輝きの海 ACT22
Nondaily Workers


一行あらすじ:謎のコンビが船長脅して一万ガルドGET。




 ドォン、ドォンッ!

「……こう何発も絶え間なく撃ってるってこたぁ、生半可な魔物じゃねぇみたいだな」
「っていうかさ、なんでただの大型客船に片側二つずつ砲門があるわけ?」
 彼らは甲板へ通じる階段へと走っていた。
「この船は確か、もう何十年も前に軍船として使われていたはずだ。それで……何故かは忘れたが、どうしても左右に二つずつ取り外せない砲があり、結局そのままで客船として運用することになったという。船長も含めて誰もがこんな時に役立つとは思っていなかっただろうな」
「……っていうか、お願いだからカミナリ鳴らないで……」
 ――その中に、サラの姿はない。
 彼女は自分も戦うと言ったのだが、まだ彼女は実戦に慣れていない。そのうえ、戦場は雨に濡れた船の甲板の上である。もし海に落ちでもしたら、いつ拾い上げられるかわかったものじゃない。その間にも海の魔物に襲われる可能性は十二分にある。だから――「もう誰かが死ぬところを見たくないし、自分も死にたくない」、内乱で親や友を失った彼らの共通の願いを聞き入れ、彼女は「一人ぼっちにするのは、これで最後にしてよね」と言った。






 四人が甲板へ出ると、少々異様な光景が目の前に広がっていた。
 いかにも腕に覚えがありそうな戦士や術士が何人かいるのに、まったく戦おうとしていない。戦っているのは銃士と剣士が一人ずつ、それだけだ。
「フェシス、これは一体どう言うことだ?」
 アゼルは、周りと同じようにただ戦いを見守っているだけの女性に問いかけた。
「どうもこうもない。手出しをしたら俺らの報酬が減るから黙ってみてな……だと。無謀な奴らさ」
「金を取ってる時点で根本的に間違ってる気がするが……」
 自分たちが行っても同じようにつっぱねられるだけだろうな、と理解したアゼルは、他の三人にそれを説明したうえで「観戦」を始めた。



 船に二本の白く太く、かつ柔軟な棒のようなものが現れる。それは「ヤツ」の十本ある足のうちの二本……それも、手にあたる働きをする部分だ。
「ち、なんてタフな体してやがんだ、こいつぁ」
 愛銃「オリジン」の弾を入れ替えるジークの顔にわずかな焦りが浮かぶ。
「まぁ、どうにかなるだろ……っしゃ、これでも食らえ!」
 船から身を乗り出して、真下にいる「ヤツ」のドス黒い眼に向けて弾丸を連射する。それは着弾と同時に小爆発を起こし、右眼に直撃した二発が「ヤツ」の視界を半分奪う。
「エル、今だ!」
「オッケー」
 エルはクラーケンの死角に回り込むと、剣を構えて精神統一を始めた。
「ウ エトゥ グーヌンム エ プンエル イフ ティアオムドンディ、エムド ウティ バウルル ブン トゥヤ フィディワン……」
 呪文の詠唱とともに彼女が天に垂直に掲げた長剣に、特大の雷が落ちる。
その瞬間だけ、真夜中でありながら真昼のように明るくなった。

「ひぇぇっ」
 ジンが例によって怯えてレイガの影に隠れる。
「バカ、怖がってる暇があったらよく見とけ。ただ者じゃねぇぞ、あいつら……」

 雷の直撃を受けてもエルは平然としている――雷をその剣に宿させ、力としたからだ。
「いくよっ、サンダーブレードォッ!」
 何万ボルトもの電撃がそのまま十数メートルの剣となり、バチバチという音とともに海の魔物に振り下ろされる。
 ――確かな感触。

 ドォォォォンッ!

