輝きの海 ACT15
大河を越えて
一行あらすじ:半ば強引に五人も旅立っちゃいました。わお。 師を追い、旅立ったレイガ。 (これは当たり前だよな) 彼の身を案じて同行する、アゼル・ミルフィーユ。 (……ここまでは許容範囲だろ) ミルフィーユが行くならという理由でついてきた、サラ。 (まぁ、ギリッギリで問題ないぐらいか。どういうわけか持ってくるもんは持ってきてるし) 「……でもよ……」 サラが"三十九回目の"初恋だとかいう理由でついてきた、ジン。 「わらしべ長者じゃあるまいし、なんでこーゆー関係ゼロのやつがついてくるかなぁ……!?」 レイガは先行きに多大な不安を感じて、村の門をくぐってから何度目かの溜息をついた。本当なら一人で孤独に旅してドラマチックにルーフェイに再会する予定だったのだが、こう大所帯じゃドラマもクソもありゃしない。 「まあ……旅は道連れ世は情け、って言うだろ?」 「微妙に意味が違うと思うぞ、今のこの状況は……」 アゼルの慰めも逆効果にしかならない。 彼の背後ではジンがしつこくサラにアプローチしている。はっきりいって五月蝿い。ジンの頭の中では初恋というのは単なる落とし文句なのではないか、と思えてならなかった。もっとも、落とし文句も使いどころを誤れば単なる耳の毒。それも彼のように一つの地域で多用するのは、致命的に評判を落とす結果しかもたらさない。それでも彼が女性からさほど嫌われていないのは、その明朗活発な人柄ゆえのことだろうか。 ……ちなみに彼は、まだ十四歳である。 「ところでアニキィ、これからどこへ行くんだい?」 「――いいからちょっと黙ってろ、お前はっ!」 そのジンがこっちに話を振ってきたもんだから、レイガは思わず口調を荒げた。 「……まずはルーヴェ河の橋を渡って、ミッズ・カルドに向かう。それからはしばらく情報収集だな。有力な情報が集まり次第新たな目的地へ出発だ」 興奮気味のレイガの代わりにアゼルが代弁する。 ミッズ・カルドは、北の大陸では王都イシュタリアの次に大きい港町である。商業都市としても有名で、南の大陸との貿易が盛んに行われている。当然のようにこの大陸はもちろん、他の大陸の情報も多く入ってくる。 だから彼らはミッズ・カルドを最初の目的地としたのだ。 ――が。 「ここにあった橋?昨日の地震で支柱が見事にポッキリ逝っちまってよぉ……しばらくは渡れねーぜ」 「うっそ、マジで?おっちゃん、冗談はよしてくれよ。この橋が……確かに最近は地震が多かったけど……」 「こんなこと冗談言って何になるってンだよ。老朽化してたからそろそろだとは思ってたンだがな……今は修理のために少しでも人手がいるンだ。お前も手伝え、自給100ガルドだ」 「俺たちは今すぐにでも向こう側に渡らなきゃいけないンだよっ!(いけね、うつっちまった)」 「やっぱ、橋は落ちちまってるみたいだわ。どーするよ……」 思わぬところで足止めをくらって、レイガは憤りのはけどころを探すように皆に訊いた。 「何日ぐらいで仮橋がかかる?」 「早くても一週間後だとさ。のんびりしたもんだぜ」 「……一週間、か」 その間にルーフェイとイツキはどれだけ遠くへ行ってしまうのだろう。差が開けば開くほど、再会の可能性は薄まってゆく。 ――こんなところで足踏みしてる場合じゃない。 「よし、 「中流あたりまで上って、河を歩いて横切っちゃうっていうのはどう?」 数十人の男たちが仕事をしている様子を見ていたアゼルが振り返って何事か言いかけると、同時にサラが彼が言おうとしていたことを先に言った。 「……そうだな、今ならまだ水もそう冷たくないだろうし……」 「確かに、他の方法でミッズ・カルドへ行こうとするとかなりの回り道になっちゃうしね。うん、サラがいてよかった」 ミルフィーユがサラを褒め称える。……サラがいなくてもアゼルが言うところだったのだが。 「……んじゃ、行きますか」 ジンの言葉を合図に、皆は川沿いに山のほうへ歩き出した。 ぱちゃ、ぱちゃ。 そろそろ、足場がなくなってきた。 「お……このへんで渡るか」 ふと見ると、ほぼ等間隔に大きな石が水面に顔を出している。アゼルやレイガにとってはこれらに次々に跳び移って向こう側に渡るのは慣れたことだし、ミルフィーユも二人ほどではないにしろ何度か経験している。 問題は、今まであまり村の外に出たことがないサラと、元来おっちょこちょいのジンである。 「サラ、だいじょぶ?跳べる?」 