輝きの海 ACT23
帰ってきた船旅ロマンス?
一行あらすじ:非日常的仕事人は強くてえっち。 圧巻だった。 手負いのクラーケンの最後の抵抗、死角などないように思える十本足の滅多振りを、動きにくい足場にもかかわらず全てあっさり見切り、かつ的確に銃撃を、斬撃をくわえていく。 徐々に海の王者の動きが鈍っていった。 「最後は派手にアレでもやるか。ギャラリーもいることだしよ」 「おっけー♪」 もはや追いかける気力もないクラーケンと距離を離す。最も遠く離れたところで、エルは呪文を唱えた。 「ウムヌースウブルン バエルル、プディーティンワティ トゥン!バリアーっ」 守護の……低級ではあるが法術。精霊魔術と剣の融合である魔法剣技を操りながら、同時に法術まで扱える……世界広しと言えど彼女のほかには数えるほどしかいないだろうし、この若さでそれができるのは彼女だけだろう。 「こっちも準備OKだ」 銃をやや斜め上に構えてジークが言ったのを合図としてエルが助走し、跳ぶ。 クラーケンとの距離はまだかなりある。剣を投げつけるにも遠いほどだ。そんなことは全く気にしていない様子のエルの跳躍が最高点に達し―― ジークは銃の引き金に指をかけた。撃鉄はすでに起こされている。 「っしゃぁあ!高度ピッタシぃぃ!」 ガァン! 空中のエルを狙って炸裂弾を放つ。 ボゥン! 寸分たがわず彼女を包む球状のバリアーの狙った場所に直撃、爆発。その衝撃でエルが一気に加速する。 「もいっちょぉあ!」 今度は少し上を狙って―― ガァン! ボゥン! バリアーに守られているためダメージを受けることはなく、さらに加速する。 エルの落下予想地点――クラーケンの眉間! 左手に握った剣の柄に右手を当て、刃先を前方へ向ける。このまま何の邪魔も入らなければ、あと零コンマ一秒後に―― ズンッ! エルは体ごと剣をクラーケンの弾力ある巨体にめり込ませた。 一秒…… 二秒…… まだクラーケンの顔は元に戻らない。 三秒! 反発する力を利用し、エルは剣を引き抜いて空高く跳んだ。淡い緑色の光があたりに広がるなか、空中で彼女の体が二度翻る。その姿は月明かりにも照らされて、まるで水の巫女のようだった。 ぱちゃんっ…… まだ足首の上あたりまで水がたまっている甲板に、静かに着地する。 彼女は血糊を拭いて、剣を鞘におさめた。 「凄いじゃないか、本当に二人だけでやってしまうとは。噂通りの実力だな」 フェシスがぱちぱち手を叩いて祝福した。 「ま、俺の昼寝がかかってるからな」 「ま、私のショッピングがかかってるから」 二人は同時にほとんど同じ意味合いを持つ言葉を口にした。 毎日セコセコ働きたくない、けどぐーたらしたい。買い物したい。……狙うは一攫千金。 彼らはどこでどうやって実力をつけたのか。そもそも、彼らはどこでどうして出会ったのか。 全てが謎で、根も葉もない噂だけが飛び交っている。 神出鬼没、法外アンド適当な報酬、言葉にたがわぬ確かな実力。 とにかく謎で、とにかく頼りになる…… それがNondailyWorkers、ジーク=ブレイブハート&エルファリテ=ルグエント。 「船長には私から話しておこう」 「おぅ、よろしく頼むわ」 「じゃあな、良い夜を」 彼らは先に船内へ戻っていった。 ジンは扉が閉まるまでずっとちょっぴり赤い顔でエルを見つめていたが。 (既に彼氏がいるんじゃ、いくらなんでもなぁ……眼鏡っ娘は好みじゃないし……初恋は遠い……) サラはどうした、ジン? 「……さて、と」 「私たちも早く部屋戻って着替えましょ。このままじゃ風邪ひいちゃう――わっ!?」 ジークはいきなりエルを抱きしめた。 「シチュエーション、良すぎると思わないか?」 ダークブルーの瞳で、エルの銀色の瞳をじっと見つめる。心なしか彼女の頬に紅が差したように見えてきた。 「…………きょ…うは、ジークもよく、頑張ったし……」 「し?」 「気のすむまで、して、いいよ」 彼女は両目をつむり、彼の首に手を回すと背伸びして唇をつきだした。よほど恥ずかしいらしく、紅が濃く、はっきりしてくる。 「やりぃ♪」 ジークは子供のような純粋に嬉しそうな笑みを浮かべ、彼女のまだ少し水に濡れた唇に自分の唇をそっと、近づけた。 そして触れあわせ、重ねあう――オプション付きで。 少ししょっぱい味がした。けれど、ときどきいやらしい音をたてながらお互いの舌の感触を確かめ合う二人の仲はもう、甘々であった。 ――十数秒後。 おりしもジークが思いきってエルを押し倒そうとした瞬間に、気のすむまでしていいと言っていたエルのほうから顔を離した。 「なんだよ、俺はまだ……」 「つづきはお部屋で。寒くなってきちゃった」 エルは振り向きもせずに船内に通じる扉を開けた。 「え?あ、おいエル、待てって……」 扉を開けると、もう彼女の姿は見えなくなっていた。 (何をそんなに急ぐ必要があるかな……) ジークは少しいぶかしんだが、 (まあいいか、むこうも乗り気なんだし) すぐに思いなおして歩いていった。 "14"の番号札が貼られた船室。鍵はエルが持っていた。 (きっと中ではもうエルが……) 思わず顔がにやける。 「あん、もう…ジーク、早く来てよ……こんなに体が火照ってるのに…」 本当に色っぽい声が聞こえてきた。股間に存在する「アレ」に違和感を感じる。 (うむ……こんな顔、エルには見せられんな) 無理やり凛々しい顔をつくると、ゆっくりノブを回し、ドアを押し開けた―― ぴこ。 「はわ!?」 口をついて出た情けない悲鳴とともに、目の前が真っ暗になっていった…… 『ピコハン』、下級法術の一つである。 ジークは薄れゆく意識の中、エルの笑い声が聞こえていた。 「まだまだ私の女のコはあげないもんねーっだ」 ――これでピコハン落ちは五回目だぜ。今度こそOKしてくれると思ったのによ… |
九十九
2001/08/24(金)22:24:15公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
●後書き本文
やっぱりジーエルは暴走してくれちゃいました。もう大好き。
っていうか
えっちぃネタが加速度的に進行中ですね。そろそろ自重せんといろんな意味で痛いです。
そんなワケでこのエロコンビ(違)の出番はここまで、と……
次の登場はエクストラエピソードのほうが早いでしょうね、うん。
嗚呼、クリゼフィとイツルーの救済せな……