輝きの海 ACT28
シュアランの清き流れ
一行あらすじ:怪力少女あらわる。
――少しずつ、すこしずつ
――歯車が噛み合い、回り出した
――けれど、幾つもの歯車の先で
――ひときわ大きな歯車の歯が
――欠けようと、していた。
水清きシュアラン河の流れる街、ネーリ。
河が街を東西に分けるように走り、街は二つの大きな橋によって繋がれている。
西側から街へ入ってすぐのところには、噴水のある広場が設けられている。
そのかたすみに、気を失って倒れている一人の剣士がいた。燃えるような赤い長髪や顔立ちから見るに、おそらく女だろう。黒いシャツの上に軽装の胸当てを着込んで赤いマントを羽織り、腰には長剣を差している。また、右腕には薄赤くも白い布が巻かれている。傍らには荷物が入っているらしい布袋。
周りには既に、ちょっとした人だかりができていた。
「なぁ……この人、生きてるのか」
男の一人が口を開いた。
「お、お前、ちょっと確かめてみろよ」
近くにいた男がその男をけしかける。
「えぇ?か、勘弁してくれよ。俺はそんな勇気は持ってねえ」
言われた男はぶるぶると首を横に振った。
直後にその男は前につんのめった。後ろから勢いよく押されたらしい。
「なんだいなんだい、大の男がだらしないね!このマリーおばさんにまかせときな!」
雑貨屋を経営する、恰幅のいい中年女性だ。買い物の途中だったらしく、腕に買い物カゴを下げている。
「ほら、どうしたんだい?こんなところで寝てたら体に毒だよ」
「…………み…ず」
剣士はやっとのことで生気のない顔を僅かに上げ、喉の奥から搾り出すように言った。
街の東側から、二つの影が現れる。
「きれいな街ね」
「そうね…」
蒼い修道服を着た女性が二人、並んで歩いている。
少し背が高いほうの女性は、まだ少女の面影が残っている。けれど常に穏やかな微笑みを湛え、なんでも受け止めてくれそうな落ち着いた優しさを持っていた。
「ゼフィー、この街ちょっと変じゃない?人が一人もいないわ」
背の低いほうの女性が怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
「うん……あ、あっちのほうから声がしない?」
ゼフィーと呼ばれた女性は、橋のむこうを指差した。
「……あっち?」
なるほど確かに、ざわざわと聞こえてくる声がある。
「行こうっ、クリス義姉さん」
「もちろんよ」
クリスと呼ばれた女性は、ゼフィーを追って小走りで声の聞こえるほうへ向かった。
ちょうど野次馬がぞろぞろと追いたてられて出ていくところであり、現場の状況を容易に知ることができた。行き倒れになっていた女剣士がいま宿屋の一室で安静にしているが、目立った外傷はないのにひどく苦しんでいる様子なのだという。それこそ自分たちの出番だと、二人はその部屋に入っていった。
剣士の右腕に包帯のようにきつく巻かれていた布が取り去られ、クリスはそこに隠されていたケガの酷さに声なき悲鳴をあげた。血こそ大量には出ていないものの骨が見えそうなほどに深く穴が穿たれ、その付近は濃い紫色に変色している。よく見れば右腕のその部分から下は、左腕と並べてやっとわかる程度ではあるが色が違っている。牙に猛毒のある魔物に襲われでもしたのだろうか。しかしその毒はまだ体中にはまわってはいないように見えた。
今なら法術だけでもなんとか治りそうだと判断し、クリスは呪文を唱え始めた。
「ウティ ネムーサ ピウシム、アンチドート」
まず解毒の法術で毒を消し去る。
「……ディンスウォン ルーフン ティディヤウムグ ティー ドウセププンエディ、ヒールっ」
続いて、癒しの法術で外傷を癒す。この法術は被術者の体にキュアほどの負担がかからない。それと同時に意識に呼びかけ、生きる気力を奮い立たせる。
「………………ぅ……」
薄目を開けて、女剣士は蚊の鳴くような呻き声をもらした。
「大丈夫?アンタそこで行き倒れてたのよ」
「……わ……たし……は…?」
むくりと上体を起こして、必死に何かを思い出そうとする。だが、いくら記憶を遡っても……わからなかった。
昨日までのことはおろか、
今日のことも、
自分のことすらも。
ふと、近くにあった布袋に目がいった。長く使われているらしくだいぶくたびれていて、ところどころに当て布がされている。思い出せない記憶の奥底に、それを使っていた覚えがある。それには、「SAKI」と刺繍がされていた。
(サ、キ、……わたしの名前はサキ?……何も思い出せない……)
九十九
2001/09/06(木)00:11:00 公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:サキ(朝日奈 咲さん)
★ほーめぱーげ更新情報
投稿してなかった間にいろいろと更新してますです……
●後書き本文
えーと(叩)たいへん(斬)間が開きまして(蹴)申し訳(突)ございません(殴)。
新学期のお約束によって多忙な日々を過ごした挙句ネタも出ない、そして再び修行モードに入ってたという三重苦によって結局五日間も空いちゃいましたね。
そんなこんなで今回、表面的にはセリフの書き方なんかに多少の再考が入っております。
!と?の乱用を控えてみましたが……分かり難くなっちゃいましたかね?。
……と言うわけで、超久々な修道女コンビ+αです。
今回でパーティキャラは出尽くしたと思って頂いて結構です。
あとは単独行動か敵キャラとしての登場だと思って間違いありません。
――問題は
現時点で既に終盤まで居通すパーティキャラが総勢13名になっていることですね。
ちなみに男女比は偶然にもほぼ1:1、細かく言えば7:6となっております。
ラストダンジョンでは三分割……って、FFVIですか?
……嗚呼、それにしても今までのACTで「やりすぎ」に当てはまる場面って、何箇所もあるぢゃないか……
社会的に失格だな、こりゃ。