輝きの海 ACT16
SHINING OCEAN


一行あらすじ:ジンが河に落ちました。



 ――夜。

 空は深い紺色に彩られ、星々が無数に輝いていた。

 月は弓弦のように、半円の姿を見せている。

「ふぁ……あたし、そろそろ寝るね。おやすみ〜」
 サラは細めた目を擦りながら、テントの内に入っていった。それに続いてミルフィーユもそこへ歩きだす。
「わたしも一足先に休ませてもらうよ。二人も無理しないでね」

 残ったアゼルとレイガの間にさしたる会話もないまま、数分が過ぎた。
「今日は安心していいみたいだな。ホーリィボトルの栓をあけて俺達も寝るとしようぜ」
「……俺はもう少し起きてるよ。先に寝ててくれ」
「そうか。…あんまり無理すんじゃねえぞ」


 そして、数十分が過ぎた。既にホーリィボトルからは白い聖気がこぼれ出ている。
 ――ふとテントのほうを見やると、レイガが外に出てきていた。
「まだ起きてたのか、アゼル。いい加減寝ねえとお前の体がもたねえぞ」
「……なぁ、レイガ」
「…なんだ?」
 珍しくアゼルのほうから話をもちかけたので、レイガは少し戸惑っている様子だった。
「この空を、海にたとえるなら……月は、船だよな」
「は?いきなり何言い出すんだよ」
「見ろよ、星があんなに綺麗に輝いてる」
 アゼルに促されて、レイガは空を見上げた。

 そう言えば今日は、雲一つない晴れた空だった。

 無数の星々が、それぞれの色で明るく、強く輝いている。


 ――その眺めは、ひどく幻想的で

 ――美しかった。


「そうだな……」
 空を見上げたままレイガは呟く。
「村にいる間は、空がこんなに綺麗だなんて……いや、こうして空を見上げたこともなかった」
 二人とも、狩りや仕事で野宿するときも次の日の支度を済ませたらさっさと眠りについていた。疲れている体を休めたかったのもあるし、アゼルに関しては空を見ても自分に利益があるわけではない、という考えがあったからだ。
「……輝きの、海だ」
 そのアゼルが今こうして空を見上げ、あげく何やら詩的な科白を口に出している。
 一瞬笑いがこみ上げないこともなかったが、その言葉には確かに共感できるものがあった。
「輝きの海、か……」
 言われてみればそうかもな。


 星のかがやきは水のきらめき

 月は船

 天に

 無限に広がる

 輝きの海


 |SHINING OCEAN|




 ――ざわっ。
 山の木々が、不安そうにざわめいた。同時に、独特の臭気がする。
「感傷にひたってるとこ申し訳ないんだが……お出ましのようだ」
 ホーリィボトルはあくまで魔物を遠ざける手助けをするものであり、聖気に耐えて近づいてくる魔物にはそれ以上の効果を発揮することはない。
「――皆、魔物が現れたぞ!起きろっ!」
 レイガはテントに走ると、入り口から皆に大きな声で呼びかけた。
「わかったっ!」「…ふぁい?」「むにゃ……」
 ミルフィーユ以外は完全に寝入っていたらしい。あと五分〜、とでもいいたげに寝ぼけ眼をこすっている。
 つくづくおめでたい奴ら……とか思いながら、サラとジンに早く目を覚まして戦う準備をして出てくるよう言うと、レイガとミルフィーユは外に出た。
「――来るぞ!」

 ザッ!

