|
どうして体が動いたのかわからない。 ただその時は、考える前に勝手に動いていた。 まるで本能のように、魂が私を突き動かした。 私自身の思惑とは、関係なく。 けれど確かに私の意志だった。 六道骸の攻撃により、私もまた、彼の操り人形になっていた。 体の自由は奪われ、自分の意志では指一本動かせない。 代わりに、私ではない別の意思が私の体を動かしていた。 「皆…!」 10代目が叫ぶ。 自分で動かせない体だったが、勝手に動いて彼らの姿を捉える。 私同様、獄寺とビアンキの体も支配されているようだった。 これでは10代目にはなすすべが無い。 仲間を切り捨てられるような人なら、最初からこんなところに乗り込んできたりはしないのだから。 弱くて、いつもおびえていて。 なのに、今回ばかりは違っていた。 自分の弱さは自分が一番よくわかっているはずなのに、自ら乗り込んでいった。 ただの子供一人を助けるために。 フウ太の能力はとても重宝するものだ。 なのに、あの人はそんなものは全く気にとめず、ただ自分を慕ってくれる可愛い弟分を助けるために来たのだ。 正直、ダメツナと呼ばれていた彼がそんな人だとは思っていなかっただけに、喜びも大きかった。 けれど、それが最大の弱点となる。 これでは彼には手も足も出まい。 元々の能力だったとはいえ、それを最大限に活かしている。 やはり六道骸という男はぬかりがない。 「これが僕の能力です」 10代目に説明しているのは、城島犬と名乗った男。 いや、その体を操っている、六道骸だった。 動かせない体でありながら鮮明な意識でその言葉を聞いていたが、ふいに頭の中で違う声がした。 『アナタは、大人しくしていてくださいね』 紛れも無い、六道骸自身の声。 反射的に彼の姿を探そうとして、すぐにできないことに気付く。私の体は動かない。 心の中で舌打ちした。 『僕の体、ですか?だったらほら、そこに倒れているでしょう』 私の意図を読み取ったのか、彼は…彼に操られた私の体は振り返って六道骸の姿を捕らえた。 横たわったままの彼。ぴくりとも動かない。 それは完全な抜け殻だった。 心臓までが止まっているかは、判別できないが。 『動き回られると邪魔ですから。意識は奪いません。その目で見ていてもらった方が都合がいい。ボンゴレの朽ち果てる姿を』 (ふざけるな…!) 心の中で叫んだ声が、彼に届いたのかは定かではない。 私の体は崩れ落ち、壁にもたれかかる形で座り込んだ。 視界は、この部屋を見渡すには十分だった。 それ以上彼の声は聞こえなかった。 動けない悔しさをかみ締めながら、私は全ての戦いを見届けることになった。 自由が利くのなら、今すぐ割って入るのに。 ようやく認められたボンゴレの10代目を、体を張って守るのに。 彼を10代目だと認めることができたのが嬉しかった。 力になろうと思った。 それはついさっきのことなのに。 だが、案ずることは無かった。 仮にもボンゴレの10代目となる人だ。 劣勢を覆し、最後には六道骸を跪かせるに至った。 「終わりだ」 静かな10代目の声が、いやに響いた。 いつものあの人からは、とても想像できない。 改めて、ボンゴレ10代目となる人の資質を見た。 能力が開花してからの戦闘は、圧倒的だった。 戦闘慣れしていない彼が、まるで赤子を捻るかのように獄寺を、ビアンキを、あっさりと沈める。 そうして己の体に戻った六道骸も、難なく制した。 殺すのだろうか。 いや、あの人にできるわけがない。 まだ人の死に慣れていない人なのだ。血を見ることさえ嫌がったのに、命を奪うことなどできるはずがない。 私が動けるなら、代わりにとどめを刺すところだが、それは適わぬことだった。 ここに至って、まだ私の体の支配は解けていない。 他人の体を支配することは、注意力を分散させることにはならないのだろうか。 ふと思う。 そんな半端な集中力で、これまで戦っていたのだとしたら? 私の支配さえ解けば、彼には勝機があったのではないか。 そうまでして私の邪魔を拒むのは…なぜ。 わからない。 雲雀恭弥を難なくあしらっていた彼が、私を脅威に思うはずもないのに。 いくら考えても、答えは出なかった。 10代目の拳が振り下ろされる。 Xグローブで死ぬ気の炎をまとった拳は最強の武器だった。 あれで殴られれば、ぼろぼろになった六道骸などひとたまりもないだろう。 これで終わる。 今回の一連のボンゴレに売られた喧嘩を、10代目の初勝利として飾って幕を下ろすことができる。 意識だけで安堵の息を漏らした…つもりだった。 10代目の拳を受けようという瞬間。 六道骸がこちらを向いた。 視線が何かを言っているようだったが、わからなかった。 どうして。 拳を受ければ無事ではいられない。 その瞬間になってさえ、私の支配を解かないのは。 私を見て浮かべた笑みは。 わからない。 あの男は、わからないことが多すぎる。 どうしてか泣きたくなった。 「……?」 「……?」 私の名を呟いたのは、奇しくも二人同時だった。 気付けば私は、六道骸の体を抱えて倒れていた。 何が起こったのか、自分でも理解できていなかった。 あの瞳を見て。 何かわからない感情が突き上げた。 その感情が、私の体を勝手に動かしたとしか思えない。 少なくとも、この行動は、六道骸が操ってのものではなかった。 それだけは、なぜかハッキリ言えた。 勝手に動いた私の体はまっすぐ二人の方へと突っ込み、そのまま六道骸の体を抱えて滑り込んだ。 10代目の拳が宙を切った風圧が私の頬を掠めた。 恐ろしく鋭い突きだった。 当たっていれば私の体も無事では済まなかったろうが、飛び込んできた私に気付いたのだろう。彼の動きが鈍った。それだけで抜け出すには十分だった。 「」 もう一度私を呼んだのは、10代目が先だった。 疑問を帯びながらも、優しい声色。 いつもの彼とは違う、落ち着きながらも私を従えさせる響き。 9代目を思い出させる。 彼はやはり、10代目に相応しい。ボスにいい報告ができそうだった。 けれど、返事はできなかった。 自分でも何を思ったのかわからない。 ただ、何をしたのかはわかりすぎるほどわかっている。 私は、10代目の敵を、ひいてはボンゴレの敵を助けたのだ。 あんなにも大事だった、ボンゴレという場所を、存在を、後ろ足で蹴ったも同然だった。 合わせる顔も無い。それどころか、生きてる意味も無い気がした。 顔を上げることも起き上がることもできず、私はただ腕の中にあった六道骸を強く抱きしめた。 一番大切だったはずのものを、場所を裏切ったという事実に耐え切れず、何かにすがりたかったのかもしれない。 彼は私の腕から抜け出すこともせず、黙ってされるがままになっていた。 少しの沈黙の後、六道骸がくすりと笑いを漏らした。 これまでの人を高みから見下ろす笑いではなく、まるで自嘲するようなものだった。 私に抱えられたままだった彼はのろりと腕を動かし、逆に私を抱えて上半身を起こした。 私の腕の中にあった彼の頭はするりと脱し、そのまま私の頭が彼の腕の中へと納められた。 「………」 頭の上で、何か呟いていたが、生憎言葉までは聞き取れなかった。 ただその声色が、なぜかとても暖かい気がした。 今、体が動かないのは、彼の能力による支配なんかじゃ、きっと、ない。 ++++++++++++++++++++++++++++++++ 何が書きたかったって、 書きたいシーンを書きたかっただけですごめんなさい。 ’06.1.20.up |