一旦辞するにあたり ―書家杉岡華邨との日々―   

  
          
著・杉岡和子
NHK出版 1,800円(税別) 

≪第2章 杉岡華邨のライフワーク・源氏物語≫ 

 「第2章 かな研究と『源氏物語』」では、華邨が作品制作と同時に最も力を注いだ、源氏物語の研究について語られる。
 華邨は、昭和26年に文部省内地研究員として京都大学へ留学し、平安朝文学を学ぶようになる。フィクションではあるが平安時代の貴族社会を克明に描いた源氏物語を読み解くことで、この時代の心情を理解しようと努め、源氏物語研究を生涯ライフワークとした。書、料紙、登場人物の性格、その筆跡等、源氏物語の中の書に関する全てを調べ記述し、項目ごとに分類したカードは膨大な量となった。華邨の源氏物語研究の集大成となる本の出版が決まった時、著者は原稿に加え、夫が精魂を込めて作ったこのカードの掲載を推薦する。
 平成19年、華邨は多忙を極めながらも念願の「源氏物語と書生活」(NHK出版)をついに完成させた。最後の手入れの直前に脳梗塞で倒れたため、完璧主義の華邨はその後もたびたび書き直すと言った。華邨の気持ちを理解しつつも体を気遣う著者の姿に胸を打たれる。