街中がクリスマス一色。 だからと言って、所詮中学生の財布では何か特別なことができるわけでは ないけれど。 ただ、一緒にいられれば、それだけで素敵な思い出となる。 白い息を弾ませながら、二人は笑い合ってそんな中を歩く。 話すこともいつもと大差ないが、それは幸せな時間だった。 そうして歩いているとき、英二はふとがやたらと寒そうにしていることに気 づいた。 もちろん、寒いのだからそれは至極当然のこと。 だが、いつもよりも更に…。 「ちゃん、手袋は?」 そう。 はいつもはめている手袋をしていなかった。 冷え性だからと言って毎日かかすことなくはめていたというのに。 英二のその言葉に、は苦笑しながら破れちゃったんです、と言った。 「昔から使ってたやつだったから、当然なんですけど」 今日出てくるときに気づいたので、代わりがなかったのだという。 「冷え性だって言ってたのに、大丈夫?」 見れば彼女の手は随分赤い。 ハタ目にも痛そうなほどに。 「大丈夫です。今度また買いに行きますから」 明日から冬休みだから外に出る回数は減りますしねと笑う。 だが、明日からがどうという以前に、今あまりにも寒そうだ。 しばらく考えていた英二は、いーコト思いついた、とニパっと笑った。 「こうすれば少しはマシだよねv」 英二は右手での左手を握った。 思った通りかなり冷たくなっていた。 「え、きっ菊丸先輩!?」 付き合うようになってまだ日の浅い二人。 その前から英二は日課のように彼女に抱きついてはいたが、こうやって手 を繋いだりするのは初めてでは戸惑って顔を赤くした。 だが英二は気にすることもなく、ニコニコと自分の素晴らしい提案に満足げ な笑みを浮かべている。 「あっ、でもこれじゃ片手しかあったまらないね」 どうしようと慌てる英二が面白くて、それでいて嬉しかった。 そんな英二にはクスクスと笑いながら言った。 「片手だけで十分ですから。ね」 「菊丸先輩の手、大きいですね」 手を繋いだまま歩いていると、が言った。 「そう?普通だと思うけど」 英二の手の大きさは、男子としては標準的だろう。 だが、女の子のからすればそれは十分『大きい』部類に入るほどで。 の手は英二の手にすっぽりと収まっている。 「ちゃんの手は可愛いね〜」 さらっと言われた言葉にまた顔を赤くする。 英二は何を考えているわけでもなくこういうことを言うからタチが悪い。 「そっ、そんなことないです!私の手なんて小さいしガサガサだし!!」 慌てて否定する。 の手は標準の女の子のそれよりも小さかった。 今まで同年代で彼女よりも小さい手の人なんてほとんど見かけたことはな いほどに。 はそれを気にしていた。 バレーボールすら片手で掴めはしないその手を。 「小さくてもいいじゃん。可愛いんだから。それにガサガサなんかじゃないよ」 英二はそう言ってくれたが、実際の手は荒れていた。 マネージャーとしてこの冬のさなかにでも外で水仕事をしているのだからそ れは当然だった。 それは言い方は微妙にズレるが『名誉の負傷』とも言えるもので、自身今 までは気にしていなかったが、好きな人と手を繋ぐとなるとやはり綺麗なほ うがいいに決まっている。 決まり悪そうにしているを見ながら、英二は繋いだ手を持ち上げながらそ れに顔を近づけた。 そして そのの手に唇を触れさせるだけのキスを落とした。 真っ赤になってもはや声も出ないに、英二はいつもとは違う真面目な表 情で言った。 「俺は、ちゃんの手、好きだよ。もちろん手だけじゃないけどね」 その言葉に、は赤くなりながらも返す。 「私も………です……」 俯いて言うが今まで以上に可愛くて。 英二は彼女を抱きしめた。 いつもの抱きつきとは違う、誰が見ても恋人に見える抱擁。 「来年も、その次も。ずっと一緒にすごそうね」 自分の腕の中の少女の耳元で英二はそう囁いた。 ******************************* お久しぶりの菊丸先輩です。 あぁ、初々しいったら。 ウチのドリー夢の中で彼らが一番青春しているような気がします。 可愛いなぁ、中学生。 手塚部長を中学生らしくするのもそれはそれで至難の業なのですが。 深司とかもうノンストップなので(爆) 初々しい彼らに幸あれ。 ’01.12.24.up |