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「ってさ、骸ちゃんの、ナニ?」 「手足」 「……つまんない答え」 好奇心いっぱいに聞いてくるMMを落胆させるのは簡単なことだった。 アッサリと告げれば、彼女は可愛らしく口唇を尖らせた。 金にがめつくても、男に興味が無くても、彼女は確かに女の子。 制服からすらりと伸びた足はまだ子供っぽさが抜けていないけれど、それでも綺麗な形で。 あどけない頬は、誰かの接吻を受けるのが相応しい。 彼女は、これからどんどん可愛くなっていくだろう。 男達を手玉にとって、その貯金を確実に増やしていくに違いない。 私と違って、彼女はれっきとした女の子だから。 対する私は同じ制服に身を包んでいるというのに。 スカートから出ている足は傷だらけだし、手は力仕事で節くれだっていて、間違っても誰かに包んでもらうようなシロモノでは無い。 けれど、それで良かった 「私は、骸さんさえいればいい」 骸さんのいるところが私の居場所。 あの時からずっと、これからも。 私たちを救ってくれた骸さん。 あの人のためなら私は何でもするだろう。 私の言葉に、MMはまた面白そうに目を光らせた。 こんな時、私は彼女を子猫みたいだと思う。 好奇心っていうごちそうが大好きな、いたずら好きで怖いもの知らずの猫。 そんな彼女が嫌いじゃない。 「そういうこと言っちゃうんだ」 くすくす笑って、何か忘れてないかとばかりにズバリ言う。 「犬や柿ピーはいなくてもいいの?」 そんなワケ無いクセに、と笑いながらくるくる回る。 広がるスカートが花びらのようだ。 予想していた彼女の言葉に、私もくすりと笑って答えた。 「犬と千種は、私と同じだから。私が骸さんのためなら死ねるように、あの二人も骸さんを守るためなら死ねる」 私は犬で、犬は千種で、千種は私。 万一の時、誰が犠牲になることになってもためらわないと、私たちは子供ながらに誓い合った。 それが自分であれ、相手であれ、骸さんのために必要なら見捨てると。 そのために泣いたりしない、ましてや助けようなんてして骸さんの邪魔になるようなことは、絶対にしない。 冷たいわけじゃない。 お互いに、お互いの心が一番わかっているから。 私たち三人にとって、自分の存在が骸さんの妨げになるなんてことは死んでも嫌なことだった。 私たち三人はずっと一緒で。 骸さんについてきてからもずっと一緒で。 同じものを見て、同じものを大切に思って、これまで生きてきた。 だから、その中で一人だけ違う生き物であること、平たく言えば女であることが私は嫌だった。 子供の頃は違いなんて無かった。 性格の違いとか能力の違いとかはあっても、根本的な心の部分はまったく一緒だった。 それが、10を少し過ぎたくらいから、色々な部分で違いが出始めた。 それは主に、私と二人との違いだった。 「女だからって、骸さんに対する感情が恋愛でないといけないなんて。そんなワケ無いでしょ」 にっこり笑って言うと、MMはとても不満そうな顔をした。 そうは見えないと言いたいのだろう。私の骸さんへの傾倒ぶりは自分でも自覚している。 でも、同じように傾倒していても、犬も千種もまさか骸さんに恋してるなんて言われない。男だから。 だったら私も男だったらいいのに。 そう言った時に、骸さんは綺麗に笑っていた。 「皆が同じじゃつまりませんよ」 それはもっともなことだったけど、それでも私には納得できかねることだった。 「MMは?」 「私?」 「うん。骸さんのこと、好き?」 質問すると、MMは「もちろん!」と頷いた。 「だって骸ちゃんと組めば儲かるもーん」 あっけらかんとした答えに苦笑した。 結局のところ、私たちのメンバー内で惚れた腫れたの話は皆無なのだ。 そんな空間が心地よかった。 「、ちょっと」 買出しから帰ってきたばかりの私は、台所に荷物を片付けているところを千種に呼び止められた。 見れば千種の後ろから犬も顔を覗かせていた。 荷物を片付けてから、と言うと、千種は無言で進み出て手伝ってくれた。 犬は面白そうに頭の後ろで手を組んで傍観しているだけ。 