小さいけれど、気の強い僕 大きいけれど、気の弱い君 アンバランスかな 部活を終えて後片付けを抜け出してきた鹿目は、そのまま帰らずにまっすぐに体育館へと向かった。 片付けなんて下の者がやるべきなのだ。 それが彼の持論。 主将という地位についてなお毎日一番最後までグラウンドのトンボかけをやるような牛尾の行動は彼には理解しがたいことだった。 日もすっかり暮れている。 他の部ももはや残っているところなど見られない。 強豪と呼ばれる自分たち野球部すら練習を終えた時間なのだ。 もちろん最終下校時刻などあの監督が守るはずもない。 校内には、ひとけなどまるでなく物悲しい雰囲気だった。 そんな中庭を突っ切り、一直線に向かう先は体育館。 間にある並木道の下をその俊足が駆けてゆく。 小さなその影は見落とされやすそうだったが、幸いにも通りがかる人はおらず、誰かにぶつかるという惨事にはならなかった。 何の物音もしない体育館。 ひとけもない。 けれど、そこにたった一人だけまだ残っている人物がいることを彼は知っていた。 確かめたわけではないけれど、まず間違いなくいるはず。 そう思い、彼は無遠慮にその扉をガラっと開け放った。 「彼のその……っ、あ……」 中にいた人物は、扉の音に驚き盛大な音をたててその体を地面と並べた。 「、帰るのだ」 「つ、筒良ちゃん……」 彼女が転んだことも気にとめず、クスクスと意地の悪い笑いを響かせながら彼女のそばに歩いてゆく鹿目。 こうなるであろうことを予想した上で、あえて大きな音をたてて扉を開いたのだ。 「もう野球部練習終わったの?」 痛みのせいだろう。 目にうっすらと涙を浮かべながら、座り込んでいるために小さい鹿目を見上げながら問う彼女には、彼を非難するような色は浮かんでいない。 「終わって当然なのだ。もう8時過ぎてるのだ」 「えっ!?」 慌てて時計を見ると、その短針は確かに8を過ぎたところを指していた。 そんなの様子に、鹿目はヤレヤレといった風にタメ息をついた。 「まったく、外の明るさくらい気にするのだ」 「ご、ごめんなさい……」 怒られてシュンとなる。 そんなにクスっと笑いをこぼしながら、鹿目はバシバシと少し強めに彼女の頭を叩いた。 「は夢中になると周りが全く見えなくなるのだ。で、今日は何してたのだ?」 「お稽古……」 まだシュンとしたまま答える彼女。 何の稽古かなどと、その格好を見て尋ねる者はいないだろう。 今の彼女の服装は、制服でもなければ普段の部活の時のTシャツでもない。 豪奢なマントと、白いズボン。 きらびやかなその衣装は、あきらかに演劇部の者であることを示していた。 「マント踏んづけてこけるななのだ。今回は一体何の役なのだ」 「それが……騎士様なの」 「…………」 これだけトロイに、よりによって騎士だなんて。 キャスティングをした者の目は節穴かと鹿目は思わず頭を抱えたくなった。 けれど、それも仕方の無いことなのだ。 野球部と違い弱小である演劇部は、部員数すらかなり少ない。 役者が大道具小道具にまで手を貸さなければ一つの芝居もできないほどに。 そして、それゆえの人材不足。 去年まではそれでもまだ良かったが、3年生が卒業して男子部員が極端に減ってしまったのだ。 女が男役をやるしかない。 けれど、それなりに身長のある者でないと務まらない役もある。 そこで、たとえ普段トロくて気の弱いだろうと身長があるなら誰でもいいと男役を回さねばならない事態に陥ってしまったのだった。 「には無茶な役回りなのだ」 「………」 簡単にすっぱりと言ってくれる鹿目。 これまでの彼女の頑張りは無駄だったと言わんばかりに。 けれど彼はの性格をよく知っていたから。 だからこその意地悪なのだ。 「確かに、私トロイし……皆に迷惑かけちゃってるけど…」 広がるマントの端をぎゅっと握って一生懸命に話す。 そんな彼女を、鹿目は子供の頃から変わらぬ顔で見ていた。 「だから、いっぱい練習するの。筒良ちゃんだって、ちっちゃくても凄いピッチャーやってるんだもん。私だって、大きいんだから男役もちゃんとしなくちゃ……」 背の低い鹿目。 背の高い。 二人一緒に歩いていると、子供の頃はよく性別を間違えられた。 成長した今ではそこまでのことはないけれど。 それでも一緒にいるのはとても不釣合い。 「僕が小さいのは余計なのだ」 睨むように鹿目を見ていたは、彼の言葉に慌てて謝った。 「いーや、許さないのだ」 「筒良ちゃ〜ん……」 涙目になって自分に許しを請うはとてもかわいくて。 その様子は子供の頃から変わらなくて。 けれど、変わった。 自分たちはもう子供ではない。 彼女はとても綺麗になった。 身長がここまで高くなければ、きっと凄くモテていただろうと思う。 彼女の身長が高くて他の男が寄ってこないのは良いのだが、そのせいで自分が隣にいるのがアンバランスなのも確か。 最大の障害はその身長差だった。 座ったままの彼女の額に手を置いて、かかっている前髪をあげる。 何をされるのかと少々ビクついているだったが、それでも逆らうこともできずにじっと体を硬くした。 鹿目が動く。 それと同時に身をすくませて目をつぶる。 けれど、次の瞬間に感じたのは、おデコに当たった柔らかい温かさだった。 「今日はこれで勘弁してやるのだ」 「つ……つつらちゃ……」 「芝居が成功したらご褒美をやるから、せいぜい頑張るのだ」 赤いほっぺをいつもよりちょっと赤くして。 それでも普段と変わらぬように言う鹿目を、は呆然と見上げるばかりだった。 アンバランスなんて言わせない 周りがどう言おうとも、 僕らは相性抜群なのだ ******************************** 鹿目ブームです。 言ってたように筒良ちゃんなのです。 けどこの子で夢小説って難しいです〜(>_<) ぎゃ、苦しい…。 なんか今日気分乗ってないよ。 リズムに乗らなきゃですよ。 ’02.7.8.up |