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-SIDE HEROIN- 「………」 雲雀は何も言わなかった。 頭から血を流し、体中を損傷しながら、何一つ話してはくれなかった。 ただ、不自然に逸らした瞳だけが、彼の気まずさを伝えた。 あれは、初めて見せた彼の「弱さ」だったのかもしれない。 「こんにちは」 後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはもう顔見知りになってしまったツンツン頭の少年がいた。 同じ並中生で二年生の、沢田綱吉くん。 気の弱そうなお人好しそうな顔で、時折瞳に強い光がよぎる、不思議な子だった。 同じ学校とはいえ、学年も違えば目立つわけでもない彼のことを私が知ったのは、今回病院に通い出してから。 雲雀のお見舞いとして何度も通ううちに、同じように友達のお見舞いに通っていた彼と顔を合わすようになった。 一度、彼も雲雀の病室に顔を出しにきて。 その時、たまたま私が居合わせて。 それ以来、顔を見れば互いに声をかけるようになった。 しばらくして、お見舞いが終わった後色々と話をするようになった。 気は弱いけど、友達を大事にできるいい子だと思った。 「雲雀さん、どうですか」 今回の雲雀の怪我には、彼も関与しているらしい。 しきりと心配して聞いてくれるが、私はそれに返せる答えを持っていなかった。 雲雀は何も言わない。 傷が痛いのか、痛くないのか。 治っているのか、いないのか。 ちっとも話してくれないから、わからなかった。 次第に包帯は取れていったけど、そうすると今度は生々しい傷跡が晒されたりもして。 目を逸らしたくなるような傷に、雲雀は一言「見たくないなら来るな」と言っただけだった。 だから私は曖昧に笑って、「まぁ元が頑丈だから」と答える。 答えになっていない私の言葉を…それしか言えない私の気持ちを…彼はわかっているのかどうか。 「そうですか」ってほっとした顔で、少しぎこちなく笑う。 そうして同じように入院している自分の友達の怪我についての話に変えてくれるのだ。 それが故意なのか無意識なのか、わからないけれど。 彼が友達の怪我を話してくれるおかげで、大体の雲雀の具合も予想ができたことはありがたかった。 同じ時に、同じくらいの重症を負ったのだ。 少なくとも、プライドの高い雲雀がそのゴクデラくんやヤマモトくんよりも退院が後になることだけは無い。 だから、もうすぐ退院できるだろうとわかって少しほっとした。 ベッドの上で本を読んでいた雲雀は私が入ってきても顔を上げなかった。 それでも気付いていないわけはない。特に、こんな手負いの時は。 他人が自分の領域に無許可で入ることを、雲雀は激しく嫌う。 まして、自分の体がいつものように動かないとあっては、ピリピリするのも当たり前だ。 その中で、私は例外だった。 断っておくが、それは雲雀にとって私が特別なわけじゃない。 ただ、学校の連絡事項を伝えることをクラス委員長である私に頼んできた。それだけのことだ。 鬼と恐れられる風紀委員長が休んで、ただでさえゆるゆるの学校の緊張感はカケラも無くなっている。 いくらガタイのいい風紀委員たちが校内を徘徊しても、雲雀がいるといないでは雲泥の差だ。 ケンカは多い雲雀だけど、圧倒的に勝ってばかりで長期入院になることなんて珍しかったので、私は初めてそのことを思い知ったのだった。 反応しない雲雀は無視して、先日持ってきた花の水を変える。 先を切ってやらないと、しおれてしまう。雲雀はそんなマメなことはしない。 私がするとわかっているからしないのか。わからないけれど。 どうして雲雀は私に頼んだのだろう。 こうして、無心に何かをしてると考えてしまう。 特別な人間関係を作らない雲雀が、唯一個人的に話しかけてくるのは私に対してだけだということは知っている。 一年から同じクラス。それが彼が根回ししたとかしてないとか、あやふやな噂も回った。 何かを、気持ちを、期待してしまうこの条件下で、それでも雲雀は私を見ない。 目を合わせていても、私のことを考えているわけじゃない。 私の言葉に耳を傾けながらも、必要なのはその内容だけ。 私でなくても…構わない。 ただ、不特定多数の人間にその役目を与えると面倒だから。 偶然白羽の矢が立てられたのが私だったというだけ。 痛いほどに、よくわかっていた。 期待しちゃいけない。 恋なんてしちゃいけない。 そんな気持ちを抱いたら、抱いたことを気付かれたら。 きっと彼は私を遠ざけるから。 思う理性とは反対に、私は彼に惹かれていた。 2年と少しを一緒にいて、特別にならない方がどうかしてる。 でもそれは、決して言ってはいけないことだった。 この中学で、誰より雲雀に近い場所にいた自信はある。 けれどそれは、近いように見えて、本当はとても遠い距離だった。 病室へ戻ると、雲雀は珍しくこちらを向いた。 丁度本を読み終えたところだったらしい。 「珍しいね」と言うと、「暇だったから」とだけ返ってきた。 いかにも雲雀らしい答えに苦笑する。 もう慣れきってしまって、これを寂しいとは思わない。 答えが返ってきただけでも上等だと、私は少し笑った。 「…キミさ」 「ん?」 花瓶を棚に置きながらも、呼びかけられたので軽く首をまわす。 これも、彼の要望だ。 曰く、自分の存在を軽んじられることは許せないのだと。 まったくもって「らしい」性格だけど、これを注意されたのは一年の春。 入学したての一年生が生意気にもそんな言葉を吐いたのだ。 当時はまだ今ほど男の子らしくもなく、あどけなさの残る顔で出てきた言葉がそれ。 誰もが笑ったけれど、雲雀は容赦無く笑った人間を血祭りにあげた。彼の言葉を借りれば「咬み殺した」。 入学してすぐに起こったこの事件により、彼は一躍名を馳せた。 きっとこれは、逸話として並中に受け継がれるだろうと私は確信している。 目が合うか合わないかのギリギリで首を止める。 これ以上首がまわらないのは確かだったけど、実際には雲雀を目を合わせたくなかったからだ。 目を合わせているのに、彼は私を見ない。 わかっていても、少しばかり辛さを感じずにはいられないから。 だから、これ以上は無理だって体の角度で。それなら雲雀も文句は言わなかった。 「よく来るよね。よっぽどヒマなんだ」 …呼びつけた本人が何を勝手な。 もちろん、請われたからと言って絶対に来なければならないわけじゃない。 何も罰則があるだとか成績に響くだとかいうわけも無く、雲雀にしたって別の人間を探せばいいだけだ。 使い勝手の良い人間は、風紀委員にいくらでもいる。彼らのほとんどは雲雀様親衛隊だ。手足隊と呼んでもいい。 ただ、他の人間でも都合できるとしても、雲雀が私を望むのなら来たいと思う。私にとっては嬉しいことだから。 でも、それは言えないことだ。 だから、代わりに私はこう言うしかできない。 「クラス委員の義務らしいからね。風紀委員長サマ」 義務なんだって。ただの責任なんだって。 雲雀にそう言うことで、自分でもそう思えればいい。 そんな惨めな願いをこめて。 でも、何度繰り返しても本気でそう思うことはできないでいた。 見苦しい。 そんな自分が嫌だった。 ++++++++++++++++++++++++++++ 久々の同じ話の別視点。 ヒバリさん何気に難しかった…。 ’06.1.28.up |