輝きの海 ACT30
インフェリアン・ファーマー
一行あらすじ:復活じゃい……復活ぢゃーーーいっ!
しかし、サキは剣を止めようとしなかった。声の主らしき女は仕方なしに地を蹴って飛び出し、一瞬でサキに近づくや否や強力な左の掌底でサキを軽く五メートルは吹っ飛ばした。大剣が手から離れ、もとの大きさに戻る。それを女は素早く回収し、振り向いてうしろへ投げつけた。短い悲鳴とともに、胸のあたりを剣に貫かれた小型の魔物がその命を大地に吸わせていく。
彼女が極めた流派の地上戦における基本技、掌底破を放った直後に、女は魔物の気配に気付いていたのだ。
(うん、腕はなまってない。イケるイケる!)
遥か遠くの二つの星の間に起ころうとしていた、グランドフォールという名の惨劇。それを、神をも凌駕する力によって止めた六英雄の一人……より豊かな大人の女性の雰囲気を身につけた――
インフェリアン・ファーマー、ファラ=エルステッド。彼女こそが声の主だった。
脱出ポッドの落下地点であるストラ・イレイザー神殿付近の森からさ迷うこと一日、同じ船に乗っていた二人を探して歩き回っていたが、街一つ見つけられずにいた。
「……だれ!?わたしの復讐の邪魔をしないで!」
起きあがり、充血しているわけでもないのに薄青から純粋な赤に色を変えた両眼で、サキは親の仇でも見るようにファラを睨みつける。
同時に口から発せられた言葉は、紛れもなくインフェリアの言葉としてファラの耳に入った。不時着してからつけ直したオージェのピアスによって自動翻訳されたのか……ピアスの性質から考えると明らかにそれはない。
明らかにインフェリアともセレスティアとも違う世界でありながらいきなり言葉が通じることにファラは多少の疑いをおぼえたが、今は言葉が通じるのであれば理由などどうでもよかった。
「私はファラ。人が人を殺そうとしてるところを見て黙ってみてる人間なんかいないでしょ」
そして、栗色の瞳で負けじとサキを睨む。
「この男は、二年前にわたしの大切な人を殺した……だからわたしはこの男を殺す。そのどこがいけないと言うの!」
「違う、ちょっとは人の話を聞けよ、サキ!」
黒づくめの男が立ち上がり、声をはりあげる。見かねてファラは間に入った。
「聞かせてくれる?二年前に何があったのか……」
「あなたに話したって何の解決にもなりゃしないわ。全てはこの――」
「……いや、聞いてもらおう。サキも俺を殺すのは少し待ってくれよ?」
木々の葉から少しずつ雨粒が滴り落ちてくる。
「――あれは、今日みたいにしとしと雨が降るいやな日のことだったな……」
天を見上げると、どんよりと曇っていた。
「夜中に、衰弱しきったウェインを連れたサキが何でも屋をやってた俺のとこに来たんだ」
「あの時、頼れるのはスリー・エスのところだけだった……」
サキも同調する。
「俺は拒まずに二人を中に入れてやって、それからしばらく面倒を見てやった……」
シュナイダーは淡々と話していたが、そこから先は言おうとしなかった。
「――でもね、ある日ウェインはベッドの上で冷たくなってた……胸に刃物を突きたてられて、ね」
未だ赤いままの瞳を憎悪に燃やしながら、サキは話を続ける。
「その日、わたしは仕事が長引いて、帰ってきた頃にはもう日が沈みかけていた……そして家には、いつも夜中近くに帰ってくるはずのシュナイダーがいて、ウェインのそばに呆然と立ち尽くしていた……!」
そこまで行って、サキはファラですら反応できないほどの早さで動いたかと思うと、先程の魔物が光となって四散していった地面に突き刺さっていた剣を引き抜き、再び剣を巨大化させてシュナイダーに斬りかかろうとした。
「だから、わたしはウェインの形見のこの剣であなたを――」
トンッ
「っ……」
ぽろりと大剣を取り落とすと、再び大剣はただの長剣に戻った。
数秒遅れでその横にサキの体が横たわる。
「……ふぅ、間一髪ってとこね」
あの速い動きのなかに、彼女にしか見えないほんの僅かな隙があったのだろうか、ファラはその鋭い手刀をサキの延髄に叩きこんでいた。
「ちょっと強くやりすぎちゃったかもしれないけど――どっちにしてもしばらくは目を覚まさないよ。その間にゆっくり話を聞かせてもらう、それでいいよね?」
「……ああ」
ただ者ではないと感じつつ、シュナイダーは答えた。
ちょうど、サキが飛び出していってから三時間と少しが経っていた。
宿の一室にサキを寝かせて、ファラはその横のソファに座ってシュナイダーの話を聞いている。
