輝きの海 ACT17
サラ、がんばる?
一行あらすじ:スターフィッシュ「ひでんれんきゃぁく!」(CV:関智一) アゼルが海星に苦戦しているころ、レイガとミルフィーユはなかなかに息の合ったコンビネーションで、魔物の大群にも臆することなく善戦していた。 「ふぅっ……あと何匹?」 「まだ十匹はいるな……まさかもうへばってきたってんじゃないだろうな?」 二人は、互いの背中を守りあうように寄せ合っている。いつのまにか、退路を絶たれていた。 「まさか。キミの方こそ疲れが見えてきてるよ?」 「アゼルの野郎、スターフィッシュ一匹になに苦戦してやがる……」 シースラッグとスターフィッシュの数が予想以上に多い。迂闊に飛び込めば一斉に迎撃し、手痛いダメージを負うことは確実だ。特にシースラッグが飛ばす粘液には猛毒が含まれており、非常に危険なのだ。 「……ところでさ、今って……もしかして、大ピンチってヤツ?」 「…………まぁ、な」 じわじわと魔物が二人との距離を狭めていく。中でもキングフロッグがその巨体を揺らして近づいてくる様は、見た目以上の圧迫感を与えた。 ――刹那。 数匹のスターフィッシュが前後左右から一斉に跳びかかってきた。二人は別々の方向に跳んでかわすと、それぞれ近くにいたスターフィッシュをすれ違いざまに攻撃した。剣閃が右足らしき部分を切り離し、ヌンチャクが叩き落す。残ったスターフィッシュのうち二匹は、互いに真正面から激突して自滅した。 「…ぷっ」 ミルフィーユが思わず吹き出す。 その背後には、キングフロッグがいた。 「!――後ろォッ!」 「え――」 レイガの叫びに気付いたミルフィーユが後ろを振り返るより早く―― キングフロッグの長い舌が、彼女の体を悲鳴をあげさせる間もなく絡め取っていた。 「レイガ、助けてっ……」 考えるより先に体が動いた。 キングフロッグがミルフィーユを捕まえた舌を口の中に戻すより速く、その懐にもぐりこむ。 「虎牙ッ―」 脹れた腹を斬り上げ、裂く。そのまま剣を大上段に構えて―― 「―破斬!!」 脳天に、垂直に剣を振り下ろす。あたかもその斬撃は猛獣、虎の牙のようで、たった二振りでキングフロッグを絶命させた。もっとも今回のレイガの場合、普段の三倍以上の力を出せていたのだが。 「…………」 言葉が出なかった。喉の奥に栓でもされたように、思うことはいろいろあるのに口に出すことができなかった。 「動けるか?」 レイガが訊いてきた。彼女は、ちょっとダメかも、と答える代わりに力無く首を横に振った。 「よし、わかった。じゃ……」 レイガは彼女をいわゆる「お姫さま抱っこ」で抱えあげた。 「ちょちょ、ちょっとレイガっ、そんなことしなくても僕は…」 恥ずかしさのあまりか、口をついて言葉が出た。 「お前が自分のこと「僕」なんて言い出したら強がってる証拠なんだよ」 意地悪そうな笑みを浮かべながら、ミルフィーユを抱えたレイガは突破口を探した。 しかし、見渡す限り――敵、敵、敵。それも、だんだん近づいてきている。じきに一斉に跳びかかってくることだろう。 そうなれば、仮に彼がミルフィーユを捨て、自分の身を守るためだけに戦ったとしても勝算はゼロだ。 (畜生……) 終わりか。そう思ったその時―― 「お待たァせいたしましたァッ、ジン=マクロードただいま見・参ッ!」 イシュタリア王国軍式の敬礼をしながらジンが現れた。魔物たちの注意がそっちに向く。 ――チャンスだ。 「ちょうど良かったぜジン、しばらくコイツらをひきつけとけ!」 「へ……俺一人で?マジで!?ウソだろアニキぃ!」 「マジだ、お前ならできる!」 シースラッグやスターフィッシュの群れに、二人は突っ込んでいった。 「よし、跳ぶぜ。しっかりつかまってろよぉぉっ!」 ――ダァンッ。 月明かりが、彼の横顔を照らし出した。 ――いつもより、引き締まってて ――いつもより、真剣そうで ――いつもより、……カッコよくて 彼女は、思わず頬をうす赤く染めていた。 下を見ると、サラがようやく準備を終えてテントから出てきていた。今まで何をこんなに時間をかけて準備していたのかはなはだ疑問だが、殺傷力のなさそうなロッドを持っている。 やがて二人は着地し、テントの中に入っていった。 「――はぁっ、はぁっ、はぁっ……」 ミルフィーユをおろすと、何だかんだで一時的にせよ限界以上の力を出した反動で、レイガの体に疲労が重くのしかかった。 