輝きの海 ACT19
船旅ロマンス


一行あらすじ:アゼル君いいとこどり。つーか久々のまともな活躍。



 翌日、十三時五十分。
少し遅れて港に入ってきた大帆船「エクスカリバー号」の雄大な姿を背景に、彼らは今まさに乗船しようとしていた。
「皆、荷物はちゃんと持ってるな?」
「おう」
「うん」
「勿論ッス」
「だいじょぶだよ〜、たぶん」
 それぞれ荷物を持って頷く。
「よしっ、……乗るぞっ」
 アゼルは率先して歩いていった。四人があとについていく。
「乗船切符を見せな」
 いかにも「海で働いてます」といった感じの男が手を差し出す。アゼルが五人分の切符を渡すと男はまじまじとそれを見て、
「よし、乗っていいぜ。これが船室の鍵だ、受け取りな」
 切符とともに、それぞれ「07」「08」と刻印された鍵を渡した。


 "07"の船室にて待つこと数分。

「出こーーーーーーーーぅ!」

 窓の外の景色がゆっくり流れ出した。
「ねぇ、シルバニスタに着くのは何時ごろだっけ?」
 ミルフィーユが地図を広げながら訊く。
「順調に行きゃ明日の八時には着くそうだ」
 レイガが即答する。
「そう。わたしはちょっと外の風にあたってくるけど……アゼルも来る?」
 アゼルは一瞬「何で俺が?」という顔をしたが、すぐにその真意を理解し、いや……と言って、
「俺はいいよ。レイガ、お前行けば?」
 レイガを促してやった。
「え?あ〜、俺は……」
「ひそひそ……(いいから行けって)」
「……そうだな、ずっとここにいると息つまるし」
「決まりね。行こ、レイガっ」
 船室を出て行くミルフィーユの表情は明るかった。
「……行ってくる」
 戦いにでも行くようなもったいぶった動作でレイガは腰を上げた。彼が出ていったあと、部屋に残った三人はにたぁ〜、と笑って顔を見合わせた。
「レイガのアニキ……うらやましいッス」
 頑張れジン、サラとの恋はまだ(彼の中でのみ)発展途上だ。……たぶん。



 通路を歩きながら、レイガはミルフィーユに話しかけた。
「……なぁ、俺でよかったのか?アゼルに何か話があるんじゃ」
「なーに言ってんのよ」
 ミルフィーユは立ち止まってくるりと振り返ると、レイガを至近距離から睨みつけた。
思わずレイガはドキッとする。
「わたしははじめっからレイガに来てほしかったんだから。……ニブチンッ」
 彼女はまたすたすたと歩きはじめた。
(あー……これって、やっぱ)
 頭をかきながら、レイガは思う。
(デート、だよなぁ?)
 今日のミルフィーユは、髪を結ばずに下ろしている。風にあたりに行くスタイルじゃないと思うが……俺のためとか?確かに好みではあるけど……いや、まさかな〜。レイガは心の中で呟いた。

 二人は甲板に出た。
 ついさっきまで滞在していたミッズ・カルドの街並みがどんどん遠ざかり、小さくなっていく。
 ふわりと潮風が鼻にふれ、独特の匂いを残していく。
「ふふ、気持ちいいねっ」
 まとわりつく髪の毛を払いのけながら、ミルフィーユが笑った。
「そうだな……船に乗るのなんて、何年振りだっけ……」
「わたしは、八年振りかな」
「俺も八年振りだな……村の子供会の旅行だよな、それ」
「あ、じゃあ、やっぱり一緒に乗ってたんだ!」
 ミルフィーユは飛び跳ねて喜んだ。
「あの頃のレイガって、今よりずーっと頼りなさそうだった」
「あの頃のミルフィーユって、なんだか男っぽかったぞ」
 ……イコール、今は頼りがいがあったり女らしかったり、とか言いたいワケで。
 何はともあれこの二人、何かといい感じのままおノロケ会話を続かせることになる。



