季節から離れていく視線をどこかに落とし、雨は降る。サンプリングされた声、全ての混沌か らくるもの。ぼつ、ぼつ、と透明のポリエチレンに弾ける雨粒。溶けたつぶやきのノイズだけ がひどく耳につき、どうしてもそちらを向いてしまう。ステレオタイプ、奥行きのある録音と どうしても思い出せない君の声がどこかしら、絡み付いて。どこかで、見たような影。その残 り香のようなものと、雨の降る街にひどく不似合いな初夏と新緑がまた、極まりの悪そうに空 を見ている。残像だけを残した柚子を絞るとひどく甘く、双子の光がゆるゆると降りてきては 飛び込んでいる。星空は雨粒で覆われている。僕は何も知りはしない。ただ君の、決まりの悪 そうな謝罪、だけが、耳を突いて、離れない。 ゴミ捨て場の隅には欠けた白い瀬戸物が置いてあり、椿の花がその中で黒ずみ、腐っていた。 呼吸のない世界と、解放された世界には大きく分けてふたつの異なる種類の音が混在していて 選り分けられたそれを丁寧にアスファルトの上にかぶせていく。もし、その夜に夢を見るなら それは赤い夢だろうか、青い夢だろうか。そして、私はその夢占いから逃げ切る自信がなく、 ひどく腫れぼったい目は閉じるたびにひどい熱をもっている。