=君を想う10のお題 2.贈り物=





彼方より











手紙が届いた。
横文字で書かれた封筒に驚いたけれど、いくらオレでもローマ字くらいは読める。



宛名はオレで、差出人はだった。








「で、俺に持ってきた、と」



目の前のディーノさんはふっと笑って手紙を受け取ってくれた。
開けてみると、封筒だけでなく中身まで横文字で書かれていた。当然オレには読めない。
どんなに頑張って解読しようとしたって、悲しいかなそれだけの学力がない。
考えた末、オレはディーノさんを訪ねた。
ディーノさんならきっとこの手紙も読めるだろうと思ったからだ。


一瞬、「ここで頼ったら獄寺くんは喜ぶんだろうな」という考えも浮かんだけれど、手紙の差出人が差出人なので、やめておいた。
元々犬猿の仲の二人だ。
獄寺くんに頼んだら、読んではくれるだろうけど、きっと機嫌を悪くする。
これ以上仲間同士で争って欲しくなかった。





ディーノさんは、丁度ヒマしてたんだ、と言って快く迎えてくれた。
大きな取引が終わったばかりで、しばらくゆっくりできるようになったばかりなんだそうだ。タイミングがいい。
ディーノさんの滞在しているホテルは結構な豪華さで、庶民のオレは足を踏み入れるのを躊躇ったほどだ。
一瞬回れ右をしたくなったが、運がいいのか悪いのか、部下の人に見つかってしまい、あれよあれよという間に通されていた。


「ま、可愛い弟分と妹分のためだ。そんくらいなんでもねーよ」
「ありがとうございます」


突然の来訪にも、ディーノさんは屈託がなかった。
ボスの器っていうのは、こういうものなんだろうかと無意識に考えた。


がディーノさんを尊敬しているように、ディーノさんはを妹分として可愛がっている。
オレ宛の手紙が届いたのと同じ頃に、ディーノさんにも手紙が来ていたそうだ。
内容は、きっとオレが頼りに行くだろうからお願いしますということだったと聞いて、思わず脱力した。
用意周到と言えば聞こえはいいんだけど。
オレの学力がしっかり読まれていると思うとボスとしてはふがいないことこの上ない。
うなだれたオレを励ますようにディーノさんは肩を叩いてくれた。
普通の中学生が、イタリア語を読めるわけがないんだからと言われてちょっとほっとした。


「でもツナ。ちゃんとボスになるまでには、イタリア語くらい覚えとけよ」
「うっ…」


しっかりと釘を刺されたが、正直自信は無い。
英語も全然なのに、イタリア語なんてやったら余計にこんがらがるだけだ。
マフィアの本拠地はイタリアなのだからいずれ必要に迫られるだろうとは思っているが、まだ実感は沸かない。


ディーノさんもそれはよくわかっていたらしく、ハハハと笑って手紙に目を落とした。







『親愛なるボンゴレ10代目へ』



ありきたりな出だしから始まる文章。
文字は綺麗なんだろうけど、慣れないオレには筆記体を解読することすら難しい。
ディーノさんの手元を覗き込んだが、見ながら聞いたところで勉強にはなりそうもなかった。




『アナタのことを9代目にご報告したら、ボスは満足そうでした。
少々不安もありますが、これからのアナタの成長が楽しみだと仰ってました』



そんな報告と、イタリアでのファミリーの様子。こちらの具合はどうかなどが綴られていた。
目の前にいた時はちっともそんな話はしてこなかったのにと思うが、考えて見れば当たり前だ。
彼女が日本にいる間、オレは認められていなかったのだから。
認めた途端にこんなに友好的になるところは獄寺くんと似てるなと思ったが、それもきっと、言ったら二人揃って反対するだろう。
想像したら可笑しくなった。


くすりと笑いを漏らすと、ディーノさんがちらりと視線を向けたが、互いに笑みを交わしただけで、何も聞かないでくれた。


手紙は便箋一枚きり。そう多い内容ではなく、そのほとんどが報告書のようなものだった。
部下からの手紙っていうのはこんなもんなのかと思いつつ、少しばかりがっかりしないでもない。
もうちょっとこう、友達らしい親しさとか…そんなものをに求めたって無理なのはよくわかってるけど。




「あと、これで最後だな」


前置きの後、ディーノさんは最後の文章を読み上げた。



『リボーンさんの修行は厳しいでしょうが、彼の手腕は確かです。頑張って下さい。
私もこちらにいる間に、アナタの頭脳になれるように日々精進します』


「……頭脳?」

首を傾げたが、続きにちゃんと説明があった。



『アナタの右腕は山本が。左腕には獄寺がいます。(ちなみに役に立とうとすればするほど失敗している辺り、獄寺は利き腕より左腕の方が相応しいと思います)
だから、私はアナタの頭脳として役に立ちます。獄寺は頭がいいけどバカだし、山本は機転は利くけど頭が悪いですから』


ハッキリ言っちゃってる辺り、やっぱりだなぁと苦笑する。
冷静と冷酷は、どの辺に境界線があるのだろうと思うような、そんな厳しい観察眼。
オレと同い年だっていうのに、どうしてこう冷静に物事を見れるのだろうと感心する。反面、もっと気楽に考えればいいのにとも思う。
見ればディーノさんも同じ笑みを漏らしていた。


そして、最後はこう締めくくられていた。




『そしてできれば…アナタの心を支える存在になりたい。

ボスというのは大変な役目です。だから私はアナタを見極めに日本に行きました。ボスとして相応しいかどうか。そうしてアナタは立派に示してくださった。
私の報告で、9代目は一層アナタをボスにという意志を強められました。
ですが、だからこそ。ボスになったアナタが苦しんだ時には、私が支えるべきだと思うのです。もちろん、アナタが許してくれるのならば、ですが』








「…だとよ」


呆然とした。
読み終えたディーノさんは、意味ありげににやりと笑って俺を見た。
けれど、なかなか頭は動かなくて、見上げるディーノさんの言葉に返答もできなかった。



オレの、心。



ボスっていうのがどういうものか、オレはよく知らない。
身近な例として、ディーノさんがいるが、目の前でその仕事を見るわけじゃないから、具体的なものはわからない。
は今まで、9代目のそばで、それを見てきた。
その目で見てきた壮絶さを思って、オレを案じてくれている。

それが、無性に嬉しかった。





「だったら、オレも…頑張らないと、いけませんね」




自信無く笑ったが、ディーノさんは気にした風もなく、いたずらっぽく笑った。







「ボスってのも、悪くないだろ」







ディーノさんも、最初はボスなんていやだったって言ってたっけ。
けど、実際にファミリーを構えてみると違うもんだってことも教えてくれた。

あの時はわからなかったけど、このからの手紙が嬉しいって気持ちなら、わかる気がした。






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  贈り物になるのかならないのか。
  「貰って嬉しかった」という点で贈り物という解釈にさせていただきました。
  相変わらず、ありきたりがイヤだと言って変な方向に走ります(笑)

                             ’06.1.18.up


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