輝きの海 ACT29
方舟―ハコブネ―
一行あらすじ:記憶喪失の女の人がマリーおばさんに助けられました(意味深)。
「……おいおい、何だよ、あれは……!?」
「信じたくはありませんが……あの空間の影響でコントロールできません。吸い込まれます!」
「そんな……!」
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「おぉ。そんで、タゴサクどんがよ……」
「どわっははは、そりゃぁいいべ」
――キラッ。
「お?真っ昼間から流れ星だべか?」
――ゴォォォオオオッ
「……う…うわ、にに逃げるべさーーーっ!!」
――――ドォオオオォォォォンッ…ッ……!!
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空から「方舟」が落ちてきたという噂はまたたく間に近辺に広がり、一日経つとネーリにも届いた。宿の主人とその妻が話しているのをドア越しに聞くや否や、サキはまだ安静にしているべきだというのに街を飛び出して墜落現場へと向かった。
それに宿の主人が気付いたのは、実に三時間ののちのことだった。
女は走っていた。
赤い長髪を風になびかせ、息を短く断続的に吐きながら一歩一歩足を進める度に、一つ一つ殻が剥がれていくように記憶が戻ってきている。暗い檻に閉じ込められた記憶の中に、同じように何かを求めて走っている過去があった気がする。けれどそれは、何かから逃げているようなイメージも伴っていた。
IIIS、スリー・エス。
突発的に、その単語が浮かんできた。それは自分にとってとても重要な、しかし何か穏やかならぬ響きをもった単語だった。彼女は痛む体に鞭打って、先を急いで足を速めた。
目の先に、一本の柱のように大地に突き刺さった建造物が見えてきた。既にそこには、かなりの人だかりができている。どうやらこれが「方舟」で間違いないようだ。
大勢の見物客に混じって、それを見上げる。先端部分は地面に埋もれてよくわからないが、巨大な焦げ茶色の船体に大砲らしき巨大な筒が一つついている。他に砲門と呼べるものはないが、船底とおぼしき部分に一箇所ハッチがある。また、よく見るとその反対側にもそれらしき箇所がある。何らかの形で小型艇を収納・発進する船だったのだろうか、しかしただの船でないことは空から落ちてきたことから見ても明白だ。
と言うより、そもそも船ですらないのかもしれない。「方舟」という俗称の先入観にとらわれて船として見ていたが、現在のヴァルニアの技術力では帆の無い船などありえないからだ。電気や蒸気を使うなどの案は出ているが、失敗だらけで実現には至っていない。
しばらく呆然とそれを見上げていたが、失った記憶を取り戻す手がかりは掴めそうになかった。
(何かが起こる、って予感はしてたんだけどな……)
踵(きびす)をかえし、とぼとぼと歩き始めたその時だった。
「――おい、そこのお嬢さんっ」
突然誰かに呼びとめられ、サキは慌てて振り返った。そして、声の主である黒ずくめの男の顔を見て――
記憶の片鱗が集まり、一つの集合体となってはっきりしたイメージになる。
――二年前。
――鈍い音。
――赤く染まった剣。
――血のにおい。
――横たわる死体。
「……話があるんでしょ?ここじゃまわりが五月蝿いから……あそこへ」
考えるより先に口からは言葉が出て、左手は近くの小さな森を指差していた。
「…………ああ」
男はその返事が予想されたものだったかのように、ただ頷いてサキの後についていった。
「久しぶりね……スリー・エス。何年振り?」
「二年だ。相変わらず元気そうでなによりだぜ、サキ。それから俺のことをスリー・エスと呼ぶな。シーファックス=セイクリッド=シュナイダー様、と呼べ」
「様、は余計なんじゃない」
言いながらすらり、と腰の剣を抜き放った。
「?おいサキ、何する気だよ!?」
シュナイダーと名乗った男は、いきなり剣を突きつけられて気の毒なほど狼狽した。
「決まってるでしょ……」
手にした剣に魔力を込める。
途端に一般的なサイズだった長剣が、女性が扱うには大きく重すぎるほど何倍にも巨大化する。質量保存の法則を法術によって無視して重量まで引き上げ、一振りするだけで大岩をも砕く破壊力を秘めた剣と化した。
「あなたを、」
いつのまにか、サキの薄青の瞳が燃えるような赤色に変わっていた。
「殺すのッ!」
特大の剣を大上段に構え、並外れた瞬発力で飛び出す。
「くっ!」
シュナイダーは右手の平を虚空にかざした。その姿勢のまま目を瞑って眉間に皺を寄せ、一本の長剣をイメージする。次第に右手から青白い光が一本の棒のように伸び、およそ一メートルと少しのところで伸びるのをやめ、ただの細長い棒から一本の剣へとその形を変えてゆく。
彼の精神エネルギーが創り出す剣――ノヴァブレイド。
彼の意志によって自在にその性質を変えられるそれは、今は衝撃を受け止め分散させる能力だけを強くしている。彼に戦う意志はないし、それに、たとえ正当防衛であってもサキを傷つけたくはないからだ。
「ウェインの仇!」
「ちょっと待て、この二年の間に何か妙なこと吹きこまれたのか!?お前、何か果てしなく勘違いしてるぞ!?」
「五月蝿いっ!あなたのせいでウェインは死んだんだ!わたしの、わたしのウェインを返せ!」
ついにサキの剣がシュナイダーのノヴァブレイドを弾く。
ノヴァブレイドはシュナイダーの手から離れると、音もなく消えていった。
「お、おい待て、マジに殺す気か!?冗談だろオイ!?」
尻餅をついて、剣を振り上げた恐ろしい形相のサキを見上げた。その顔はどう見ても真剣そのものであり、動きには一片の迷いもない。
そして、剣が彼の脳天めがけて振り下ろされ――――
「やめなさい!」
九十九
2001/09/08(土)00:16:33 公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
■今回初登場のきゃらくたー達:シーファックス=セイクリッド=シュナイダー(BWさん)
★ほーめぱーげ更新情報
日記のみ……ガクリ
●後書き
……マ……マ○カレイド(ロマ○ガ3)ですか?(大汗)
それはともかくとして、どんどん展開が行き当たりばったりng状態になってきました。
リッドとかファラとかチャットとか出してどうするつもりですか?(心の声)
バンエルティア号があんな状態ですけど、彼らはセレスティアどころかインフェリアにも帰れるのですか?(心の声)
ウェインって誰ですか?(心の声)
……ヤバいですね、未解決の謎が多過ぎて伏線もタコ足配線になって足に引っかかってくれます。
本気でマズいです。とりあえず、応援よろしく〜(爆)