別に手伝ってくれと言ったわけでもないので、何とも思わない。 むしろ相変わらずの千種の世話焼きっぷりによくやるよと思った。 千種が手伝ってくれたおかげで片付けはすぐに済んだ。 そもそもが大した量じゃない。 すんなり片付けた私たちは、三人揃って部屋に戻った。 私たち三人は同じ部屋だ。 部屋に戻ってそれぞれが適当な位置につくと、千種がおもむろに何かを取り出した。 千種の手に収まっていたそれは、可愛くラッピングされた小さな袋だった。 くしゃりと口を紐で結ばれていて、中身の形はわからない。 少なくともこのサイズは武器では無さそうだった。 「へっへー!プレゼント!」 後ろで座っている犬が嬉しそうに声をあげた。 首を傾げると、千種が小さく頷いて袋を私に差し出した。 思わず受け取って、どういうことかと思う。 この極貧生活で、余分なものを買う余裕など無いはずだ。 「少しずつ切り詰めて。俺たち自身の必要分を削ってただけだから」 だから、問題無いと言って眼鏡をくいと上げた。 犬はニシシと嬉しそうに笑った。 いいから開けてみろという犬の言葉におされるように口を開ける。 袋を逆さに振ると、手に落ちてきたのは小さな髪留めだった。 「髪……折角伸ばしてるんだから」 千種の言うとおり、私の髪はもう結構な長さになっている。 骸さんが「は髪を伸ばした方がいいですよ」と言ったからだ。 それだけで、私は自分が女であることを否定しながらも、髪だけは人並みに伸ばしている。 けれど特別手入れをするでもなく、くくり方を凝るわけでもなく、背中に届く長さを無造作に束ねているだけ。しかも輪ゴムで。 髪ゴムなんて使う必要性がわからなかった。何ならヒモだって構わない。 当然、髪留めなんてこれまで一度として使ったことは無かった。 二人がくれたそれは、先に小さな花の形を象った石がついているものだった。 石の色は暗い青。骸さんの髪の色。 きっと二人なりに考えての選択なんだろう。 「つけてみろよ!絶対似合うびょん!」 はしゃいだ様子で言う犬。 私は手に乗せたそれをじっと見た。 綺麗だと思った。それは嘘じゃない。 店頭に並んでいるのを見たのなら、あるいは誰かの髪に留めてあったなら、素直に可愛いと思っただろう。 私の髪の色との相性を考えても、きっと悪くない。 けれど…。 「……いらない」 手にしたそれを袋と一緒にくしゃりと掴んで、握り拳ごと千種に突き返した。 千種は差し出されるままにそれを受け取った。 表情は無かったけれど、機嫌が悪くなったのがわかる。 後ろで犬が絶句したのがわかった。 私はなんだか自分が凄く酷いことをしたみたいな気持ちになって、それでいてとても惨めな気持ちにもなって、半分くらい泣きそうになりながら踵を返した。 髪留めなんて、女の子が使うもの。 私には、必要無い。 私にくれるくらいなら、犬が使えばいい。千種が使えばいい。 きっとそんな姿の二人を見たら笑うだろうけど。 ムチャクチャなことを考えた。 ずっと私は二人と一緒なんだって。 一緒に骸さんについていくんだって。 そう思ってやってきて、だから女だとか男だとか考えたくなかったのに。 一番近くにいた二人がこうして女の子扱いしてくれたことが、たまらなく嫌だった。 二人と私は一緒じゃないって、思い知らされたみたいだった。 傍から見ればそれは当たり前のことで、きっとMMなんかは何言ってんの当たり前じゃんって笑うだろう。 でも私にとってはそうじゃない。 違うものだなんて考えたく無かった。 何も考えずに走って、気付いた時には全然知らない場所だった。 帰り道もわからないけど、多分大丈夫。犬なら匂いで見つけてくれるから。 そう思ったけど、あんなことをした後で犬が私を探してくれるかは疑問だった。 ケンカは初めてじゃない。 ずっと一緒だからこそ、今まで何度もケンカしてきた。 その度に対等に渡り合ってたのに、いつから拳を使ったケンカをしなくなっていただろう。 思えばそれも、私が女であることを気遣ってなのかもしれない。 考えれば考えるだけ気分は落ち込んだ。 どうしようかと思ったけれど、どっちにしたって道はわからない。 