Skype将棋レポート8



■将棋との出会い


■吉田沙矢香「ヨシダサヤカ」


 読者の皆さん、こんにちは。私は強度の弱視で、点字使用者です。
視覚障害者の情報や読書に関わる仕事に就きたいと考え、
現在就職活動をしています。
 昨年、思いがけず将棋に心惹かれ、新しい趣味として楽しんでいます。
同好会やインターネットの無料電話スカイプを通じて熟練の方々に教わったり、
対局をしたりしています。
 以前放送されたNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」をご存知でしょうか。
大阪の天下茶屋と通天閣を舞台に、性格も興味も全く違う、
双子姉妹の人生を描いています。ドラマは見ていませんでしたが、
私の好きな落語家・桂枝雀さん(故人)
が出演していたことを知り、どんな話しなのか興味を持ち小説を読みました。
 双子の妹・香子は、小学生の頃ふらりと入った通天閣の将棋センターで、
真剣師(掛け将棋をなりわいにする人)銀じいこと佐伯銀蔵に出会います。
銀じいは、「香子か、ええ名前じゃの。この駒(香車)は前にだけ進む。
後戻りはできん。そこが弱いところだが、
どんな遠くからでも敵をやっつけられる。思うように生きたらええ」
 と言って、お守りに香車を授けます。これがきっかけで、
香子は将棋に興味を持ちプロ棋士を目指します。
ちなみに桂枝雀さんは、香子の師匠の永世名人として登場します。
 ドラマ小説を通して、盤上で様々な駒を動かして真剣勝負をする、
将棋に興味を持ちました。視覚障害者向けに、
マス目が浮き出た盤と点字付の駒があることは知っていました。
習える機会があったらぜひ参加したいと思っていると、渡りに船でしょうか。
名古屋で視覚障害者向けの将棋同好会があるという情報を得て、
迷わず参加しました。

二枚飛車の教訓

 将棋の駒は8種類あり、全て違う動きをします。習いたての頃は、 金と銀の動きを混同して、「銀は真横には行けませんよ」
「あー、そうでしたね。じゃあ、逃げられない。困ったなあ」
 対局中そんなやりとりもありました。
 ある日の対局で、相手の飛車で自分の飛車を取られました。
そして、すぐさま私から取った飛車を打たれました。
盤上に二枚の飛車が連続して並ぶ「二枚飛車」の状態です。
この二枚飛車は、孤高の棋士・坂田三吉も恐れをなしたと言われるほど強烈な攻めです。
飛車は、縦横に何マスでも直進できます。
敵陣へ入ると「竜」に成ることができ、前後斜めにも1マス動けるようになる大駒です。
 もう絶体絶命だ!と思っていると、対局相手のAさんは、
こんな局面でも攻める方法があることを教えて下さいました。
私は玉(王様)を金銀3枚で囲っていたので、すぐに王手はかけられません。
持ち駒を打って相手の駒を狙ったり、
もう一つの大駒の角で攻め込むことで、相手をゆさぶることができます。
けれども、相手は二枚飛車で構えている訳ですので、
そこから先の攻めはのんびりしてはいけないことも教わりました。
 窮地に立たされても、先手を取る道も見出さなければならないこと、
調子の良い展開だからといって安心すると、相手の駒が効いていることを、
見過ごして不りになることを実感しました。
最初から最後まで分からないところが、将棋の難しさであり面白さでもあると感じます。
盤面全体を見て良い手を刺せるようにすること、
終盤で玉を詰ませる術を身に着けることなど、
勝てるようになるにはもっと学習が必要です。
楽しみながら様々な戦法を覚えていきたいと思います。

お勧め図書紹介

 私は読書も好きで、将棋にまつわる本にも出会いました。サピエ図書館にある
お勧め図書をご紹介します。
里見香奈監修『いちばん勝てる将棋の本』日東書院本社2010年
 駒の動かし方や棋譜の読み方から、終盤の詰ませ方まで、
易しく解説しています。これから将棋を始めたい方にお勧めです。
沖田正午著『一万石の賭け』『娘十八人衆』
『幼き真剣師』(将棋士お香事件帖1〜3)二見書房
 天才的な将棋師・お香は、水戸黄門の曾孫に当たる、
ご隠居の将棋指南役になります。
ご隠居、付き人の竜さん・虎さん、お香が珍事件・難事件に出会います。
岡本嗣郎著『9四歩の謎 孤高の棋士・坂田三吉伝』集英社1997年
 大正・昭和に活躍した坂田三吉は唱歌や演劇にもなり、南禅寺の対局で、
初手9四歩を刺したことなどで有名です。初手9四歩は珍しい差し手で、
その意味は謎に包まれています。
坂田三吉の孫や弟子などゆかりのある人々のインタビューも交え、
様々なエピソードを紹介した貴重な一冊です。