一旦辞するにあたり ―書家杉岡華邨との日々―   

  
          
著・杉岡和子
NHK出版 1,800円(税別) 

≪第3章 杉岡華邨の人間性≫ 

 「第3章 別れ」では、華邨が入院してから別れの瞬間までの様子が、日記形式で克明に綴られている。最後まで書に対する思いを持ち続ける夫への思いが横溢する。
 別れの後も、たびたびありし日を思い出す筆者。その中で華邨の人間性が垣間見えるエピソードが紹介される。駄々をこねたこと、喜んで迎え入れた姿、礼を尽くす性格、あきれるほどの生真面目さ、書に対する真摯な姿勢、人を笑わせるのが好きだったこと。かつて華邨はインタビューで「死ぬ時『皆さんさいなら』と挨拶して死ねるように心掛けて来たつもりです。そのような死に方をするのは、精一杯今を生きることであり、人生は日々の積み重ねであると思った」と話していた。
 酸素マスクで聞き取れなかった最後の言葉が「皆さんさいなら」であったと思いたいと筆者は記した。