すぐにストンと腰を下ろした。 空はまだ明るさを保っていたけれど、うっすらと月が姿を現していた。 少し、寒い。 もう春だというのに、この時間になるとまだ肌を撫でる風は少し冷たかった。 寒さから身を守るように体を抱えると、まるでいじけてるみたいだ。 そんな自分に苦笑する。 けれど、笑いと共に出てきたのは目から溢れる熱いもので、慌てて顔をぬぐった。 私が女じゃなかったら。 何度それを思っただろう。 どう思ったところで現実は変わらない。 そのこともよく知っている。 世の中には、力で変えられるものがある。 けど、決して変わらないものもあるのだ。 「見つけた」 聞こえた声に顔を上げると、そこにいたのは千種だった。 ぬぐいきれてない涙に慌てて顔をこする。 バレたのかどうか、千種の反応じゃわからなかった。 あんな後で。それでも探しにきてくれて。 そんな千種に感謝はしたけど、何を言っていいのかわからなかった。 まだ謝ろうという気持ちにはなれていなかった。 「しばらく、頭冷やす」 「そう」 どこかへ行って欲しくて言った言葉だったけど、千種は隣に腰を下ろした。 通じてないはずがないことはわかっていた。 だから、それを無視して座った千種に何を言っても無駄だということもわかったから黙っていた。 千種はただそこにいるだけ。 怒ることも慰めることもしないでくれる。 だからいないと思うことにした。 黙って隣で座っている。何をしているわけでもなく、話しかけてもこない。 私が落ち込んだ時、千種はいつもこうだった。 反対に、犬は必死に慰めてくれる。 対比が面白くて、二人が同時にいる時なんかはいつの間にか私は笑っていることが多かった。 「犬は?」 「食事当番」 そうか。そう言えば今日の当番は犬だ。 放って私を探しになんてくれば、他の面子の盛大な文句が目に浮かぶ。 代わりに、千種がいるんだから問題ない。 そういうことだ。 「あのさ」 「何」 今度先に口を開いたのは千種だった。 珍しいこともあるものだ。こんな時は大抵、私から声をかけない限り何日でも口を閉ざしたままだというのに。 だから思わず顔を上げた。 涙がぬぐいきれているかどうかわかってなかったけど、冷たい風が涙を冷やして、まだ少し残っているのだと教えてくれた。 千種はポケットを探ると、すぐに目的のものを取り出した。 出てきたのは案の定、さっきの髪留めだった。 自覚無く眉が寄る。 けれど、それに気にせずに千種は私の髪にそれを留めた。 鮮やかな手つきだった。 「ちく…」 「俺たち、それ買うのに随分切り詰めたんだけど」 「……」 先手を制されて、何も言えなくなる。 わかってた。 そんなこと、言われなくてもわかってる。 私が喜ぶだろうって、喜ばせたいって思ってくれたことも。 許せなかったのは、ただ私が女であることばかりだった。 「今それをの髪に留めるために、犬の頭で練習もしてきた」 馬鹿だ。 コイツら馬鹿だ。 想像したら間違いなく笑える状況なのに、生憎ちっとも笑いは出てこなかった。 こんな馬鹿なコイツらが好きだ。ずっと一緒でいたかった。 「だから、返品不可」 もう反発する気持ちはなくなっていた。 黙って頷くと、気が済んだらしく息を吐いた。 さすがにもう、息が白くなる時期は過ぎている。 風は冷たいけれど、そこまでの寒さは無い。 それでも、繋いだ千種の手は暖かいと感じた。 「同じでなくていいよ」 座ったまま、顔を合わせずに手を繋ぐ。 誰かがヘソを曲げて出て行ったら、見つけたヤツとこうして手を繋いで帰るのが子供の頃からの習慣だった。 犬と千種が手を繋いで帰ってくることはもうなくなったけど、私はまだ二人と手を繋いでいた。 千種の声は静かだった。 当たり前のことを告げるように。 「俺も犬も、が好きだから。同じじゃなくても変わらないから」 だから、同じでなくていいよ。 繰り返された言葉は染み渡るようだった。 ++++++++++++++++++++++++++++ ラブまで書こうとして書ききれませんでした。 ヒロインちゃんが拒んでしまわれる(苦笑) 黒曜大好きです。家族みたいな彼らが大好きです。 ’06.1.25.up |