わかってた シュウがどれだけ私を大切にしてくれてたか
わかってないのだろう
にとって、僕は兄貴でしかない どうして自分たちは同じものから生まれたのだろう それは、の一言がきっかけだった。 言ってはいけなかった。おそらくは、知らなければそれで済んだだろう。 あるいは、もっと経ってから。今更だと思うほどの時を経ていたのなら、彼とてその事実を何とか受け入れられたかもしれない。 けれど、誰よりも信頼していたからこそ、彼女はそのことをすぐに彼に報告してしまったのだった。 「あ、そうだ。ねー、シュウ」 「どうしたの?」 「観月くんと付き合うことにしたから」 さらりと告げられた言葉。 何でもないことのように。 けれど、聞き逃すことのできない言葉。 不二の中で、嫌悪感が走った。 「何それ。またどうして急にそんな話になるのさ」 表面上の人のよさそうな仮面ははがれないが、その仮面の下くらい14年も一緒にいればわかる。 彼のどんな些細な変化でも、は見て取ることができる。 母よりもずっと、近くにいる存在。 生まれる前から共にいる二人だから。 「どうしてってもわかんないけど。裕太のことを心配してるなら、大丈夫だよ」 そうじゃなくて、と言いかけた言葉を飲み込む。 観月を目の敵にしているのは、確かに裕太のことがあるからに他ならない。 でも、本当はそれだけではないのだ。 おそらくは、生まれながらに持っている性格の不一致。 彼と自分が合うなんてことは、きっとこの先一生無いだろうと思えるほどの。 「裕太のこともだけど…。が傷つかないか、心配だよ。こう言うのも何だけど」 心配。 そう、心配だ。 兄として、自分の半身である妹が妙な男にひっかかりはしないか。 不当に傷つけるような奴に、妹はやれない。 そう思ってきたのだから。 けど、それだけ? 何か胸に残る違和感。 自分の頭の弾き出す答えが、心のそれと一致していない。そんな感覚。 「大丈夫よ。あれで結構素直な人だから。モロイとも言うけど」 あっさりと、褒めてるとは言いがたい言葉を口にする彼女。 けれどそれでいてとても幸せそうで。 周助の胸に、何かが走る。 イヤダ ダメダ 渡サナイ…… 何かが、弾けた。 「シュウ……?」 自分を見上げながら名前を呟く彼女を見て、ようやく自分の今の体勢に気づく。 ベッドに腰掛けていたはずの彼女の体は今、自分の下にあって。 しかも逃げられないように両側に手をついている。 押し倒したのだと、悟った。 自分の行動なのに、あまりに衝撃のままに動いたため何をしたのか自身ですらわかっていなかった。 「……ごめん」 「何が……。……っ!」 一言ポツリと謝罪の言葉を口にし、その一瞬後に彼女の唇を塞いだ。 自分の唇で。 何が起こったのかわからないようで、彼女の瞳は見開かれながらも焦点が微妙に定まっていない。 そんな彼女に、さらに深く口付ける。 どういうことか、わかっていた。 近親相姦。 脳裏にそんな単語が浮かぶ。 一番近しい、自分の半身。 双子として生まれた自分たち。 なのにこんな感情に歪んでしまったのはどうしてなのだろう。 守りたいと思っていた。 物心つく前から、のことは自分が守るのだと。 裕太が生まれ、守るべき対象が増えてからもそれは変わらなかった。 誰よりも守りたい、大切な存在。 何を犠牲にしてでも。 それが、いつしか形を歪めた。 あるべき『兄妹』としての感情から、求めてやまない狂おしいほど愛しい者に。 いっそ、同じものとして生まれていればこんなことはなかったのに。 違う体に生まれてしまって、それならば他人であれば良かったのに。 一番近くて、一番愛しくて。 なのに一番遠い存在。 手に届くのに、手に入らない。 そのもどかしさ。苦しさ。 「んんっ……」 苦しそうなくぐもった声がする。 苦しめている。自分がを。 あんなにも守りたかった存在なのに。 けれど、抑えることができない。 燃え盛る炎なんて言葉で比喩できない。 むしろ、暗い静かなそれ。 静かだが、誰にも止められない強さを持ち合わせているような。 「シュウ…やめっ……」 「うん、ごめんね。でも……観月なんかにはやれないよ」 周助のあまりに切なそうな顔に、思わずは言葉を飲み込んだ。 いけないとわかっているのに。 こんなこと、望んでいないのに。 それでも今まで培われてきた信頼。 彼は、絶対に自分を傷つけないと。 「どうして、僕らは別の生き物なんだろうね」 「………」 「いっそ一つで生まれてくれば良かったのに」 「………」 「このまま抱いてしまえば、一つになれるのかな」 「………」 は黙ったままだった。 受け入れることなどできないのに、それでも返事をせずにじっとしている。 自分を抱きしめている兄の腕の中は温かくて、それなのに背筋がどこか寒くなる。 彼がそう言った以上、放っておけば本当にやりかねないこともわかっているけれど。 しかし、ここで完全に拒絶すれば、この兄は壊れてしまう。 それもまたわかっていたから。 「。誰にも渡さない…。ずっと、一緒だ」 それは抜けられない迷宮のよう。 心のラビリンス。 どこまでいっても彼らは兄妹で、それは変えようのない事実。 例え体中の血を一滴残らず抜き取って、別のものにしたとしても変えることなどできはしない。 それ故また、離れられず。 一生この心を引きずるのか。 誰よりも大切で、誰よりも守りたいが故に、傷つける。 お互いに深く。 相手を想うがため、避けられぬ道。 どうすれば救うことができるのか。 救われるのか。 子供である二人にはまだ、答えを出すことはできなかった。 ******************************* アイタ。 近親相姦ネタは好きじゃないはずなのにー! 不二先輩だとなぜか許容範囲。 『外見天使』と設定を繋げようかと思ったけど、 あまりに痛いのでやめておきます。 あー、観月ダシにされただけだったね(爆) ’02.6.22.up |