 湿り気のある緑色の巨体が三つ。その影に隠れてヌメヌメ動く蛞蝓(なめくじ)が何匹かいる。それから……二本足で立っているようにも見えなくはない星型の、大型の海星(ひとで)らしきもの。
「相当な数だな、こりゃ」
「準備はいいか?1・2・3でまず一匹叩くぞ」
「了解した」
 レイガとミルフィーユが頷く。
「1,2ぃのォ……」
 魔物の群れはまだ仕掛けようとしてこない。
「っさんッ!」
 砂利を蹴飛ばしてキングフロッグのかたわれに一斉に向かう。
「エフーディンボルルンティバウルルブンテクウムグヤイオ
 ワイヌンディンドバウティアフレトゥンス!ファイアーボールっ!」
 早口で唱えられた呪文によって無から炎が生まれ、つぶてとなって魔物に襲い掛かる。この場が川であることや、相手の体が湿っていることもあってダメージは期待できないが、牽制としては十分。その隙に二人組の剣士が間合いをつめる。
 キングフロッグは苦し紛れに大きな舌を振り回したが、巧みにそれをかわしたレイガの剣閃によって舌は中ほどから分断された。魔物がこの世のものとは思えぬ悲鳴をその口から泡とともに発する。
「散(チリ)ッ、」
 さらにアゼルが至近距離から高速の突きを上下に乱れ撃つ。
「沙雨!」
 決めに一つ深い突きを入れると、キングフロッグの巨体はゆっくりと崩れ落ち、緑色の淡い光に包まれ消えた。
「ふぅっ、まずは一匹……」
 剣を握り直し、辺りを見まわす。海星がテントに近づいているのを見て、アゼルは慌てて海星に走り寄った。
「スターフィッシュか」
 小人に見えないこともないが、やっぱり海星は海星である。しかしその小さな体からは想像もつかないパワーとスピードで数々の格闘技を操る、謎の生物。戦うぶんには、動きを良く見ればリーチも短いのでたいした相手ではない。……が、体の小ささと動きの速さゆえになかなか攻撃が当たらないのだ。今回のようにテントを、テントの内の仲間を守るためでなければ後回しにしているのだが。
「――まだかっ、サラ、ジンッ!」
「もちょっと待ってぇ〜」
「右に同じっす、アニキぃ」
「早くしろ、敵の数が多いんだ!」
 スターフィッシュはファイティングポーズらしきものをとって、左右に飛び跳ねている。これまたフットワークのつもりらしい。見ているぶんには笑いを誘うのだが、油断していると次の瞬間には顔面を蹴り飛ばされてたりするのだ。
「――魔神剣!」
 剣が地を切り裂き、剣圧がスターフィッシュに向かって一直線に滑る。スターフィッシュは巧みだと思われるフットワークでそれをかわすと、俊敏な動作でアゼルの後ろに回りこんだ。目標を失った剣圧は、川に大きな水飛沫をあげさせていた。
「ち!」
 剣を振り抜いた勢いで反転し、次の攻撃に備える。スターフィッシュはトコトコ走って勢いをつけて跳び上がると、短い足で蹴りをくりだした。足は短くても勢いがついているため、あっという間に間合いに入られる。剣を横にしてすんでのところで蹴りを受け止めたが、スターフィッシュの攻撃はそれだけで終わらなかった。角度を変えて、今度は顎を狙った蹴りを例によって短い足でくりだす。しかし、破壊力というのは物体がもつ質量のほかにも、速さによる影響が意外に大きい。凄まじい速さで振られたその足らしき部分がアゼルの首筋をかすめる。そこだけ電流が走ったようにピリッ、と痛んだ。
「っの――」

 ドォンッ。

 再度鳩尾を狙った打ち下ろすような蹴りが、防御を解いたアゼルを地に打ちつけた。
(……っ、飛燕連脚だと……)
 体型が人に似ているからだろうか、過去の戦いで人間の技を体得できたらしい。歴戦の強者となった魔物ほど恐ろしいものはない。スターフィッシュの体が一回り大きく見えた。

 ……もともと小さいのでたいした迫力はないが。




九十九
2001/08/16(木)22:08:42公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
★ほめぱげ更新情報スペシャル版
日記を追加してみました。
皆様、書き込みを板に!(……や、私はS隊じゃありませんけどね)
■今回初登場のきゃらくたー達:
□最近気付いたアレなこと
テイルズ大辞典ありますよね。
私は最近ほとんどカキコしてないんですけど、きょう資料を集めるために見てたら
九十九さんという方の書き込みがあったワケですね。えーと、とりあえず私じゃありません。えぇ。
や、別のこの九十九さんは荒らしてもいませんしいたって普通なんですけど、ちょっと気になったのでいちお。
◎後書き本文
や・っ・と・!
タイトルの単語が出ましたね。えぇ。16話目にしてやっと。
ちなみにゲーム的に言えばここでようやくタイトルロゴが出てオープニングが始まったってトコです(苦笑)
そして、サブタイに英語で書いてようやく気付きました。

「某ゲームに似てるよこのハナシ……(血涙)」

タイトル(略せばしっかりSOだし……)とその由来だけじゃなく、
モンスターの半端じゃない強さとか、仲間が半端じゃなく多くなってきてるトコとか、
ちょっとストーリーが拙いトコとか(コラ、トライア様に殺されるぞ!by理性)。
それはそれとしてなんか魔神剣やら散沙雨やらが出てますね。万歳三唱。
ところで、秘伝連脚ってスターフィッシュも使いましたよね?


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