 轟音とともに「ヤツ」が黒焦げになって、海へ沈んでいく。船にかけられていた二本の足も力を失い、海中に引き摺られていった。
「ひゅーぅ…ご苦労さん、エル。今回も楽勝だったな」
「何言ってんの。炸裂弾六発のこと考えたら全然割に合わない仕事じゃない」
 エルは雷を扱った影響で少し乱れた銀の長髪を整えた。
「るせ、ひとつケタ増やしゃ済む話じゃねぇか」
 オリジンをくるくる回転させながら、何の問題もないとでも言いたげにジークは答えた。

「……噂には聞いたことがあるが、まさか奴ら……」
 フェシスが眼鏡越しに真剣な目つきになる。
「知っているのか?」
「『NondailyWorkers』。非日常的な物事をあっさり解決し、かなりアバウトな報酬を要求すると言う……」
「おぅ、よく知ってるな眼鏡の嬢ちゃん!」
 かなり遠く離れた場所からジークが反応した。どうやら地獄耳らしい。
「……しかし、なんて強さだ。船の大砲ですらビクともしなかった魔物を……」


 ――まさに、勝利を確信して疑わなくなった、その時。


 ――大波が船を飲み込もうとした。


「なっ……やべぇ、はやく中へ!」

 レイガが叫んだが、時すでに遅し。誰一人として避難できずに――


 死の恐怖と戦ったあげく、全身に海水を浴びた。

 海に落とされる者がいなかったのは……そもそも船が転覆しなかったのは不幸中の幸いである。


「――ぶぁっ!あー、畜生ッ!」
 ダークブラウンの髪から水を滴らせてジークは立ち上がった。
 甲板にはかなり水が入っていて、行動に多少の影響が出そうだ。
(イケるか……?)
 ジークは、眼前の「ヤツ」――クラーケンを見据えた。自らがつくりだした大波に乗って甲板に上がりこみ、ドス黒い瞳を怒りに燃やしてジークを睨みつけている。

 戦士Aは起き上がってその姿を見るなり――
「おいおい、どんな魔物かと思えばクラーケンかよ、冗談じゃねえぞ……俺はおりるぜ、好きにやってくれ」
 と言い残してさっさと逃げていった。連鎖的に他の"その他大勢"も逃げていく。クラーケンはただ強いだけでなく、無差別に長い十本足を振り回すので危険極まりない。そのうえ先程の大波ですっかり恐怖に支配された戦士たちにとって、これ以上ここにいることはもはや不利益なこととしてしか認識されなかった。
 結局、残ったのは役職名プラスアルファベットで呼ばれない人間……細かく言えばアゼル、レイガ、ミルフィーユ、ジン、フェシス、そしてジークとエルである。
 ……そう、船長すら船内に逃げていた。意外にも小心者だったようだ。

「普通あれをモロに食らったら死なないかなぁ?」
 エルがジークの横に現れる。
「だよなぁ……タフさだけは超一流みたいだな。にしてもよ、どいつもこいつも根性なしでやんの……」
 まぁ余計な邪魔をされなくてすむけどな、と言いながら振り向くと――
「わお♪」
 思わずジークは「そこ」に手を伸ばしていた。
 彼女の水に濡れて透けたローブ越しに、首から下げたペンダントのあたりに見える、彼女の生のCカ――

 むにゅばちぃん!

 即座にエルの渾身のビンタが炸裂する。
「どこ触ってんのよエッチスケベ変態ッ!」
「っブ、ブラジャー着けてないのが悪いんだろーが」
「それは…って、そう言う問題じゃ――」
 怒った顔を瞬時に真剣に引き締め、後ろを振り向いて剣を縦に振った。彼女を捕らえようとしていたクラーケンの足の一本の先端が切り落とされる。
 どうやら、これ以上つまらない会話をする余裕はないようだ。
「……やっこさんは手負いだ、ちょちょいっとやっちまうぜ」
「言われなくてもわかってるわ」
「それから部屋に戻って、さっきの続きだ。俺が気持ちよ〜く……」
「バカ言ってんじゃないわよ」
 エルは剣の平たい部分でジークの頭を叩いた。

(この二人、漫才コンビとしてもやっていけそうな気がする……)

 あくまで手出しは控えながら、その場にいた誰もがそう思い始めていた。






九十九
2001/08/23(木)22:07:34公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
★ほーめぱーげ更新情報
輝きの海FAQにゼフィーの命名法についてアップ。
●後書き本文
エイさん大正解ッ!ていうか、はっきり名前を挙げて答えてくれたのもエイさんだけっす(泣)
何と申しましょうか……NondailyWorkers、これはこれで短編集を書きたい気分だったり。
クリゼフィやレイミルに続く個人的大ヒットコンビかも。また目立ちすぎる予感。どないしましょ。
あ、その短編からのゲストキャラとかそういう設定にすれば……(普通順序が逆っしょ)


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