「ま、なんとかなるよ〜……たぶん」 あくまで楽観的に答えるサラの顔は、この状況を楽しんでいるようにも見える。 「……スカート、跳ぶときは膝のとこまでは上げといたほうがいいよ。それスリット入れてないでしょ?」 彼女が行動に不便だと思われるそれを全く気にしていない様子を見て、ミルフィーユは忠告した。 「うん、わかった」 サラは素直に頷いた。 「まずは俺達が跳ぶ。皆は指示に従ってくれ」 一見どっしりと鎮座していそうな大岩だが、実は不安定で着地のショックで転倒、なんてことも十分考えられる。そんな突然の事態に対応できるのは経験者である二人しかいない。 ぴょんっ。すた。とんっ、すた。 たんっ、たんっ、ぴょんっ。 すた。 「オーケーだ。多少端っこに乗っちまっても問題ないと思う」 多少用心深く跳んで向こう岸に着いたレイガが確信とともに言った。少し遅れてアゼルも降り立つ。向こう岸は土砂が堆積していて、降り立つのに十分な足場があった。 「んじゃ、次はわたしが行くね」 とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、とんっ、すた。 ミルフィーユは、何の迷いもなくあっという間に河を渡った。 「つ、次はあたしが跳ぶぅっ」 サラは、ミルフィーユがあっさり跳んだのに触発されたのか、後ろに控えていたのにずいと前に進み出て、跳ぼうとしていたジンを押しのけた。 「サラちゃん……酷いじゃないかよぉ」 そして、早くもジンの恋愛感情は50%ほど弱まっていた。この調子では、おそらく一生彼に恋人はできないだろう。 「えいっ」 ぴょん。すた。ぴょん。すた。 この時点で彼女の心臓は普段の五割増でドキドキしている。 「…………」 後ろを振り返るが、引き返すわけにはいかない。後がつかえている。 「……えいっ!」 ぴょん、 「きゃ!?」 つるっ。 「サラッ!」 ミルフィーユが慌てて飛び出した。 「いった〜……」 ……が、幸いにも彼女は河に落ちずにすんだし、頭をぶつけずにもすんだ。尻餅をつく足場があるほど跳びすぎたために、少しコケの生えている岩の上で勢いを殺しきれずに転んだのだ。これがもし逆に、跳躍が岩に届いていなかったら……と思うと、さすがのサラもぞっとした。 「もう、気をつけてよねっ」 「は〜い」 ぴょん、ぴょんっ。 すた。 「ふぅ、疲れたぁっ。今日はここで休まない?」 その場にへたり込んでサラが泣き言をいった。 「だーめ。そんなヒマないんだってば。ついて来れないなら置いてくよっ」 「そんなぁ〜」 サラはこれでも十六歳、一応ミルフィーユより年上である。しかし二人の関係は、どちらかと言えばミルフィーユがお姉さん的役割をしていることが多かった。 「ジン、いっきま〜す!」 何はともあれ、まるでどこぞのニュータイプのような宣言をしてジンも跳びだした。 ぴょん、ぴょんっ、ぴょんっ。 さすがは男の子、怖がる様子もなく次々に飛び移っている。 ……後に、レイガは次に起こることをこう語っている。 「調子に乗りすぎた結果だろ、アレは」 「一気に二個跳んでやるぜ〜っ!」 ったぁん。 ――ひゅるるる。 「……ありゃ?」 ばちゃぁぁぁん!! 「……ぶぇっくし!あ゙ぅ〜」 ジンは毛布に身を包んでぶるぶる震えている。 「自業自得だろ、泣き言いうんじゃねぇぞ」 レイガが辛らつな言葉で追い討ちをかけた。 「だっでよぉ〜アニキィ〜」 涙目で何かを訴えかけようとするジンだったが、泣き言であることがわかっているレイガはそれを無視した。 「仕方ないな、今日はここでキャンプだ」 テントの組み立てが始められた。幸いにもあたりには魔物の気配がしなかった。この辺りで出る魔物は少々手強いので、これは彼らにとって本当に幸運であった。 そして、それが終わる頃には、ゆっくりと日が沈みかけていた。 |
九十九
2001/08/15(水)22:26:38公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:
□最近気付いたアレなこと
カッコ文字使いすぎでした、自分……
◎後書き本文
至上稀に見るほどすらすら書けた今回。
やはりクリス&ゼフィーの不在とジンの存在は大きいですね。
同じ暴走でもギャグ専なのでもう……(苦笑)
そのため、今回はいつもと比べるとかなり長くなっております。
ご了承くださ……って
あとがきでこんなコト書いても意ー味無ーいじーゃんっっ!!
ところで、皆様ほーめぱーげの掲示板にカキコよろしく♪