「……まず、俺とサキが会ったときのことから話そうか。さっきも言ったが、俺は昔、ある街で何でも屋をやってたんだ。俺は決まった仕事を続けるのが嫌いだったし、食ってくぶんにはたまの仕事のだけで充分だった。だけど……ホントに、今にも死んできそうな青白い顔をした男を背負った女が夜中に訪ねてきたときゃ、さすがにビビったぜ。ま、何でも屋って看板を掲げてるからにゃ何でもやってやらねぇとホラ吹きになっちまうし、見捨てておけるほど俺は非情に徹しきれねえ。金は1ガルドも持ってないみたいだったが、俺は二人を住まわせてやった」
相変らず淡々とシュナイダーは昔話をする。
「俺も叩けばホコリの出る人間だ、二人にも過去に何があったのか、とやかくは聞かなかった……そして、何日目だったか、サキが仕事を始めるって言い出したんだ。俺はいいって言ったんだが、世話になりっぱなしじゃ悪いとか言って、街の酒場で働き出した……ただし、昼間だけな。その時俺はちょっと大きなヤマの途中で、毎日夕方から夜中まで家を空けてたんだ。それでもいつも、俺が家を出てからサキが帰ってくるまで、そんなに長い開きはなかった……」
シュナイダーは一呼吸置いた。
「けれど、ある日……そのほんのわずかな間に、ウェインは殺されていた……俺は『そいつ』と一度すれ違った――なのに気付けなかったんだ。今でもそのことを思い出すと自分が厭になる……けどな、そいつは一つのミスを犯した――俺ともう一度すれ違っちまったってことだ。その時すでに、そいつの全身から人殺しの気が溢れてた。俺はそいつをぶん殴るより先に慌てて家に戻って……そこにサキが帰ってきたって寸法なんだが……サキはあの時、俺は殺ってないってことを判ってくれたはずなんだがな……」
どうも腑に落ちない、とでも言いたげな表情でシュナイダーは口を閉じた。あとは質問待ち、ということらしい。
「二年の間に、その二人のことについて何か調べた?」
「ああ、二人の関係はわからずじまいだったが……個々についてはなんとか、な。サキはどうってこたぁない市井の娘、但し両親とは決別している。……次にウェインなんだが、こいつは凄いぜ、聞いて驚くなよ?『エニグマ』のメンバーだったんだ。――ここからは俺の推理なんだが、何らかの形で二人は知り合い、ウェインは『エニグマ』を抜けた、或いは抜けようとした……が、『エニグマ』の『鉄の掟』によって制裁をうけ、半死半生となった……そして、処刑を待つばかりの身となったウェインをサキが助けだし、そして俺のトコに来た……こんなところか」
あくまで俺の推理だ、と念を押す。
「『エニグマ』?」
「知らないのか?嬢ちゃん、どこの出身だ?」
ファラは答えられなかった。遠い星からやって来た、なんて言えるはずがない。
「……まあいい、『エニグマ』ってのはヴァルニアにおける最大の反王政勢力だ。掲げているのは理想と希望だが、やってることは破壊と殺戮。ったく、頭目の顔が見たいぜ」
「二年間、あなたは何をしていたの?」
「ああなった以上、その街には居づらくなってよ、ウェインの墓だけおっ建ててからサキの後を追うように流れ者になって、『エニグマ』の情報を集めながらサキをさがしていた。ただ、近くに戻ってきたときには墓参りには行った……けど、一度もサキには会えなかった。今日、やっと見つけたんだ」
「そうなの……」
真剣に、真っ直ぐに自分のほうを見ながら話すシュナイダーを見て、ファラはこの人ならイケるかな、と思い始めていた。
「私は――」
九十九
2001/09/17(月)23:39:56 公開
http://members.tripod.co.jp/Tsukumo_99/
■この作品の著作権は九十九さんにあります。
■あとがき
★ほーめぱーげ更新情報
最早書けるよーな量でも質でもありません。
●後書き
あぁ、一週間……以上、経ってますね。いやはやホントゴメンナサイ。
つっても俺の作品を楽しみにしてくれてる人は極僅かorゼロでしょうが^^;
なんだか今回は説明ゼリフばっかです、嗚呼。設定が先にできたのはこれが初めてか……
気がつくとこうなってしまうから先に説明を作ら(れ)ない体質なのかもしれません、俺は。
さて、ついに出ましたね……えたにゃ本編からのキャラが。
しかもファラ嬢です。が、俺のほめぱげ内の某コンテンツを見てくれた人へ一言。
「好きだからじゃなくてストーリー上の都合なんですよぉぉ(泣)」……マジです。いやホント。
いくら「萌」でもさすがにそこまで影響されません。アレとコレとは別なんです。
……し、信じてくれぇぇ。
※休筆中に某所でネカマみたいだぞっつー忠告を受けたんで、とりあえず一人称は意識的に"俺"にしていきまふ……