1. ふと、君に桜色のブラウスを。ため息、倒錯。水の呼吸とそのエコー。暮れていく灰色のフィ ルタ、澄んだ空気、青。立ち眩むような春の香り。桜色のブラウスの淡く、かすれた痕跡をな ぞる。懐かしい倒錯。浮遊感を伴って、夢のように。君の幾重にも重なった視線。春の暖かさ や少しの肌寒さ。世界。気怠さ、呼吸のリズム。君の体温。一定のリズムの中で反復される、 全ての運動。ざらりとした不安。隙間から運動が零れている。君の柔らかい手、視界は静かに 塞がれる。静かな酸化と微かに震える鼓膜。君の呼吸がいつまでもエコーしている。 2. あの頃の声を、焼き直している。声や記憶の中の信号、君の髪の感触、肌や頬。ネガとポジ。 コンクリートやネオン、地下の熱気やざわめき。春、立ちくらみそうになりながら。限界まで 走る。雑草の呼吸、放たれる蒸気、エコー。目はただ一点、前だけを見て。淡い白の街灯と、 柔らかなナトリウムランプの光。静かな世界。色は一点に集中して存在している。一定のリズ ムで繰り返される全ての運動。隙間からこぼれ落ちる暖かな春に、妄想ばかり見ては狂ってい る。 1+2=4? 香りに倒錯しながら焦る春の日。君は桜色の襦袢などを着て、美しく。そっと引き寄せて香る 春と君。小糠雨の多い数日が過ぎて晴れ続きの最後の予報。新緑、眩しすぎるくらいに。そし て君の桜色。小さく黒い瞳。強い風が時折、吹いて揺れる君の髪。遠くからも春の香り。狂っ てしまいそうになる、小春。死んでしまいそうになる、小春。溺れている、ずっと春。 壊れてしまった声を拾い集め、その漏れだすところを塞ぐ。焼き直す、昼下がり、カフェー。 光の揺れ幅と黒いソファ、白い壁。空は晴れて、謝らなければならないようなこと。コーヒー とフルーツ。空を誰かが切り取って。道端の花は居眠りを繰り返している。倒錯と妄想の缶詰 を開けて。激しく倒れよ!という誰か、の号令が聞こえる。 川沿いの遊歩道、人々の行き交いに溺れる。君の手を引いて午後の光を追いかける。光を受け て輝くコンクリートの建築やガラス。君は少し眠たそうな目をして。後ろからくる自転車をよ けながら、よろよろと漂う、土曜、午後、健全。ばらばらになっていたスケジュールのひとつ ひとつの徐々に繋がっていく感じ。早すぎた時間を巻き戻す。 夜、暖色の照明。黒くなった夜空。君の桜色の襦袢がよく映える。背景に唸る空調の低音が頭 の中でゆっくりと回転して、まばたきのたびに涙の出るのをどうにかしたいと思いながら、夜 をゆっくりと消化する、君の目は未だに薄曇りの眠気を帯びて。柔らかな肌の反射する光量は 気がつかないほどの少なさ、僕はまたまばたきをして、涙を流す。 *激しく倒れよ---沢木耕太郎の著書名より引用 参考url-http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/416364850X/249-6590441-2364353