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ゴルゴダの牢獄。 そこは最大の犯罪者収容所。 殺すことでは生ぬるいと判断された極悪人どもの行き着く先。 そしてそこより先はありえない。 カツーン カツーン 自分の足音だけが気味悪く響き渡る。 そもそもひとけの多い場所ではない。 ここにいるのは最低限の役人と、檻の中の囚人たちのみ。 極悪人たちを収容するという割りには随分手ぬるい監視である。 いつまた自分たちの思想のもと脱獄しようとたくらむ輩が出るとも限らないというのに。 しかし実際のところ、めったなことでは脱獄者など現れることはなかった。 それは、罪と定められた内容ゆえだろう。 愛・自由・正義・人権・弱者・友情・平等 7つの大罪。 それを己の信じる道とし、罪を重ねてきた者たち。 ここに収容されるのはそれらを犯してきた極悪人のみ。 だからこそ、自分の信念を間違っていないと主張しこすいマネをするようなことはめったと無かった。 はここの責任者として収まっていた。 確かにこの場所を任されるというのは並大抵のことではない。 最大級の犯罪者たちを監視しなければならないのだから。 しかし、考えてみれば体の良い厄介払いと言えなくもなかった。 女だてらにいくつもの手柄をたててきた彼女。 それを妬ましく思う輩は絶えず、かと言って今までの功績を無視することもできない。 その結果、地位とは名ばかりであるこの場所へとなかば強制的に送られたのだった。 人員は最低限しかおらず、見回りも自らが毎日かかさずすることとなる。 面倒極まりないことだった。 何が楽しくて犯罪者たちとこうも接っさなくてはならないのか。 しかし、仕事と定められた以上、また形式だけは誉れ高い仕事である以上それを放棄することははばかられた。 嘲るような視線と共に感じる妬みの感情。 同僚たちからのそれを失うこともできなかった。 妬みとは、自分が相手よりも勝っているがために抱かれる感情。 それはこの世界においてはむしろ誇るべきことであった。 嫉妬深さゆえに他人を蹴落とし続け昇進した者もいる。 妬まれるということは悪いことではなかった。 「あ、様……」 監視役の少年が腰をあげる。 彼はまた眠っていたのか、それともおびえていたのか。 ビクビクとした瞳はいつも落ち着かなげで見るたびに苛立たせる。 彼もまた、大罪の一つである“弱者”の罪を犯していると言える存在だった。 それを罪に問われずにいられるのは、彼の羽が黒であること。そしてその出自が大変高貴なものであったからに他ならない。 そうでなければ弱者たる彼に生きる道などあるはずも無かった。 「ご苦労様です……」 「変わったことは?」 ねぎらいの言葉にも眉一つ動かさずに用件のみを口にする。 彼の方もそれには慣れっこなのだろう。 こちらも一言「異常無しです」と答えただけだった。 周囲の檻の中を順に見て回る。 報告は聞いたが、それでも自分の目で確かめなければ気が済まなかった。 そして、そうでもしなければここにいる意味もない。 中は眠っている者や何か考えている者、無意味に体を動かしている者と様々だ。 いつ見ても動揺などカケラも見られない眼鏡をかけた青年の檻から始め、一周して最後はおちゃらけた茶の髪の軽い男で終える。 「ねー、サン。いい加減ここ出してよ。おーい、聞いてる?」 「…死ぬことすら生ぬるい極悪人が何を言うの」 いつも通りにかけられる言葉も軽くかわす。 彼も希望があるなどとは思っていない。 ただあまりに退屈だからせめて人が来た時くらいはコミュニケーションをとりたいといったところだろう。 ちぇー、と言いながらも顔は笑っている。 そんな彼が犯したのは“自由” 俺の生き方だもん、好きにする、と言っていたとか。 先ほどの最初の青年は“正義” 本当に世の中にはくだらない気の迷いを信じる者が多いものだ。 「ここは異常無しね。鍵を」 「はいです」 少年に鍵を渡してもらい、最後の仕上げである奥の独房へと向かう。 そこだけはここにある檻とは違い、堅固な扉で閉ざされていた。 最大級の犯罪者を収容するこの牢獄において、更に超S級の危険人物。 そこにはそう判断された一人の男がいた。 カチャ…… 慣れた手つきでその鍵を開ける。 がここに就任した頃にはもうずっと開けられていなかったのか鍵はさび付いてなかなか開かなかったが、今ではその錆も落ち、綺麗な銀色に光っていた。 「いらっしゃい、」 「………」 そこの住人は、いつも至極ニコヤカな表情で彼女を迎える。 自分の立場も相手の立場もわかっていないはずは無いだろうに。 薄汚れた囚人服も、もうずっと手入れしていない髪や体も。 とても汚いはずなのに、彼の笑顔だけは曇ることは無かった。 彼の名は菊丸英二。 さきほどの頭の軽い男と同じ“自由”と、 それと同時に“友情”という二つの大罪を犯した者だった。 かけられた声は無視して部屋を見回す。 特に変わったところはない。 彼の両手足にはめられた枷もチャリチャリと音をたて、はずれる様子は無かった。 とても長い鎖。 逃げられないようにとはめられる鎖だが、あまりにガチガチに動けなくするとかえって寿命を縮めてしまう。 