輝きの海 ACT21
船旅も楽じゃないのよ


一行あらすじ:愛を育む二人がいました。熱いよ。熱いってば。うわ熱!




 ――夜。
 ぽつぽつ、雨が当たる音が聞こえてきた。船の揺れが心なしか大きくなってきたように感じる。
「嵐が来るみたいだな」
 アゼルは、激しく雨がうちつけるようになってきた窓から外を見た。波が、少し高くなってきている。雲が一面に広がっていて空は夜だと言うのに少し明るい。
「指スナ、さんッ!」
「甘い!指スナいちっ!」
「ぬぁ、ちっきしょう!」
 頭を抱えて悔しがるレイガ。どうやらパーフェクト負けしたらしい。
「……聞いてたか、今の?」
「ん、何か言ったかい、アゼルのアニキ?」
 ジンが勝利の美酒に酔った、さも嬉しそうな顔で訊いてきた。アゼルは今日何度目かの、深いふかい溜息をついた。
「……二人とも、外を見てみろ」
「外ぉ?花火でもやってんのか?」
「…っつーか、まず音で気付かないか、普通?」
「どれどれ……」
 二人は、部屋に二つある円形の窓をそれぞれ覗いた。
「おー、こりゃひで……」
 レイガがつぶやいた瞬間――

 ピシャアッ!

「ひぇぇえっ!」
 目の前で雷鳴が轟くと同時にジンは両耳を押さえてうずくまった。ガタガタふるえて、涙目でおびえている。
 これは本気だな、と直感したレイガは――
「なんだよジ〜ン、お前、カミナリが怖いのかぁ〜?」
 と、さも嬉しそうにわかりきった質問をした。
「だだだだだっって、こここ怖いじゃないかよ、マジでぇ〜」

 ごろごろごろごろ……!

「あわわわわわ〜〜っ!」
 窓から最も遠く離れたベッドへ、ゴキブリのように床を這って入ると、頭から布団をかぶった。
「……まぁ、その……ひどい嵐に巻き込まれることは確かだ」
「まさか、沈むなんてこたないよなぁ」
「百二十人乗りの大型船だ、余程のアクシデントでもなければ……」

 ドォン、ドォンッ!

 短い爆音とともに、波によるものとは全く違う小刻みな揺れが船全体に伝わる。
「何だなんだ何だっ!?」
 ――数秒と経たぬ間に

 ドォン、ドォンッ!

 先ほどと全く同じ振動がくる。恐らく、また数秒したら――
「なんで大砲なんか撃ってんだよ!?」
 レイガが理解できないといった表情でアゼルを見る。
「俺に訊かれても困る。とにかく甲板へ出よう、それではっきりするはずだ」
 二人は通路へ出た。一人にしないで下さいよォ〜、とか言ってるジンをほっといて。彼らだけでなく、多くの乗客が様子を見に行くところであり、アゼルはその中の見覚えのある顔から話しかけられた。
「……そこの青髪、どこかで会わなかったか?」
 銀髪、色眼鏡……確かに見覚えがある。
 それも、つい最近会ったばかりの。
「…………あんた、もしかしてフェシス=ラウドか?」
「ああ、そうだ……どうやら、あの時のお節介焼きのようだな。奇遇じゃないか」
「まさか同じ船に乗り合わせていたとはな。そう言えば名前を言いそびれていたな……俺はアゼル=ラームズだ」
「俺はレイガ=スラッド。以後よろしく」
「よろしく。ところで君たちはいま何が起こっているかわかるか?」
「俺たちも今から確かめに行くところだ。……だいたい想像はつくがな」

 ドォン、ドォン!

 再び大砲の音が、振動が響く。
「なら、武器を持ってきたほうが良いんじゃないか?私は先に行っている、準備を整えてから来い」
 青いマントを翻してフェシスは走り去っていった。
「……言われてみればそうだな。よし、レイガ――」
 アゼルが振り返ると、もう彼は船室に引き返して戦いの準備を始めていた。
 ――相変わらずだな。
 心の中で呟くと、アゼルも船室に戻っていった。





 ――雨の激しくうちつける甲板に、腕を組んで恨めしそうに海を睨む壮年の男性が一人。
「船長!駄目です、ほとんど効いてません!」
「ぬぅぅ……しかしこの船には百の乗客がいる、何としてでもヤツをこの船に近づけるな!」
「アイアイサー!」
 船員は敬礼すると持ち場に戻っていった。
 彼としては何らかの策を示して欲しかったのだが、残念ながら彼らの船長は諸葛孔明ではなかった。
 もっとも――海の魔物、その中でも最大最強を誇る「ヤツ」には、小細工など通用しないのだが。
「むぅぅぅぅ……」
「お困りのようだな、船長さんよ」
 黒いコートに身を包んだ男が、呻き声をあげるばかりでちっとも考えていない船長の肩を叩いた。
「なんだ貴様、私は今――!」
 男は振り返った船長の額に銃をつきつけた。
「俺の名はジーク=ブレイブハート。いい名だろ?」
 コートの男はサングラスをかけているため、眼から真意を読み取ることが出来ない。
「何のつもりだ……!」
「こうでもしないと話を聞く気がなさそうだったんでね。いいか、よ〜く聞け……今から俺たちがあの化け物と戦ってやるから、生きて帰ったあかつきには十万ガルド払ってもらおうか」
「ちょっとジーク、ケタが一つ違うじゃない!」
 コートの男の後ろにいるらしい女性の声が聞こえる。
「あーエル、悪ぃ悪ぃ。百万ガルドだ」
「ひゃ、百ま……!?」
「逆、逆ッ!もう、あなたじゃ話にならないわ!」
 エルと呼ばれた女性はそう言うと、ジークと呼ばれた男を押しのけて船長の前にすすみ出た。
「驚かせてごめんなさい。私はエルファリテ=ルグエント、魔法剣士をやってます。ちなみにあの馬鹿は銃士。簡単に言うと、私たちがあの魔物を撃退する報酬として一万ガルド工面して頂きたいのです」
 エルファリテと名乗った女性は銀色の瞳で船長の瞳を見据えた。
「あ……ああ……ヤツを追い払ってくれるのならいくらでも払おう。とにかく今は百の乗客の命を守らねばならんのだ、獅子奮迅の戦いをしてくれたまえ」
「よっしゃ、小切手用意しとけよ」
 ジークは銃を掲げてにやりと笑った。
 その銃身には「Origin」という文字が彫られていた。

「オリジン……まさか、あの男……」





九十九
2001/08/22(水)22:10:33公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:ジーク=ブレイブハート(ソディさん)・エルファリテ=ルグエント(フェリナ・フェリスさん)
う〜ん、今更ながら一人称を書いてもらわなかったのはこっちのミスでした。
てワケでイメージから勝手につけてます。合掌。
★ほーめぱーげ更新情報
ゲームれびぅに一本追加。今度はバハラグ。その次ルドラ予定。
元・スクウェアジャンキー九十九。じゃあ今はアンチなのか。こうご期待。(何に?)
◎後書き本文
コレを書いてるときにちょうど暴風域の真っ只中でした。
……そして、ついにまたまた長くなりそうな予感がするバトルに突入です!
そこで一つ問題を出しましょう
『「ヤツ」とは一体どのモンスターなのかッ!』
最大最強と言う言葉が必ずしも当てはまるとは限りませんのでご注意。


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