ベルマーク運動について考える

2008年度"子供たちの為に!"使われたのは寄付金の62.6%

もくじ
1.非効率の効用について考えてみる。
2.過去の実績は権威なんだろうか?
3.一PTA当たり、何点くらい溜まるの?
4.ベルマーク運動は、子供の消費者としての教育を阻害しないのか?
5.学校の教育費、そろそろ国費で賄えないか?
<資料編>

1.非効率の効用について考えてみる。

 ベルマーク財団のWebサイトに、『正味財産増減計算書 平成20年4月1日から平成21年3月31日まで』というPDFファイルが公開されていたので、読んでみる事にしました。日本PTA全国協議会などと違って、会計報告を載せているのは素晴らしいですね。
 さて、私たちがこのデータを見て興味を持つのは、寄付金の何割くらいが子供たちの教育補助に回っているかです。

『正味財産増減計算書』の経常収益中で寄付金と思われる金額をベースに、教育助成金(子供達の為に使われるお金)と、財団の人件費の比率を図示したものが図1なのですが、実はこの中に財団に送られたベルマークにより、協賛各社からベルマーク預金口座に振り込まれた金額は含まれて居ません。このお金は財団を通らないので『正味財産増減計算書』には記載されないようです。
そこで、2008年度に集計されたベルマークの、総点数は4億4929万2640点(=4億4929万2640円分)を無理やり収入と支出に追加して作ったグラフが図2になります。
図1 図2
図1,図2
『ベルマーク運動』で集まる、諸々の寄付金の内、“子供たちの為に!”使われる金額の比率が分かると思います。

 図中のピンクで示された部分は、集まったベルマークの点数に応じて協賛会社(ベルマークを付けた商品を作っている会社)がPTAなどに支払った部分で、赤で示された部分はへき地などへの支援に当たる訳ですね。
両方を足すと寄付金に占める子供達の為に使われる金額は62.6%ほどになりますね。

 はい。ベルマーク預金の分も寄付金とみなせば、そういうことになります。この図を描いた過程については資料編に詳しく載せますので、興味の有る方はご覧になっていください。

 ベルマークのお金の流れを、簡単に図示すると、大体こんな風になりますよね。

図4図4

図5図5

 そうですね。財団への寄付金の内、ベルマークの点数に比例したり、商品の購入金額に比例したりする部分は、以下の様に計算されます。
●協賛会社(ベルマークが付いているものを作っている会社)から、ベルマーク点数の25%
●買い物の際、協力会社から商品の10%
ベルマークを集めて、更にベルマーク預金を使って物品を購入することにより、およそ35%の金額がベルマーク財団に送られる訳です。2008年度では1年間で4億5000万点程度のベルマークが集まっているので、その0.35倍というと1億5700万円程度の金額になりますね。
 その他、分担金など、ベルマークの点数や買い物の多寡に寄らないお金の流れもありますし、協賛会社・協力会社以外にも、へき地の学校支援にと、寄付を寄せる会社や個人がいらっしゃるようです。それらが合わせて3億6257万2205円となる訳ですね。

 それで、実際にPTAなどでベルマークの集計に携わった人たちの、作業による付加価値というのは、この図の中でどのような位置にあるのでしょう?

 問題はそこなんですよね。財団は、“ベルマークは1点が1円の一種の金券”(財団BBS、■4517  Re: ベルマーク確認の計算について)としているのですから、1点に付き1円はあくまでもベルマーク自体の価値であって、集計作業による付加価値は図4の中では協賛会社からベルマーク財団に寄付される市場調査費2,500円に当たるのかな?と考えられそうなのですが。

 巷では、『集計作業の効率は1人1時間で100点程度』とよく言われていますが、その作業による付加価値が市場調査費に当るとすれば、ベルマーク集計活動によって私たちが社会に貢献できるのは、時給換算100円と考えるよりも時給換算25円と考える方が、むしろ自然ですね。

 そう思うと、いつも暗澹たる気分になってしまうんです。1人で1時間に100点集計しているという前提に立って、最低賃金(629円)を当てはめて、マンパワー分を計算してみましょうか。
4億4929万2640[点]÷100[点/時間]×629[円/時間]=449万2926[時間]
449万2926時間×629[円/時間]=28億2605万0706円
年間、約28億円のマンパワーが費やされているわけです。(ちなみに、東京791[円/時間]だったら35億5390万4782円)

