輝きの海 ACT27
Mysterious Girl


一行あらすじ:墓荒らしは重罪です。



『ヴァルニア全土を巻き込んだこの戦争は、後に「ヴァルニア戦役」と呼ばれることとなる。

                      ――第一章「大戦終結、動乱の始まり」 完』

 ――そのページに枝折が挟まれ、本はいったん閉じられた。
 彼は馬車の右端に座っていた。すぐ傍ではレイガやらミルフィーユやらサラやらジンやらが、ぎゃあぎゃあとお喋りしている。付き合いきれないので仕方なしに小説を読んではいたが、どうにも五月蝿くてとても集中できそうにない。
 ふと外の様子を見ると、そこには広い広い平原だけが広がっていた。
 魔物ではない、野生の動物らしき姿も点々と見える。
「……まだフォーレンシア平原を抜けていないのか。この馬車、もうちょっと速くならないのか?」
 ただガタコトと平原をひたすら歩く馬を太い手綱で操る男に、アゼルはもっと急ぐよう呼びかけた。
「おぅ、パトリシアももうトシだ、そんなに無理はさせられねぇんでな。そのかわり、その辺の若いやつと違ってそうそう転んだりはしねえし、むやみやたらに揺らしたりしねぇ。快適だろ?」
「……とにかく、日没までにはボルアロスに着いてくれよ」
「おぅ、わかってら」
 男は新しい煙草に火をつけながら答えた。






 ぽち。

 ――ひゅるるるる。

「うわ、すっごい嫌な予感……」
 フレリアは上を見上げた。
 いつのまにか天井の一部が開き、そこから伝説の芸人「トリフ」がよく使っていた――

 ごーーーん

 落ちてきた「それ」を避けることはできなかった。
 或いは、避けようとしなかったのかもしれない。
「……金ダライ、ですねぇ」
 しばし呆然とレグ=ノーレス像を見つめる。
 が、すぐに我を取り戻してもう一度先程のスイッチを押す。
「『しかして、真実は二度目に来たる』です」

 ぽち。
 ――ガコォン!

 轟音とともにレグ=ノーレス像の上半身が落ちた。
「げ!?」
 これを元に戻すのは大変だ――なんて考えていると、残った下半身から声が聞こえてきた。
「わたしを起こすのは、だれ……?」
「え?」
 それは明らかに人間の少女の声であった。
 ちゃんと目を向けて見ると、確かにレグ=ノーレス像の中は人がひとり入れそうな空洞であり、そしてそこでは一人の少女が今まさに眠りから醒めようとしていた。
 茶色のロングヘアを後ろで一つにまとめている。服装は簡素なブルーのワンピース。一見、どこにでもいそうな少女だ。どうして暗く、食べ物も無い石像の中で今まで生きてこられたのだろうか。
「あなたはだれ……」
 少女は菫(すみれ)色の大きな瞳で、じっとフレリアを見つめた。
「え……あ、わ、私はフレリアです。そう言うあなたは?」
「カリン=シャエナ、それが私に与えられた名前です」
 カリンと名乗った少女の瞳は、どこか焦点がズレているように一定の大きさから変わろうとしなかった。
「あ…あなたはいったい?どうしてレグ=ノーレス様の石像の中なんかに……」
「今はヴァルニア歴何年ですか?」
 フレリアの質問には答えず、逆に問い掛ける。
「…1121年ですが?」
「それだけしか経っていないのですか?……ああ、やはり人間は愚かなのですね」
「…………?」
 彼は目を白黒させるばかりだ。
「まあいいでしょう……墓守モリスンの子孫よ、今の世界はどこで乱れが生じているのですか?」
「え?ちょ、ちょっと待ってくださいよ、私はモリスンなんて家の生まれでは……」
「『墓守の詩』を知るものならば、世をよむ者であるはず。さあ」
 カリンは語調を強めた。
「あ…いや……その…………わ、私は…私はただの盗賊、財宝目当てに仕掛けを解いた、それだけですっ!」
 そう言ったきり、フレリアは後ろを振り返ることなく逃げていった。
「………………」
 そして、あとにはまだ話が掴めていないといった表情のカリンだけが残った。
「かすかな邪気は感じます……教えてくれないなら自分で探すまで」
 カリンはレグ=ノーレス像を元の様に戻し、永い眠りから醒めたばかりでまだ言う事を聞かない足を一歩一歩確かめるように動かして歩きだした。




 重苦しいしかめっ面を崩す様子もなく、ルーフェイはただ悩んでいた。
(レグ=ノーレス像を前にしても反応なし、か……もともと形ばかりの墓だから期待はしていなかったが、これで知っている限りの鍵を試し尽くした……全てがハズレだ、かすりもしない。どこだ……どこに本当の鍵がある……)
「パパ、さっきから難しい顔してるけど……大丈夫?」
 声に気付いて見下ろすと、イツキが心配そうに彼を見上げていた。
「……イツキ、レグ=ノーレス像から何か感じるものはあったか?」
「ううん、カッコイーな、ってだけ……あ、でも」
 思い出したようにイツキは続ける。
「あのね、僕、みんな以外の人の気配を感じたんだ。あの石像の中に」
「何…だと……?」





「おっそいわね……フレリアったら、何してるのかしら」
 待ちくたびれた様子でリーファが呟く。
「僕が見に行ってきましょうか、リーファ様?」
 どうやら彼なりにリーファに対する二人称について決着をつけたらしいリジェが言った。
「別にいいわよ、そのうち出てくるでしょうし。暗いなか歩いてケガしても知らないよ」
「いえ、途中参加とは言え大切な仲間。見捨てるようなマネはしたくありません」
 諭すようにリーファに言い聞かせる。
「……リジェ、あなたきっといい蒼騎士になれるんじゃなくて?」
 多少の皮肉もこめてリーファは答えた――ちょうどその時。
「お、お待たせしました〜」
 疲れと焦りが半分ずつ入り混じった様子でフレリアが帰ってきた。
「遅かったじゃないの、心配したわよ!」
「すいません、さあ、行きましょう」




九十九
2001/08/31(金)21:36:54 公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。


■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:カリン=シャエナ(サカモト(姉)さん)
●後書き本文
はい、更新遅れまくりでゴメンナサイでこんばんは、九十九です。
宿題に追われる中ノートの隅っこに書き留めたネタを主としているため、場面は飛びまくってるわ妙な台詞回しだわでかなり分かり難いかと思われますです、ハイ……
兎に角、夏休み最終日というこの時期にのんびりとキー叩いてる、そんな暴走気味の私に撲殺パンチを。
えぇ、宿題はまだできてませんとも!今から徹夜DEATH!


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