その瞳に射抜かれて














さん、ですね」



今回の僕たちの初顔合わせは、いつものように名前の確認からだった。
彼女は明らかに不審な顔をしながら、そうだと頷いた。
たったこれだけのやり取りが、これまで何度も繰り返されてきたものと同じだとは、知らずに。




にこりと笑った僕に警戒を解くことなく、彼女は体を固くした。
じり、と少し動いた足。すぐにでも戦闘に入れる体勢だ。
軽く握られた拳は、何かあればそのまま飛んでくるのだろうか。それとも武器に触れるのだろうか。


「黒曜第一…」


既に始まっているこのゲームを、彼女も知っていたらしい。
制服を確認するなり、一層顔つきは険しくなった。
ぽつりと呟かれた一言に、僕は戸惑った顔をしてみせた。


「はい。確かに僕は黒曜第一中の生徒ですが…」


この態度を白々しいと取るだろうか。
別にそれで構わなかった。
ただ、現実に黒曜第一中の生徒全てが僕の配下というわけじゃない。
泣く泣く従っている者もいるが、大半は使えない屑だ。
その一人を装ってみる。




案の定、彼女は視線の鋭さをかけらも緩めはしなかった。
無関係の者なら、自分に声をかける必要性が無いだろうと目で訴えてきた。
目の色は、薄いグレーだった。やはりどこかの血が混ざっているようだ。


僕の調べでも、彼女の以前の経歴を掴むことはできなかった。
昨年、イタリアから留学してきたというところで全てが遮断されている。
おそらくはボンゴレが手を回したのだろう。
履歴にマフィアと繋がりがあるというのはあまり好ましくない。








1歩近づく。

彼女はただじっと僕を睨むばかりで、動こうとはしなかった。

2歩、3歩。

足を進める僕に対し、警戒は怠らないが、微動だにしなかった。


手が触れる距離まで来て、僕は足を止めた。
手袋をはめた手で頬にかかる髪をそっとどけた。
髪にだけ触れて。頬には決して触れず。
彼女は逃げもせず、ただくすぐったさに身じろぎしただけでまだ僕を見上げていた。





今また、強い光を宿した瞳で。




魂はイコール人格じゃない。
人格というのは、持ち前のものと同時に記憶からも形成されるものだ。
無論、その持ち前の部分にも、遺伝だとかも含まれる。
結局のところ、人格を作り上げるのはほぼ8割方が生まれてからの環境なのだ。
以前彼女は弱い人だったこともあった。
一度、人の死を見るたび泣いてばかりの女だったことがあった。
その時はあまりにうっとうしくて殺してしまった。
あんなに求めていたはずの彼女がこんなものだなんて、見ていられなかったのだ。
存在することすら許せなかった。



目の前にいる今の彼女は、僕にたじろぐこともない、強い精神力を持っていた。
そのことに、満足すると同時に安堵した。
少なくとも、今回は彼女に落胆せずには済みそうだ。





「その目は変わらない…。アナタのその目に射抜かれることを、どんなに待ったか」





意味はわかるまい。
嘘偽りないところだったが、彼女が理解できるわけもない。
また、だからこそ本心を告げたのだ。
全てを知っているというのなら、知られたくはない。
天邪鬼、と呼ぶのだろうか。
彼女は怪訝な顔をした。


「以前、会った?」
「いいえ」


僕のことを話す気は無かったから、その問いにも首を振った。
昔を言っても始まらない。僕だけが踏まえていればいい事実だ。





しばらく無言で目線を絡ませた。
彼女はそれ以上聞いてこなかったし、それなら僕にも何も言うことはなかった。
今どうしているのかは調べてある。
以前どうだったかは、履歴が消されているなら彼女が口を割ることは無い。
問いかけるようなことは、何も無い。




ふ、と。彼女の右腕が動いた。僕の方に差し出された。
僕もまた、身じろぎ一つせずにそれを見つめた。
彼女は僕がしたのと同じように、僕の頬には触れずに髪をどけた。


伸ばされた手は、白く細い。
刃を煌かせれば一瞬で全てを終わりにできそうに見える。
けれど、それは見かけだけ…否、見かけでさえない。
見る者が見れば、その細い腕が相応の筋肉を持っていることがわかる。
パっと見ただけでは、いかにも頼りないか弱い少女の腕。
けれど、攻撃に転じた途端、それは凶器と化すだろう。




僕も手を伸ばしたままだったため、互いに右手を相手の顔に差し出すという奇妙な格好で向き合うことになった。
ハタから見ると、随分おかしいだろう。
それでも手を引く気にはならなかった。



「アナタは……誰?」



真摯な瞳だった。
反射的に答えそうになるくらい。
あるいは、答えれば僕の求める彼女が得られると、錯覚してしまいそうになるくらい。


けれど、決してそれは手に入らないと知っているから。
つまらない感傷で計画を潰すつもりはない。






「アナタを、傷つける者……でしょうか」






くすりと笑って告げると、また眉根が寄せられた。







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  解り合えたフリどころか、むしろ解ってるのに解らないフリ。
  しかも合えてない。すいません…。
  無理にお題で連載とかするからまったくもう。
  別に連載のつもりでもないですけど。繋がってるだけの話。

                              ’06.1.19.up


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