これを、最初のグラフに追加してみましょう。
図6図6


 あ〜、集計にかかる隠れた人件費を寄付金に加えると、"子供たちの為に!"使われる費用は、ベルマーク点数分と教育助成費を加えても、14%ですね…。

 ベルマーク財団は、へき地校助成の為に立ち上げられたそうですが、その為に使われるお金は、設備助成費・ソフト助成費・盲学校・ろう学校・養護学校・海外援助費・災害校援助・その他援助、全部ひっくるめて5799万2719円。その為に費やされるマンパワーは28億円(最低賃金換算)。もちろん、集計に関わった人たちの449万時間を全て賃金労働に換算することには無理がありますよね。
でも、ベルマーク集計作業を楽しんでいらっしゃる方にとっては、ある種、癒しや娯楽の時間になっているかもしれませんが、そうでない方々にとっては、家事とか体調を整えるための散歩、読書などの趣味などに費やしたほうが良かった時間かもしれないわけですから…。

 ベルマーク運動を支えている主な団体はPTA。日本のPTAは、子供の入学と共に選択の余地無く加入させられている場合が多いです。その中でベルマーク運動に賛同しない個人が、一人一役とかポイント制などで集計作業に動員されることはよく見聞きしますからね。

 ベルマークの集計方法は、49年前から殆ど変化が無いわけですよね?どうして、もっと効率化しないのでしょう?

 例えば、ベルマーク協賛会社の一つにグリーンスタンプというものが有ります。このサイトの管理人の近所のスーパーで採用しているポイントシステムで、そのお店で買い物をすると、金額に応じてポイントが付き、溜まったポイントで買い物ができたり、点数に応じて景品と引き換えたりできるというものです。
 10年前には、買い物のときに支払い金額に比例したポイント分のシールを受け取って台紙に貼っていましたが、今は、磁気カードに改善されています。サイズが揃ったシールを決まった台紙に貼る作業は、ベルマークに比べたら遥かに楽だったはずなのですが、点数を集計するための人件費などを圧縮する為に、機械化が図られたのでしょう。

 ベルマークについても、機械で集計できるようにする技術力は多分日本に存在すると思われます。でも、ベルマーク財団は、28億円分のマンパワーの価値をほぼゼロとみなしているため、永遠にこのアナログでアナクロな手作業を改善することは無いのでしょう。

“非効率の効用”と称して、50年近くの間、全く変化の無いこの活動が壮大な無駄な時間を浪費しているのかもしれない。そして、それが子供達の未来に、負の遺産として引き継がれていくのかもしれない。という危険性は考慮してみる価値はあると思います。

 ところで、図4『ベルマーク10000点を、財団に送った際のお金の動き』を見て思ったのですが、PTAなどで集計作業をして会社別の封筒に分けた現物を財団に送った後、財団でベルマークを廃棄するのではなくて、財団から更に協賛会社に返納しているんですね!“善意に支えられた活動”と言われながら、信頼関係で成り立っているのかな?という疑問も湧いて来ます。

 過去に、三ツ矢サイダーが王冠にベルマークを付けていたのですが、このマークについては数を用紙に記入して、PTAで王冠を廃棄していたそうです。この大らかさは良いな、と思うのですけれどもね。



2.過去の実績は権威なんだろうか?

 ベルマーク財団では、過去の実績として「累計237億3872万8013点(2009年11月20日現在)のベルマークが集まった」というような表現を良く使います。
図7図7

“伝統と実績”を強調するときに良く使う表現方法ですよね。例え、今年ベルマークを集める参加者がパッタリと途絶えたとしても、「累計237億3872万8013点のベルマークが集まった」事実は永遠に残るでしょう。“長く続いた”ということは、確かに“ベルマーク運動を愛し、支え続けた人たちが居た”証になるかもしれません。(全部の時間が、ベルマークの趣旨に賛同して、喜びと共に費やされた時間なのであれば、良いのですが…。)
視点を変えてみると、“2億3738万7280時間がベルマーク集計作業に費やされた”ということにもなるでしょう。
 累計237億3872万8013点集まったという過去の実績と、ベルマーク運動が現在も万人にとって良い運動であるかどうかというのは、また、別の問題と言えそうです。

 ベルマーク財団でも、“無理なく、無駄なく、根気良く”をスローガンに掲げているようです。ベルマーク運動に違和感を持つ方は良く考えて、“自分自身にとって無理だったり、無駄だったりする運動と思われれば、自主的にその運動と距離を置く”ということが必要でしょうね。今を生きる私達は、“子供達の為にも”過去の実績でなく未来を評価するべきですよね。そして、ベルマーク運動に賛同する方々も、自分の判断で距離を置こうとする方々を無理やり巻き込まないように充分注意を払う必要が有るでしょう。


3.一PTA当たり、何点くらい溜まるの?

