|
ツナは非常に緊張していた。 それはもう、獄寺がバカをやった後始末だとか、リボーンの無茶な修行を受けるなんて比ではない。 静寂の中、バカみたいによく聞こえる時計の針の進みがいやに遅く感じる。 ごくり、と。 つばを飲んだ音さえ相手に聞こえるかと思った。 突然、大きな音を立てて木が揺れた。 「うわっ…!」 反射的に驚いて、顔をかばうように腕を上げたが、何のことはない。 見れば、少し大きめの鳥が一羽、木から飛び去っただけだった。 己の過剰な反応に赤面し、体温が上がった。 なんたる醜態。 マフィア・ボンゴレファミリーの次代ボス候補だなんて言われているが、実際の自分はこんなものだ。 誰もが自分に10代目という期待をするが、自分には応えられない。 どうして皆、それがわからないのか。 結局自分は、ダメツナであることに変わりないのに。 「…ぷっ……」 自分が笑われたのだとわかり、ツナは尚更体を硬くした。 振り向けば、自分をここに連れてきた少女がこらえ切れない笑いに肩を震わせていた。 くすくすと笑う少女。 なんかもう、やっぱりオレはダメツナだ…と落ち込んだツナだったが、しかし、笑い続ける彼女を見て、気が抜けたように自然と言葉が出た。 「なんだ…笑うと、可愛いんだ」 ぽろりと口をついた。 言った瞬間、自分の失言に気付き慌てて口を押さえたが、後の祭り。 一度出た言葉は戻らない。 ましてや、他人の言葉を聞き逃すような彼女ではない。 きっと冷ややかな視線の後、大きなため息をついて、呆れたように背を向けるだろう。 だって彼女は…というこの少女は、自分をボンゴレ10代目と決して認めようとしない人だから。 9代目の命令で、次期ボンゴレボスを見定めに来たのだと言った少女。 自分を見るなり、キッパリと落第点の太鼓判を押してくれた。 あれだけマフィアなんてと言い続けていたのに勝手なものだが、その時は少しばかり落ち込んだものだ。 誰もが自分を10代目として見るようになっていて。 過剰な期待は重かったけど、リボーンが来てから、自分の周りは確実に変わっていたから。 少しウカれてたのかもしれない。 彼女は最初、リボーンに「ボス候補を変えるべきだ」と意見したが、リボーンは取り合わなかった。 自分という家庭教師がいるのだから問題無いと。 そもそも、リボーンに口でも腕でも勝てる者なんて、ツナの知る限りにおいて見たことがない。 「リボーンに意見する」という行為が既に驚きなくらいだ。 予想を裏切らずリボーンは一蹴したが、それでも随分ねばっていた。 それが、急に大人しくなったのはディーノの名を引き合いに出した途端。 「ディーノもオレが指導した。それでも文句あるか?」と。 聞いたところによると、はディーノをいたく尊敬しているとのことだった。 キャバッローネとボンゴレは交流があり、その繋がりでもディーノと面識があるのだとか。 マフィア同士の交流なので、当然ながらとディーノが顔を合わすのは、彼が部下を連れている時のみ。 部下がいる時のディーノさんしか知らないなら、尊敬するのもわかるよなぁ、とツナは共感とも同情ともつかない感想を抱いたのだった。 結局、その一言で大人しくなったは、それからずっとツナを観察していた。 本当にボンゴレのボスとして相応しいのか。 じっと見られているのは落ち着かなかったが、日常があまりに騒がしく、いつの間にか慣れてしまった。 本気でボスになりたくないのなら、彼女の前で失態ばかりを続ければいい。意識しなくても、元々自分は失敗ばかりなのだから造作も無いことだ。 反対に、ボスになりたいのだとしても、だったら部下になるべき彼女に認められないようではその資格は無い。 そう思った。 彼女に初めて会ったのが、獄寺たちが来てしばらくしてから。 すでに半年近くが経っている。 その間の彼女の態度はと言えば、ことあるごとに「こんな男がボンゴレの10代目なんて」と言わんばかりだった。 それが原因で何度も獄寺と対立していたが、勝つのはいつもの方だった。もちろん口でも。 負けて怒りを増長させる獄寺を宥めるのは、これも当たり前のようにツナの役目。 宥めれば宥めるだけ、獄寺は納得いかない様子だった。 ツナから見たは、強くて、颯爽としていて。 年が同じとは思えないくらい落ち着いていた。 そして何より―――ボンゴレに命を懸けていた。 だから彼女はツナを認めない。 彼女にとってもっとも大事なボンゴレの、筆頭になるには器が小さすぎると。 決して不相応な力量を求められているわけではない。 