「…ごめんね、わたしにもっと力があればっ」 「ふしゅー……、いいんだよ」 意味不明な声とともに深呼吸してから、レイガは答え、そして続けた。 「いつだって……ミルフィーユのことは、俺が守ってやるからさ。今も、これからも」 「え……」 頭のてっぺんに、体中の血が逆流してくるような感覚をおぼえた。今までずっと「オトモダチ」としてしか見ていなかったレイガ。しかし今は、命の恩人とかそういった類いではあるが、それ以上の感情が彼女の中にあった。そこにレイガが彼の正直な気持ちをぶつけてきたものだから―― 整理できなくなって、頭の中がまっしろになった。 「んじゃ、俺はもう行くわ……」 「――待って!」 気がつくと、身を投げ出して、レイガに抱きついて――半ば強引に唇を重ねていた。 「………ん……っ…」 「……………………」 或いは、彼自身も心のどこかでこれを望んでいたのかもしれない。レイガは彼女を無理に突き放そうとはしなかったし、自分から離れていくこともなかった。 この口づけは、実は三秒程度しか続いていない。しかし、二人にとっては一分にも、十分にも、それどころか無限にすら感じられた。赤くなった顔と顔が、ゆっくり離れる。 「……か、勘違いしないでよ。あくまで助けてくれたことへのお礼だからねっ」 顔どころか耳まで真っ赤にして、ミルフィーユは俯いた。 「…あ、あぁ……」 レイガもどこに目線を向けて良いものかわからず、きょろきょろと落ちつきがなかった。 結局、二人は数十秒の間、この何とも言い表し難い空気のテントの中に居続けていた。後にジンが文句たらたらであったことは当然であろう。 「――せぁっ!」 気合とともに振り下ろされたアゼルの剣が、ついに歴戦のスターフィッシュを両断した。 (くそ、だいぶ時間をとらされたな……皆は無事か?) 魔物の大群がいる方向を見ると、ジンとサラが戦っている姿が見えた。 (レイガとミルフィーユは……?いや、そんなこと考えてる余裕は無いっ) 剣を持つ手に力を入れなおすと、アゼルは走り出した。 「おい、マスター……ジン」 シェルドが、ジンによって縦横に振り回されながら話し掛けた。 「なんだよシェルド、俺はいま忙しいんだよっ」 「妙だと思わねえか」 「妙?そんなこと考えてられっかよ、目の前に魔物がいるのに」 「ホーリィボトルはまだ栓をあけたばかりだったってのに、いくらなんでも数が多過ぎる。つまり……聖気に押し潰されそうになってでも求める、共通の「何か」がある……そうは思わねえか?」 シースラッグの毒液を振り払うのに使われながら、シェルドは続ける。 「……もしかして、またお前か?」 ジンは一歩下がって、明らかな疑いの眼差しでシェルドを見る。 「まさか。人間ならともかく、魔物にとって俺の価値はない。俺はマスターがいなけりゃただの剣だからな」 「だよなぁ」 さっぱりわかんねーや、といった顔をして、跳びかかってきたスターフィッシュを叩き落とした。 「サラちゃん、そっちは大丈夫?」 「うん」 サラは、茶色の大きな眼を見せてにっこり笑った。魔物の大部分はジンがひきつけているため、サラはたまに襲い掛かってくる小型の魔物を避ける、それぐらいのことしかしていない。それでも彼女は彼女なりに頑張っているつもりなのだ。 ――が。 キングフロッグが、ででん、とその巨体を彼女の目の前に現す。 助けを求めるように彼女はジンのほうを見たが、彼はシースラッグの粘液とスターフィッシュの突撃をかわすのに精一杯でこちらを見る余裕すらなくしていた。 「…………」 ぐぇころろろ。 キングフロッグの気持ち悪い鳴き声が耳に届く。 「……がんばらなきゃっ」 小声でつぶやき、ぎゅっとロッドを握ったが、次の瞬間それは魔物の舌に絡め取られ、飲み込まれた。 (……やっぱダメかも〜) |
九十九
2001/08/17(金)22:39:07公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:
◎後書き本文
……コホン。…………えーと。………………つまり。
キスシーンありますね、ハイ。
実は私、今だかつてまともな恋愛はしてません。中三ですし。
一応、お遊び程度にキスした(された)ことはあります。頬っぺたにですけどね(苦笑)
ゆえに今回は他の小説やらTVのメロドラマなんかを最大限に参考にしたのですが……
やっぱダメですね。合掌。
あ、ちなみに舌とか入れたりはしてませんので。三秒ですしね^^;
(詳細問わず↑への鬼ツッコミ募集中。)