 ベルマークに参加するPTAの数はほぼ一貫して右上がりです。年間のベルマーク点数を参加グループ数で割って平均すると、現在では年間15,792点程度です。
図8図8

 時系列で見ると、今の2倍を超えていた時代があるんですね。
 学校の規模、少子化、1985年5月17日に成立した男女雇用機会均等法、バブル崩壊など、このカーブには様々な要因があるのでしょう。ちなみに、2005年までの一団体当りの世帯数も計算できて、それはこんなグラフになります。
図9図9

ベルマーク参加団体のみのデータですが、青いグラフを見ると学校が小規模化(1962年:621世帯→2005年:324世帯)しているのが良く分かりますね。
また、参加PTA数でみると一貫して微増ですが、世帯数(赤いグラフ)で見ると1988年の1290万7344世帯が最高で、後は下がり気味であることが分かりますね。このグラフが切れた後、『ベルマーク財団は、教育支援の輪を世代を超えて一段と広げるため、公民館や大学などの学習団体なども参加できるように運動規定を変更し、この2006年4月に所管官庁である文部科学省の大臣認可を得』たそうです。

 図7の赤線を見ると、その辺りからベルマーク点数の微増が見られますね。


4.ベルマーク運動は、子供の消費者としての教育を阻害しないのか?

 『ベルマークよ、さようなら』(「暮らしの手帖」第2世紀 34号 P106-113[1975年])の中で、花森安治編集長は、『なぜ私はベルマークに反対するか』という見出しで以下の様に纏めています。(太字は、引用者)
 @商売に教育を利用している。
 A考えの浅い人をだましている。
たとえば、わたしの子どもの小学校長のように、捨てる物の中に役立てる事ができる物があれば大いに結構だと言う人がある。実さいは、マークのある物を選んで買っている者が多いから、一見すてる物に見えるが実は買わされている。
 B無駄が多い。整理や送付、検査宣伝に多くの労力や経費がかかっている。本当に教育に寄与するのならもっと無駄のない効果的な方法があり、それをすべきです。
 労力の割りに金額が少ない。金額の為なら内職をしてお金を持ち寄った方が能率的です。(ベルマークにおどらされている証拠です)
 C教育が、設備の良し悪しで評価されるあやまりを生む。私の近辺では、ストーブやデラックスなエレクトーンなどの要望が高く、軟弱で贅沢な人間を育成しようとしているのです。(神戸市・垂水区)

 ストーブ・エレクトーンを“贅沢”と看做す辺りに時代を感じますが、この箇条書きの主張は現代でも全く色褪せず、考えさせられる内容ですね。財団からの猛抗議で、2ヵ月後に発刊の次号で財団の反論を載せることになったのですよね?

 はい。『ベルマークよ、こんにちは ――34号の<ベルマークよ、さようなら>に答えて』(「暮らしの手帖」第2世紀 35号 P182-183[1975年])の中で、和田 斉 教育設備助成会専務理事は、
 善意にたよる助け合い

 企業の販売拡張の手段に、PTAや生徒をまきこんでいないかというご指摘。この点は微妙で、末端でそういうことは全然ないといえば、ウソになりましょう。わたくしたちは行き過ぎのないよう戒心しています。マークをつけた商品は、現在一千五百九十三種ですが、一般にはどの商品にマークがついているか、徹底しておらず、見逃がす人が多いでしょう。企業側も「マーク商品」の表示はよいが、「だから優秀です」とPRすることは禁じられております。公正取引委員会でも、マークが景品的効果があるとは、見ておりません。ただ、企業に対し、販売拡張面のプラスを全然認めず、寄付だけせよといっても、それば無理であることを理解していただけると思います。マークが消費者の選択の自由を奪うと、いうご意見は、商品広告と消費者の関係という全く次元の異った問題です。
 平均生徒数七百人規模の学校で、一年に平均三万点のマークを集めるには、一人一カ月平均四点(商品購入価格で四百円)集めれば足ります。今の家庭で、月四百円の買物は問題ではないでしょう。だからクズかごを漁らずとも、"クズかごに捨てる前にハサミを"と心がければ十分です。
 ベルマーク運動は、全く人びとの善意にたよる助け合い運動です。この根本をご理解を願います。
と書いています。

