ダニーは確かに酔っていた、同じくドンもかなり酔っていた。
その日はお互い非番が重なったので誘いあってバスケの試合に行った帰り、贔屓チームがボロ負けでくさってたせいだ。スポーツバーでビールとウイスキーを浴びるほど飲んで、近かったドンのアパートにダニーも酔ってふらつく足で転がりこんできた。
狭いアパートで何も無い、リビングに一つしかないソファの背もたれを倒して簡易ベッドにしているドンを尻目に、ダニーはジャケットとTシャツを脱ぎながら勝手に間仕切りの奥のベッドへ向かっていく、慌てて
「ヘイ!ダニー、お前はこっちだ、それは俺が寝るベッドだよ!」
そう言うとドンはジーンズを脱ごうとしてるダニーの肩を後ろから掴み引き寄せた、その時脱ぎかかったジーンズに足をとられてダニーが体制を崩し横倒れにベッドに転がるとドンも引っ張られて一緒にベッドに放り込まれてしまう、大の男二人分のダイウ゛に安物のセミダブルベッドのスプリングが悲鳴を上げた。
ドンがベッドサイドのルームライトを点けると、薄灯りの中ダニーの酔って焦点の合わない眼が自分の体の下に浮かび上がった。いつもの眼鏡は外したのかさっき倒れた拍子に飛んでいったのか、普段は険しい瞳が今はぼんやりとドンを見つめている。酒の匂いが体から放たれていてダニーがジーンズを膝まで下ろした半裸なのに気付く、モスグリーンのボクサーショーツもずり下がって腰骨の下できわどく止まっていた。
「…何見てんだよ。」
ダニーがフラつくほどの酔いの割には、はっきりした口調でドンを見上げるように言った。
「ひどい恰好だ、おい、起き上がれるか?あっちのソファで寝てくれよ。」
ドンが言うと、ダニーはいつもの子供っぽいしかめっ面で小さく悪態をついて顔を背けた。酔って荒い息の胸が上下している、逞しく引き締まった体に幼い顔が不釣り合いだとドンは思った。
「…ドン、俺の体を見てんのか?」
ああ、と言いかけてドンは口ごもった、ジロジロ見ていたわけでもないが気恥ずかしい気分になる。
ダニーのこういう所が苦手だ、とドンは思った。挑戦的で、奔放でいて狡猾、人の心を掻きまわすことばかり口にする。
「これが女だったら?」
ダニーは膝に引っかかっていたジーンズを足先で脱ぎながら続けた。
「俺は、どっちだっていい。」
その時は深く考えなかった、酔ってるせいもあったしダニーがその気なのはボクサーショーツの中が立ち上がりかけているのを見てもわかる、ソレに煽られて…まぁ、いいか、と思ってしまった。
ドンがベッドの上で膝立ちになって着ていたTシャツを脱ぐと上背のある広い肩と逞しい胸板が露になる、ジーンズにダニーの手が伸びて
「これ、いいな、色は今イチだけど。」
そう言いながらジッパーを下ろした、ドンはその手を払い下着ごとジーンズを脱ぎ落とすと
「お前が穿くか?足が余ってしょうがないぞ。」
そう言ってダニーの上に被さるように体を沈める、いつもの軽口だがドンはその裏に微かな緊張と興奮を隠せなかった。
適当な愛撫に、お互い乱暴に腰を合わせて性急な挿入を待ち焦がれている、どっちでもいいと言った言葉がダニーの挿入を許す言葉にも思えた。
コンドームをライト下のサイドテーブルの引き出しから取り出すと一つをダニーに渡す、ドンはダニーの挿入を許すつもりはなかったが射精でシーツを汚したくなかった、お互いのそそり立ったものにコンドームをつけているのが滑稽に思える。
ダニーは体の上でドンがコンドームを付けるのを見て、薄笑いしながら自身の先走りですでに濡れたペニスにコンドームをゆっくりはめた。
ドンは慣れない様子でダニーの高く上げた膝に手を添わせて自身の腰を進めた、女の其れより固くて狭い抵抗があったが、中は反対に柔らかく薄い内壁を傷付けてしまわないかと思ったドンは一瞬動くのを躊躇した、だがそんなドンに感付いたのかダニーが、
「大丈夫だ、俺は痛いくらいじゃないとイケないんだ。」
そう言って腰を浮かせて受け入れたドンをさらに飲み込むように、ゆっくり腰を動かしはじめた。それにつられてドンもダニーの腰をかかえて、ダニーに被さるように体全体で突き上げ、責め立てる。
ドンの荒い息とダニーの浅いあえぐ声が薄暗いベッドの軋む音に混じって部屋に響いていた。
ダニーの声が切々になり、震えるように受け入れたドンを締め上げた。ドンはわざとゆっくり先まで抜いて反応を見る、ダニーは恨めしそうな顔で