それゆえその長さはこの部屋の中であれば自由に動き回れる程度になっていた。 「ねぇ、。外はどうなってる?」 世間話でもするように呑気な口調で尋ねられる。 しかし、それに返されるのは冷たい声。 「そんなこと、ここから出られない囚人に意味があるの?」 彼は二度とここから出られない。 けれど、そう簡単に死なせてももらえない。 生き地獄を与えることがこの牢獄の役割だった。 しかし、英二も負けてはいない。 別段気にした風もなく、だってさ、と口にした。 「他の奴ら、どうしてるかなーって。手塚はそこにいるらしいけどそれでも会えないし。友達とかどうしてるかなって」 「友人だと思っているのは一方的なことでしょう」 友情は禁忌。 もし英二が友だと思っていても、それはきっと相手は違う。 「んーま、いいじゃん。片思い、多いに結構」 呆れて物も言えない。 口を閉ざした彼女に、英二は更に続けた。 「にも相手にしてくれないけど、俺メゲないもん」 これだ。 この言葉、この雰囲気。 彼の存在全てが危険だった。 他人を信じさせてしまうようなこの口調。 特別なことでもなく、ただ口にするだけなのに、絶大な影響力を生み出している。 彼が特別危険人物だと判断されたのは、二重に罪を犯したことよりもこちらのせいだった。 こんな世迷い事を言いふらされ、しかもそれを信じる者が出ては危険だ。 この牢獄に来た者たちはすでに何かしら大罪を犯している。 そのような者たちであれば、なおさら彼の言葉を簡単に受け入れてしまいかねない。 隔離されているのはそのせいだった。 「見返りが欲しいとは思わないの?」 疑問を口にした彼女に英二は笑って答える。 「そりゃ、思わないわけじゃないけどさ。何かして欲しいから友達なわけじゃないし。損得なんて関係無いって」 その言葉には、一片の迷いもない。 まっすぐなこの男の眼差しは、には耐え難いものだった。 「それは……無駄な感情だこと」 「そだね。でもいいじゃん、俺の勝手」 政府だって俺をここにブチ込んだのはあっちの勝手じゃん、なんて無茶区茶なことを言い出す始末だ。 やはりこの者をここから出すことは一生できそうになかった。 「。無理しない方がいいよ」 部屋の点検をしていた彼女に(これは本来下の者の仕事であったが、先ほどの少年をここへやるのは危険であったためがやるはめになっていた)声をかける。 突然言われた言葉に怪訝な顔つきで振り返る。 すると、思った以上に近くに彼の顔があり思わず顔をのけぞってしまった。 「あーあ、大丈夫?ホラ、つかまって」 「必要ないわ」 差し出された手をパシっと振り払って自分で起き上がる。 そして先ほどの言葉の意味を問うた。 「ん〜、なんて言うかさ。は本来俺たちと同じだと思うんだよね」 「白き羽の分際で何を……」 目に眩しい白い羽。彼の心を表すかのような。 それは下賎の民の象徴。 それと同じ? 馬鹿にするのも大概にして欲しい。 しかし、英二は意見を変えることは無かった。 「だって、ならなんで俺たちのことこんなに構ってくれるの?前のお偉いさんは、俺たちのことなんてほったらかしだった。メシだって忘れられて餓死した奴だっていた。それだってもみ消してた。けど、は毎日見回りにきて、ここの点検もして。俺からは聞こえないけど、千石のことだからきっと馬鹿なこと言ってるだろうけどそれも相手にしてるんでしょ?」 そんなこと…。 否定したいのに、声が出なかった。 そんなに英二は続ける。 「は、優しいよ。こんな世の中だから、それを必死に押しとどめているだけで。ホントはとっても優しい」 「うるさいっ!!」 言わないで。 それ以上言われたら。 あなたの言葉は本当に人の心を惑わすのがうまいから。 信じ込ませないで、そんなこと。 自分が罪人だなんて、思わせないで……!! 耳を塞いで座り込んでしまった彼女を見て、英二は口を閉ざした。 彼女はとても脆い人。 虚勢を張って自分を守っているけれど、本当はとても傷つきやすい心を持った繊細な少女。 「太一ーっ」 声を張り上げて見張りの少年を呼ぶ。 「はいです」という返事と共に彼はすぐに現れた。 パタパタと足音をたてながら、ズリ落ちるバンダナを手で抑えて。 「頼むね。俺じゃ無理そうだから」 「え?様!?」 しゃがみこんでいるを見て太一は焦ったが、ね?とウィンクして言う英二に少し落ち着いて彼女に近寄った。 「さ、様…。歩けますか?」 「…………」 無言のまま立ち上がり、太一に支えられながら彼女は出て行った。 「………」 心配そうに紡がれた言葉は、閉ざされた扉の鍵が閉められる音によってかき消された。 ******************************** 久しぶりのB/Mパロ。 なぜだか菊です。 もちろんのことですが深司編とは別物です。 これは続かなさそう…。 最近本編プレイしてないので感覚も怪しいですが(汗) 羽の設定ほとんど意味なし。 最初ピリポ(B/M本編のキャラ)にしようと思っていたけど 気が向いて太一くんに。 次誰か違うキャラでも書きたいかも。 でもなかなかに設定が難しいんですよね。 ’02.4.20.up |