彼女が自分に求めるものは、ファミリーをまとめる者として必要なレベルだ。 単純に、今のツナの力量がそれにも満たないだけだ。 ずっと自分を否定していたの笑い顔なんて見たのは初めてで。 驚いたけれど、すぐに可愛いと思った。 それがつい口に出てしまったのが大問題なのだけど。 笑った途端、年相応のあどけない顔になった。 とはいえ、きっと自分にそんなことを言われるなんて、にとっては屈辱だろう。 認めない男からの「可愛い」なんて賛辞を喜ぶ彼女ではない。 しかし、予想に反しては赤面した。 ツナの言葉に目を見開き、次に顔を赤くして口元を手で隠し、目を逸らした。 意外な反応に、慌てていたツナも意味不明な動きを止めた。 視線をさまよわせたは、今までの彼女と違って見えた。 いつでも確固たる自分を持っていた。 何があっても揺るがないと思っていたのに。 「アナタは本当に……ことごとく予想を裏切ってくれる」 「え、あの、ごめん…」 反射的に謝ったツナに、は謝るなと制した。 一旦気持ちを整理するように息を吐く。 その後向けられた表情は、ツナがおよそ初めて見る友好的な顔で。 これまでの彼女の対応を考えれば、いっそ怖いくらいだった。 「だからアナタなんですね。…10代目」 「え……」 優しい顔だった。 がツナに見せるのは、いつも固い顔だった。 ともすれば不機嫌なのかと思ってしまうほどに、鋭い視線。 射抜かれるようなそれに、身をすくめてばかりだった。 そうすれば余計に視線は険しくなった。 思えば、彼女には器の大きさを求められていたのに、そのたびに器の小さいところばかりを見せていた気がする。 ツナは、の笑ったところも泣いたところも見たことがなかった。 だから今、初めて見た笑顔も。この友好的な態度も。 戸惑うばかりで。 「ボスの目は間違ってなかった。間違っていたのは私…ですね。10代目」 “10代目” その響きはことさら優しくて。 「え……。今、10代目って……」 「はい。なんですか、10代目」 わざと繰り返された単語に、さすがのツナもわかった。 は、自分を認めてくれたのだと。 彼女は自分を認めないから。だから、絶対に10代目とは呼ばなかった。 かといって名前を呼ぶわけでもなく。 ただ「アナタ」と他人行儀に呼び、口調も固かった。敬語なんてもってのほかだ。 意味を理解して驚くツナの反応はわかりきっていたのだろう。 ただ微笑んで。 「私の目は、表面上しか読み取らない。これでは役に立ちませんね」 自嘲気味に笑うに、しかし暗いところはない。 むしろツナを褒めてくれているようだった。 「アナタのことも。ランチアの時も。…アナタは、本質を見抜いて彼を救ったというのに」 その言葉に思い出すのは、六道骸の影武者にされていた一人の男。 彼と自分の戦い。 あの時彼女は、並盛中襲撃をボンゴレに対する挑戦だと怒り、ヤツらを壊滅させるのだと意気込んでいた。 普段冷静なが、頭に血が上っていると表現しておかしくないほど激昂していた。 その姿に、改めて彼女にとってのボンゴレの存在をかみ締めた。 ランチアとの戦闘時、手と止めたツナ。 それに対して彼女が何を思ったか、想像に難くない。 けれど真実は。 「彼とランボを同列にするのはどうかと思いますが…」 苦笑しながらも、それは判断違いではなかったと。 微笑みながら、そう言った。 彼女の微笑みにつられるように、ツナも笑った。 きっと、だからここに呼び出したのだろう。 ここは、六道骸と戦った廃屋のそば。ちょうどランチアと戦ったその場所だ。 突然話があると言われて連れ出されて、驚くばかりで何も考えずに着いてきたけれど。 にとって、ここは初めてツナを認めた場所だから。 ここで告げることにも意味があったのだ。 「沢田綱吉さん。アナタが正式にボンゴレファミリー10代目ボスになった時、私を部下にしてくれますか?」 否やもなかった。 彼女ほどボンゴレに全てを懸けている人を、ツナは他に知らないのだから。 「もちろん」 力強く請け負うと、の笑みは顔中に広がった。 やっぱり可愛い、と思った +++++++++++++++++++++++++++++++ そんなワケでマイブーム10代目。 世界の中心で10代目と叫ぼうキャンペーン中(笑) ヒロインが、自分の中で変に設定ができすぎていて、 文章にするのがかえって大変でした。 出会いの最初から書くとちっとも夢にならんです、はい。 原作CP無視はあんまり好きじゃないんですが、 今回ばかりは目を瞑りたい。すいません… ’06.1.17.up |