輝きの海 ACT24
新天地っ!
一行あらすじ:処女はピコハンと鉄拳によって守られました。 その後は魔物やら海賊やら嵐やらに襲われることもなく、船は静かに航海していった。 そして朝になり、水平線に太陽が現れ、昇っていく。東からの強い日差しを感じるようになったころ、陸が、港が見えてきた。 ――予定の十五分遅れである、午前八時四十五分。 エクスカリバー号、シルバニスタに到着! 世界地図の中央上から右下への長い船旅を終え、久しぶりに陸に立つ。 港についた旅客たちがまず最初にしたのは勿論、深呼吸であった。 「それじゃ、私はここでお別れだ。捜し人が見つかるといいな」 フェシスはそう言って街の雑踏の中に消えていった。 「困ったことがあったら、いつでも」 「俺たち"NondailyWorkers"にお任せだぜ!」 ジークとエルも並んでどこかへ行ってしまった。 その姿が見えなくなるまで、ジンがずっとうらやましそうな視線を向けていたのは言うまでもないが。 「さて、俺たちも行くか。まずは荷物置いてから情報収集だ」 「ああ、まずは宿屋へ。……しかし、大きな街だな。ミッズ・カルドとタメはるんじゃないか?」 初めての街を、彼らは案内板を頼りに歩いていった―― このあたりでいちど、師を追う若者たちの物語を中断させていただこう。 皆さんもそろそろ気になりだしているはずだ。 どこにあるのかわからない「答え」を探して旅をしているはずの親子、 今も元気に旅を続けているはずの義姉妹。 どちらから語りだそうか……正直、迷う。 ……やはり、親子の物語から語ろう。 まだまだ運命は交差し始めたばかりなのだから…… 深い森。 その中にぽっかり空いた広場に、彼らはいた。その周りには、黒装束に身を包んだ男が十人はいる。 「貴様ら、人間の忍(しのび)ではないな……?」 ルーフェイはじりじりと追い詰められているのを感じていた。 「イツキを渡せバ命は助けてやろウ」 忍は、クセのある喋り方でこれ以外の科白を喋ることはなかった。 「ふん……魔族とやらもしつこいな。幼子一人奪ったところで、たいした戦力にもならなかろうに」 言いながら、背後への警戒も怠らない。話の途中であっても隙を見せたら――即、息の根を止める。忍とはそういう訓練を受けてきた、戦いではなく殺しのプロだ。そんな戦いにくい相手が、十人もいる。 ――だが。 ここでイツキを魔族に渡してしまっては、今まで旅をしてきた意味がなくなる。やっと「答え」の片鱗も見えてきたところだと言うのに―― (たとえ可能性が千分の一しかなかろうと、俺は九割九分九厘を撥ね退けて一厘をつかみとる……!) 今までもそうやって窮地を脱してきた。ルーフェイは体内の氣を集中しはじめた。 ――と。 ビュンッ! ドカッ! ルーフェイの目の前で、忍の一人が体をくの字に折って倒れ伏す。彼の手の平になんとかおさまるぐらいの大きさの石がその近くにゴトッと落ちた。 ――それを合図とするかのように 「うぉぉぉぉるぁぁぁァァ!」 森中に響くぐらいの大声とともに、大剣を振りかざした少年が飛び込んできた。大剣を無造作に振り回し、迂闊にも背後への警戒を怠っていた忍たちを次々に斬り倒す。さらに、その後ろから盗賊風の少女が現れる。忍顔負けの素早さで走り、リジェが斬りそこねた忍たちの足を払ってゆく。 「リジェ!忍が起きる前にとどめを!先手を打たれたらお終いだよ!」 木の陰に隠れるようにして、白いローブを着た少女が青い瞳を覗かせた。 「がってんだ!おい、そこのデカブツとガキ!さっさと安全なとこに逃げやがれっ」 ルーフェイが頷き、メルビを抱いたイツキを片手で抱き上げて走っていくのを見届けると、リジェと呼ばれた少年は青い半透明の刀身をもつ大剣を掲げた。 「スプレェッド!」 呪文を詠唱することなく、水の精霊魔術が発動する。 巨大な水柱が広場の中心に発生し、あたりには水飛沫が散る。彼はニィと笑って、こんどは大剣を横に振った。 「メぇイル、シュトロォォームぁ!」 水柱が竜巻のようにその姿を変え、その場にいたすべての忍を飲み込んでかき混ぜた。渦に振れた木々の枝がガサガサと激しく揺さぶられる。ポキッという音とともに折れる枝もあった。 陸にできた渦潮がようやくおさまったとき、黒装束を着た男たちの中に動くものは一人もいなかった。 「やりましたね」 盗賊風の少女が手にしていた大きなダガーを腰の鞘におさめて言った。 「リジェ、フレリア、おつかれさまっ」 薄桃色の長い髪をもつ少女も笑みを浮かべて木の陰から出てくる。どうやら盗賊風の少女はフレリアという名らしい。 「……僕なんかにはもったいないお言葉です、姫様」 先程まで豪快に暴れまくっていたリジェは、剣をおさめると一人称まで変わってすっかり物静かな少年にすりかわっていた。 「リジェ!私のことを姫と呼ばないでって、何度言ったらわかるの?リーファでいいんだよ」 「はい…、リーファ……姫様、しかし、あなたは」 どうしても恐れ多くて呼べやしない、といった困惑の表情でリジェは言った。 「リジェ」 リーファと呼ばれた少女はリジェを睨んだ。 「少なくとも私たちにとってリーファは、一国の王女ではなく冒険の旅をともにする仲間。そうではありませんか、リジェ?」 フレリアが口を開いた。 そこから発せられるのは、声変わりをすませた一オクターヴ低い声だ。その中でも高い部類には入るが。顔はどうみても女なのだが、確かに胸はないし体もどちらかと言えば筋肉質だ。 訂正しよう――盗賊風の"少年"と。 「さて……なんかワケありみたいですね、そこの親子さん?」 そのフレリアが、二人に近づきながら言った。 |
九十九
2001/08/27(月)00:08:55公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:フレリア(エドさん)、リーファ=エルナディア=ラディッシュ(イルさん)、リジェ=プロスト(ヤルノさん) あと10人か……そろそろ敵役の人が出るかも。
★ほーめぱーげ更新情報
リクSSアップですよ、落らく殿。本気と書いてマジで痛い。
今度キリ番とっても、頼むからあのネタはやめてくれ。痛すぎ。
●後書き本文
はい、一日遅れでACT24です。嗚呼、宿題がァァ……
場面転換の際にやたら長い語りが入ってますが、
これはある種のセリフととっていただければ幸いです。
……とか言うとラストシーンを読まれてしまいそうな気がしますが。