「意地悪するな、もう少しなんだ…」
「どうする?」
ドンは聞いた。
「もっと…俺のぐちゃぐちゃになる位…」
言い終わる前にドンはダニーの腰を抱え上げ、膝をついて深く挿入した。上半身がベッドに深く沈まる形になったダニーの肩をさらに押さえつけ、腰のあたる音が響く位に激しく突いた。ダニーの低い悲鳴が聞こえて中が痙攣と締め付けを繰り返す、ドンは女の体と違いながらもダニーの体がもたらす激しい快楽に頭がハイになっていた、相手が同僚で友人であることさえ頭になかった。
ダニーがイッた後もしばらく突き上げながらダニーの射精で精液溜まりを膨らませたゴムの上からペニスを掴んでしごくと、ゴムの中で精液まみれになったダニーのペニスはまた張りを取り戻して瞬く間に二度目の精を放ち、それと同じくにドンもダニーの中で果てた。
不思議な気分だった、ドンはこんな近くに強く男の匂いを感じたことなどなかったし、またそれを不快にまるで思わない自分に驚いていた。
「ドン、俺はゲイじゃない…。」
仰向けにアパートの古びた天井を見つめながら隣のダニーがつぶやいた。
「じゃあ何で誘った?」
ダニーの妙に冷めた声音にドンは何となく目を合わせたくなくて、ダニーに背を向けながら聞いた。
「女もいるしただ…たまに、やりたくなるんだ。お前だって別に何もないだろ?」
恋愛感情は確かにないがそうはっきり言われると淋しい気もする、ドンはどう答えていいものか目の前にあるベッドサイドのライトを見て考えた。
どうしてこいつは何時もこうなんだろう、親しげに近づいては突き放す…愛するというのは違うけれどもダニーに惹かれているのは確かだ。
「俺は男と寝たことなんてなかった、お前と同じ気持ちじゃない。」
ドンの言葉にダニーは起き上がって背を向けているドンを覗き込むようにその肩に顎をのせる、ダニーの吐息が耳にかかり整髪料や汗とアルコールの匂いがドンの鼻に届いて落ち着かない。
「ドン、俺だって嫌いな奴とヤったりしない。」
そう言うとダニーはドンの肩にそのまま顔を埋めた。
「…他にも誰か?」
言った後でドンはしまったと思った、これはかなり最悪な部類の質問だ、怒り出すと思ったダニーの口からは意外な言葉が出た。
「マックと。」
ドンは耳を疑った、どのマックだ?聞くのが怖い、只のマックで通じる二人の知人は仕事場の上司である彼しかいない、こわばったドンの肩から心意を読み取ったのかダニーはそのまま続けた。
「男とは滅多にそんな気にならないんだ、今日だって珍しい。で最近はマック、」
「ちょっとまてダニー。」ドンが口を挟んだ。
「それは言っていいのか?あぁ、いや聞いたのは俺だが、マック…」
焦って言葉が続かない、ダニーはドンから体を離し、仰向けに転がってまた天井を見つめながら言った。
「マックはなかった事にしたいみたいだ…」
ドンは依然背を向けたままダニーの告白を聞いている、ダニーは返答も求めず続けた。
その後に続くダニーの言葉ときたらマックへの熱烈なラヴコール、コレを録音して渡したらいいんじゃないかという位完璧なまでの文脈で幾度となく彼の頭の中で言い募られていた事がわかる。
でも本人には言えなかったのかその想いは無関係な俺に吐き出されている…全く迷惑な話じゃないか、まだダニーは何やら呟いているが知ったことか!
ドンは脱力しつつ疲れからくる睡魔に身を委ねることにした。
そして翌朝の快活なダニーの様子にドンは二度目の脱力を感じることとなる。これから仕事に向かう為慌ただしくドンのアパートを出て通りで別れようとした時だ、
「ダニー…昨日の事だが…」
「あぁ、またな!」
ダニーはドンの言葉を制していつもの笑顔を向けた、そしてもう足早に地下鉄の入口へと向かっている。
その「またな、」はどこに"かかる"のか、また気軽にセックスでも?
ドンは遠くなるダニーの姿を見て一つ溜め息を吐いた、誘われればまた応じてしまいそうな気がする…所がこの新しい関係にドンは嫌な気分どころか高揚してゆく自分を感じていた、その気持ちの高鳴りをそうと知らずドンは享受した。
そして車のキーをポケットで戯りながら軽い足取りで自分の車へと歩いていった。
【end.】
ダニーさんが自由すぎてすいません。
おまけ絵↓
多分この後恐ろしい寝相と鼾を披露してくれます。
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