 この文章から、
○ベルマークを付けた商品が優秀と言う訳ではない。
○販売拡張面のプラスの存在は認めるが、行き過ぎなければ問題無い。
○(人びとの善意にたよる助け合い運動なのだから。)
ということが読み取れますね。

 さて、「同じ金額の商品が有ったら、なるべくベルマークの付いた製品を買いましょう」ということを、私たちは、子供たちに指導するべきなのでしょうか?現在でも、ベルマークに関して熱心なPTA(学校)では、先生が児童・生徒に対して、「ベルマークを忘れずに持ってきなさい」と指導することが有るようです。

○不要なものは買わない。
○収入に見合った支出をする。
○できるだけ良い品質のものを良心的な商店から購入する。

 という、シンプルな原則は、学校で指導いただいても構わないと思うのですが、ベルマークについては、学校と言う場での指導は控えていただきたいと私は考えます。やむを得ず、子供にベルマークを届けさせる際にも、昇降口などに収集ボックスを置き、無記名でベルマークを寄付できるようにしてほしいと思います。

 また、児童会・生徒会の制度として、『ベルマーク委員会』などを設けることにも反対です。以前は、保護者ではなくて児童・生徒が自分達でやればいいのでは?と考えたこともありましたが、ベルマークのことを調べているうちに、「学校という場で、子供達をベルマークに近づけることはしたくない」と考えるようになりました。価値観の固まっていない子供達に、ベルマーク付き商品が良いものであるかのような錯覚を持たせたくないと思います。

 集計作業は、自分で時間やお金の価値が判断できてベルマーク運動の趣旨に賛成する大人と、その被保護者だけでするべきだと思います。それで、財団が成り立たないようであれば、今まで積みあがっているベルマーク預金を、現金で、各団体に返金し解散するのが妥当なのではないでしょうか?

 PTAなどでも、ベルマーク委員は完全な有志として募集するに留め、ベルマーク財団も言っているように、誰かが半強制的に動員されるようなことが無いように、気をつけないといけませんね。

5.学校の教育費、そろそろ国費で賄えないか?

 また、和田 斉 教育設備助成会専務理事は、“ベルマークを必要としない時期が早く来るよう願って”いるとしています。
 義務教育無償を早く

 「義務教育は、これを無償とする」と、憲法第二十六条はうたっております。これを実現するよう政府に迫ることは、意義があります。わたくしどもも、ベルマークを必要としない時期が早く来るよう願っていますが、今はまだその時期ではないと思います。国の文部省予算は年々増額しています。しかし、国家予算が毎年膨脹している割合に、文部省予算が増えているわけではありません。歳出予算のなかで、文部省予算の占める割合は、助成会創立の昭和三十五年が一二・六%でしたが、以後比率が下がり、四十八年度は九・九%となりました。五十年度予算では一一・三%とようやく落ち込みを回復した程度。義務教育の面で、新しい教育機器の開発も考え合わせると、決して「学校設備の基本的なものはととのった」といえるほどではありません。(もっとも、基本的なものとは何か、で議論が分かれましょうけれど……)
 学校には地域差が非常にあります。都会と農村、とくにへき地と、その差は大きく、また大都市周辺でも新設校の悩みは深刻です。赤字財政の地方自治体は、新増設の場合、容れものを造るだけで精一ぱい。中味までは手が回らず、PTAが自然に応援せざるをえません。政治が悪いのだとするばかりでは、済ませないのが実情です。

34年前(ベルマーク開始後15年目)から、ベルマークが必要でなくなる時期が早く来るように財団も願い続けているのですね。

年間に集められるベルマーク点数も上下している訳ですが、へき地支援の費用を含む『教育助成費』は、最近では総額6000万円以下(2008年度)です。そろそろ、個人や地方自治体の経済状況による教育格差を是正して、本気で教育の無償化に向かうべきではないでしょうか?

 子供手当てなどよりも、むしろ義務教育の完全無償化の方を先に実現して欲しいですね。

 そうですね。今、ベルマーク集計作業に没頭することよりも、ベルマークを必要としない時期が早く来るようにするためにはどうしたら良いのか、個人個人でよく考えて行動するべきときかもしれませんね。

参考資料:

ベルマークについての資料・指導・助言を下さった方々: