!?」

 ――ともあれ、二人のシスターの出発は一日遅れとなった。




九十九
2001/08/13(月)00:57:51公開
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:ジン=マクロード(JINGさん) あの口調でクレスの性格なんて苦しいです、シェルド……(泣)

◎後書き本文
はい、新章スタートです♪
……が、そうめんばっか食べてたからですかね、最近夏バテ気味で……
そろそろ短期休筆かもです……↑の他にちょっと構想を練る時間も欲しいので^^;


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