初めて音が震えたとき、全てが、全ては、ふっきれたと感じた。君の中に渦巻くその感情やど うしようもなく、泣きたくなってしまうような話。自転車のスポークはどんどん回っていって いつからかその回転数を数えることは出来なくなっている。君の手。僕はただ前だけを見て。 君の手。それが僕を抱いている。スポーク。車輪の摩擦。君の手。衣擦れみたいな音。スポー クのさらさらという回転音。君の手、肌、指先。クラヴィネットを奏でて、クランチ。少し、 破裂するような、そう、あやうい刺激。夜。君の手。街灯、白。無機質な幹線道路。見事まで の対比の構図。君の柔らかい手、黒く佇んだアスファルトの。金属。スポーク。君の温もり。 思い出だけでは、生きられはしない。