輝きの海 ACT20
続・船旅ロマンス


一行あらすじ:レイガの逆襲でミルフィーユが泣いてます(現在進行形)。



「……………………」
 レイガとミルフィーユが甲板へ出てはや数十分。残された三人の間には、すでに奇妙な沈黙だけがふわふわ漂っていた。
「レイガのアニキ、上手くやってるのかな……」
 ジンがぽつりとつぶやく。
 反応はない。
「…………だーーーッ、もうっ!二人のことが心配なのはわかるけど、こうも静まってちゃ気分が滅入るって!こっちはこっちで盛り上」

がちゃ

「がって……や、やあ、ミル姐」
 ミルフィーユはノックもせずに船室に入ってくると、すぐそこに置いてあった"08"の鍵を取り、
「ごめんね、ちょっと一人でいさせて」
 と言って、返事を待たずにとなりの船室へ閉じ篭ってしまった。

「……どうやら」
 失敗らしいな、とアゼルが小難しい顔をした。
 笑えるほど落ちこんだ様子のレイガが帰ってくるのはもはや時間の問題だろう。
「ミルフィちゃん、かわいそう…」
 同性の友達なのだから当然と言や当然なのだろうが、サラはあくまでミルフィーユのほうが心配なようだ。
「……アゼルのアニキ、ここは一つ賭けてみねぇか?」
「何?」
「レイガのアニキが謝りに行くか、行かないか……アーンド、謝りに行ったら行ったで追い返されるか追い返されないかっ」
「……くだらないな。謝りに行くし、追い返されないにきまってるさ」
 俺があいつらと何年つきあってると思ってるんだ?とアゼルは顔で示した。
「あーあ、ミルフィちゃんばっかいーなぁ……」
 サラが物欲しそうにつぶやいた。すかさずジンが彼女のそばにさっと移動する。
「何を言ってるんだい……サラちゃんにはこの俺が、ジン=マクロードがいるだろ?」
 軽くウインクまでしてここぞとばかりに必死で自己アピールするジン。
 果たしてどこまで本気なのか、それは本人ですら知らない。
 ……が、どちらにせよ彼はこの直後、おおいにヘコむこととなる。
「やだ、ジン君はまだ子供だもん。あたしはオトナのかっこいい男の人が運命の人って決めてるの」
「そっ……そんなっ……!」
 彼の周りだけ背景が暗くなり、そして彼自身は「オーノーッ」或いは「ガッデム!」とでも言いそうなポーズをとって硬直している。
「あ、そーだ。編み物でもしよーっと♪」
 そんなジンの姿を全く気に留めず、サラは自分の荷物から道具を取り出して毛糸を編みはじめた。
「la……lalala……」
 何かの歌を口ずさみながら、慣れた手つきで手を動かす。
 ……ちょっとだけ、彼女が大人に見えた………………のだが。
「はれ?」
 いつのまにか絡まってしっちゃかめっちゃかになったそれは、ある種の芸術と呼ぶに相応しい神秘性と創造性を兼ね備えていた。
 ……誰かがこれに名前をつけた……「わらえるかたまり」と。





 数分後。
 レイガが決意に満ちた表情で彼らの前に現れた。
「……ミルフィーユは隣の部屋だな?」
「ああ。行くのなら覚悟はしておいたほうがいいぞ」
「わかってるさ……俺がまいたタネだ」
 レイガは一昨日以上に真剣な顔つきで07号室を出、08号室のドアをノックした。
「…だれ?」
 ドア越しに、ひどい風邪でもひいたような鼻声が聞える。
「……俺。開けてくれないか?」
「…………うん、いま開ける……」
 カチャ、と音がしてロックが外れる。ゆっくりドアが内側に開き、ミルフィーユの姿が見えてくる。
「入って…」
 レイガは部屋の中に入り、パタンとドアを閉めた。ミルフィーユはすぐに鍵をかける。
「……まだ、泣いてたのか」
「だって、止まんないんだもん」
 両眼を真っ赤に泣きはらした今の彼女は、ひどく弱々しく見えた。レイガはずっと考えていた謝罪の言葉も忘れて、ただ立ち尽すのみだった。
 双方言葉がないまま、数秒が過ぎた。
「――ねぇ」
 最初に口を開いたのは、意外にもミルフィーユだった。彼女はレイガをきっ、と睨みつけた。けれどそれは、すがるような視線も含んでいた。
「何て言うかさ、その……ちゃんと、しよ?」
「ちゃんとって?」
「ほ、ほら、あのさ、何だかんだでわたしたちって今まで、お互いの同意のうえのキスってしたことないでしょ?だからさ、その……レイガさえよければ……………」
 そこから先はもじもじするばかりで何も言わなかったが、レイガは全てを汲み取った。
「決まりだな」
 レイガはミルフィーユに目で合図すると、彼女をやさしく抱擁した。

 ……勿論、彼らがこの密室内においてキスだけで終わったとは考え難い。
 しかし……どんな物語にも等しく「終わり」というものが存在する。
 だから、あとは読者諸君の想像におまかせして、この恋人同士の物語はひとまずここで語るのを止めておこう。
 なお――彼らが07号室に戻ってきたのは一時間以上のちであったことを付記しておく。





「…………むむむむむむぅ〜〜〜っ!」
「…悪趣味だぞ、ジン」
 ジンは壁にコップを、そのコップに耳をぴったりくっつけて、隣の部屋の会話をなんとか聞き出そうとしていた。早い話が盗聴である。サラは相変わらず「わらえるかたまり」を大量生産している。
 もはや彼を止められるのはアゼルだけなのだ。

「………ん…」
 …………ぴちゃ…………

「ぬををををぅっ!?これはもしやディープ」

 ごつん。

「い……痛ぇッス……」
「ったく、どこでそんな言葉を覚えてきたんだ?」
 ジンのおませさんっぷりに呆れてアゼルは大きなため息をついた。
「シェルドが教えてくれるんだよぉ〜」
「シェルドが?ちょっと貸せ!」
 強引にシェルドをひったくると、アゼルはシェルドを睨んだ。
「おい、シェルド。お前な、ジンになに教えてるんだ。ジンはまだ十四歳だぞ?」
「は?そんなの答える義理はないね。俺は俺のマスターを一人前にする、それ以外の目的でウダウダ喋りたくはねえんだよ」
「……つまり、××な言葉を教えるのは「一人前にする」ためだと、そう言いたいんだな?」
「ああ、そのドコが悪い?俺はオトコとして人生を楽しむすべをだな……」
 アゼルはおもむろに拳を振り上げ、シェルドのコアクリスタルを思いっきり殴りつけた。
「ななな何するんですかアゼルのアニキぃっ!?」
 ジンは慌ててシェルドを奪い返した。
「……教えるほうも教えるほうだがそれを素直に聞くほうも聞くほうだ……」
 はぁぁぁあ……と、特大の溜息が出た。




九十九
2001/08/20(月)21:50:09公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:
☆ほーめぱーげ更新情報
「爪であるように」の歌詞をほーめぱーげにアップしました。
よければ見ていってください。期待裏切ってると思いますが。合掌。
◎後書き本文
最終選考候補サブタイトル:「ラブラブファイアー」エムブレム。……じゃないって(汗)
……自爆ッ!(ちゅどーん)
勝手にカップリングしたあげく数日で××までさせるたぁ、恐ろしい輩ですね九十九クンは。合掌。
……処でこれって、まさか18禁にはなりませんよね?削除されませんよね?
ソーディアンについてるアレってコアクリスタルであってますよね?
嗚呼、訊いてばっかりだ自分。哀れ。


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