 そして数十分が過ぎさすがにネタが尽きてきた頃、思い出したようにミルフィーユが口を開いた。
「……ねぇ、レイガは八年前の他に、船に乗ったことってあるの?わたしはない」
「十五年前に乗ったかな……ガキの頃だから、もうほとんど覚えちゃいねえぜ?」
「いいの。その時の思い出、聞かせて」
「あー…っとな…まだ親父が生きてた頃によ、家族でセイフィッツへヅィーンのライヴを見に行ったんだ。行きはなんともなかったし、ライヴも全盛期のヅィーンが見れて最っ高だったんだけど……帰りが大変でさ。海がこうダァーっと荒れてよぉ、船がぐっらぐら揺れたのよ。だもんで俺、酔っちまって……しかもその時、エチケット袋がなくってさ……吐きそうになるのを死ぬほどの思いで我慢したんだぜ。ライヴで聴いたばかりの「爪であるように」が頭の中でずーっと流れてさ、そのおかげでなんとか堪えられたのかな……」
 身振り手振りを交えながら、レイガは淡々と思い出を語った。
「へぇ〜、大変だったんだ……」
「今となっちゃいい思い出さ……親父とのな」
 レイガは、波立つ海を見つめた。
 ――海に散ったと教えられた。
 ――実際、墓には骨が埋まってない。
 ――どこにいるんだ、親父。
 ――好きな人ができたら教えろよって、いつも言ってただろ……
「……ミルフィーユ」
「なに?」
 レイガと同じく海を見ていたミルフィーユが振り向く。
 すかさずレイガは彼女の腰に手を回し……唇を重ねた。
「んむ!?」
 ぎゅっ、と抱き締めて離さない。
「んーっ!(卑怯よぉ!)」
 目で訴えるミルフィーユの顔が、どんどん朱に染まっていく。
(へへ、こないだの仕返しだ。……親父ぃ、見てるか〜っ)
 彼の父親の霊はともかくとして、甲板に出てきていたほかの乗客に見られているのは紛れもない事実である。
「…………」
 ちょっと悲しげになった彼女の目許から、涙がひとすじ零れ落ちる。
(…げ!?)
 慌てて離れるレイガ。未だにギャラリーの刺すような視線には気付いていない。
「ごごごごごめんっ!まさか泣くなんて思ってなかった……」
 あ〜困ったっ、の表情でレイガは平謝りに謝った。決してすまなさそうな顔ではないことを付記しておく。
「ううん、違うの……いきなりだったから、ちょっとびっくりしただけ……」
 涙をふくと、ミルフィーユは走って船内へ戻っていった。
「……ミルフィーユ……(嫌われたな、こりゃ)」

 ぽん。

 傷心のレイガは、誰かに肩を叩かれて振り向いた。
「ダメじゃないか、あんな可愛い女のコを泣かしちゃあ」
「……誰だよ、あんた」
「ふふん、聞きたいか?……野次馬だ」
「…胸張って「野次馬だ」なんて言ってんじゃねえッ!」

 ぱこーん!

「ぐわ!?」
 八つ当たり気味のゲンコツが「野次馬」の頭に振り下ろされた。
「こっ、この『純白の翼』リーダー、光速の白竜王グリッド様に暴力をふるうとはなんて奴だ!」
「純白のォ?他人の色恋沙汰見て楽しむお前にゃ「漆黒」がお似合いだぜ」
 額に青筋を浮き上がらせながら、レイガはグリッドと名乗った男の襟元を掴もうとした。
 グリッドはさっと飛び退くと、仲間らしき人物の名前を呼んだ。

「おのれ、純白の翼をコケにしたな!?疾風の白バラ、ミリー!おおぐらいの白豹、ジョン!出番だぞ!」

 ……しかし、待てども待てども誰も来なかった。

「あれ……ミリーー?ジョーーン?もしかして船酔いでダウンとか……」
「………………」
 はぁーあ、とがっくり肩を落とすと、レイガは哀れなグリッドを無視して船室に戻っていった。


(ちゃんと謝んなきゃな……でも、聞いてもらえっかなぁ……)




九十九
2001/08/19(日)22:22:12公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:光速の白竜王グリッド(九十九パロディfromD&E) ……ツッコミ募集中さ(笑)
★ほーめぱーげ更新情報
日記は毎日(殴)……俺式マイナーゲーれびぅを追加。内容はトレG。
◎後書き本文
最終選考候補サブタイトルs:「逆襲のレイガ」襲ってどうする。「純白の翼、登場ッ!」……何が言いたい?
それはそれとしてまたキスですね。もはや私の好みの展開になってます。ナミダ命。
純白の翼ですが、船と言えば漆黒の翼、ボケ集団と言えば漆黒の翼。ってことで思いきってパロってみました。
純白とか名乗ってますが即座にレイガが漆黒とかツッコんでます。合掌。


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