キミのキモチ ボクのキモチ














が怒っている。

どうしてかわからないけど、どうも俺が怒らせてしまったらしい。









「ふーじー!!」
「何、英二」




感情を全開にして泣きつく俺にも笑顔を崩すことはなく、むしろ楽しそうに振り向く悪友不二。
俺が何に悩んでるのか。どうして欲しいのか。
そういうの全部わかった上で、そ知らぬふりをするんだ。



「ねー、俺何した?何で怒ってんの?ねーねー!!」



それでも頼りにできるのは不二だけなので、わかっていても乗せられてしまう。
相手には大石ではどうにもならないし、手塚はそういうことに興味無い。
桃や越前なんて論外。

そして不二は、悔しいけどかなりと仲がいいから。




半泣き状態の俺にクス、といつものように裏なんだか表なんだかわからない笑みを浮かべて(に言わせれば見たまんまらしい)俺をかわした。



「それを僕が教えたとして、が納得すると思う?」



笑顔で恐ろしいことをサラリと言ってのけてくれる。
けどそれは確かに正論なのだ。
は他人に頼るのは嫌い。
俺に対して怒っているのも、俺が自分で気づいて反省しなきゃきっと許してくれない。




それもわかってるけど。

でも、どんなに考えてもわかんなかったんだからどうしようもない。
だって、このままじゃ本当に一生口きいてもらえそうに無い。
まさに四面楚歌。いや、違った、八方ふさがり(だっけ?)





涙を溜めてすがるように見る俺に、不二も少しは心を動かしてくれたのか、軽くタメ息を吐くと仕方ないなと言ってくれた。

「不二!」
「ヒントだけだよ?」
「うん!」

ヒントでもなんでも、少しでも解決に近づくならそれでいい。





が怒り出したのはいつから?」
「えっと、今週の火曜日」


今日は金曜日だから、もう四日もまともに口をきいてくれないままだ。
こんな状況、耐えられない。
俺はが好きだから。




「じゃあ、その前に何かあったってことだよね。その前に普通に話してた時との間に、何かやったってことだろ?」




なるほど!
範囲を限定して考えれば、何か思いつくかもしれない。
いやー、やっぱり不二様々だよ。感謝感謝。




「わかった!サンキュー不二」
「そこからは自分で考えなよ」





普通なら教えなくてもそのくらいは考え付くものだけど、という不二の言葉は幸い俺には聞こえなかったからなかったことにして。
俺はほんの少しでも見えてきた光明に、喜んで火曜以前のことを思い返してみた。
















あー、空が青いなー。
ようするに暑い。
空しい。
寂しい。




俺はうなだれながら、グラウンドを走らされていた。








考えに考えたけど、やっぱりわからなかった。
不二に言ったら今度は真顔で重そうなタメ息をつかれた。


部活中もまだ考えていたら、どうにも調子が悪くて手塚にグラウンド10周を言い渡された。ついてない。




何なんだろう、本当に。
月曜日は、確かに普通だったのに。
いつも通り朝練して、授業受けて、部活出て。
何も怒らせるようなことなんて無かった。


なのに火曜の朝にはもうは怒っていて。しかも取り付く島も無かった。
帰り…は、別々で帰ったし。
あー、もしかしてそれが原因なのかなー。
けどそんなのしょっちゅうだし、は別にそんなこと気にする性格じゃないし。
(むしろ俺が気にするのには知らん顔)







フと顔をあげてを見る。
手塚と何か打ち合わせをしてて、それはすぐに終わったらしく手塚はどっかに行って、代わりのように不二が来た。




不二と笑ってるを見て、俺は無償に寂しかった。
空しかった。


不二と


見た目的にも中身的にも、俺よりずっと似合ってる。
二人が去年のベストカップル賞に選ばれた時はさすがにヘコんだ。
その時すでに俺とは付き合ってたのに。




不二の手がの肩に触れる。
多少のスキンシップは当然だってわかってるけど、やっぱりいい気はしない。
正直なところ、嫌だ。
けどそれを言うのも見苦しい嫉妬みたいで嫌だ(実際嫉妬なんだけど)


でも今日のはやたらベタベタしてないか?
に避けられてて精神的に参ってるからそう思うだけなのかな。


なんかナイショ話してるらしくて、顔を近づけて話している。
そして二人でクスクス笑う。
あーもーなんだよ。俺のこと無視して不二と楽しんでるんだ。
俺はにとって何。




それに気をとられてたら、コートの中から飛んできたボールが見事俺の頭にヒットした。

痛い。










「ああ、大石くん。あの馬鹿のことならノーコメントだけど何?」

取り付く島も無いな。
大石はそんなに、それでも親友のために食い下がった。

「英二もだいぶ反省してるみたいだしさ。そろそろ許してやってくれないか」
「お言葉ですが反省っていうのは自分の行動を悔い改めることであって、意味もわからず落ち込むことじゃないのよ」

確かにその通りである。
だが、菊丸自身はどれだけ考えても何が悪いのかわからないのだ。
これではいつまで経っても平行線を辿ることにしかならない。


「せめて何に怒ってるのかだけでもさ。これじゃ埒があかないだろ?」
「………」


大石の言葉には口を噤んだ。
だって、そろそろただの意地だけになってきている。
それは自分でもわかっている。
けれど、許せるものでは無かったのだ、彼の行動は。
せめて反省くらいして欲しい。
どうせ言っても行動を改めるなんてことはなさそうだけど。


迷っているらしいに、大石は何も言わずに待った。
大石は彼女の意地の強さも知っている。
ここで他人に何かを言われれば、たとえ許そうと思っていたとしてもそう言えなくなってしまうだろうことも。



しばらく視線を泳がせていただったが、ようやく視線を大石に合わせると、菊丸への伝言を頼んだ。













大石に言われて、部活途中だけど教室へと向かった。
が呼んでるって言われれば迷うことなんてなかった。
手塚のことはうまくごまかしてくれるらしい。
たとえごまかしがきかなかったとしても、が許してくれるならグラウンド50周だって走り抜ける自信もあった。



「えっと…、いる?」


ガラガラと扉を開ける。
話したいとずっと思っていたけれど、いざとなると面と向かい合うには勇気がいる。おそるおそる教室に入ると、は自分の席に座って何かを書いていた。
無言で頭を上げると、作業をやめて手招きした。
素直にそれに従って、俺はの前である自分の席に座った。




無言。


呼びつけておいて何も喋らないのはどうしたことだろう。
けど、怒られているのは俺の方なので、ただひたすらが何かを言い出すのを待った。



時計の秒針の音だけが響く。
部活をサボることを良しとしないがこんなことをするなんて、とても珍しいことだった。





「……ごめん」
「何が」


沈黙に耐えられなくなって、つい俺は先に口を開いてしまった。
とにかく、何なのかわからなくてもが怒っているなら俺は謝るべきだと思う。
だからそう言って頭を下げたのに、は俺を見るだけだった。


「理由」
「え?」
「何を謝ってるの?」
「いや、何かが怒ってるから謝るべきだろうと…」


そう言うと、は呆れた顔になった。
視線を逸らしてタメ息ついて。
ハァー、というそれを聞いて、俺はとても居づらかった。




「菊丸英二くん」
「ハイ」


改まって呼ばれて、緊張してピンと背筋を伸ばす。
身体測定の時だってここまではしないんじゃないかってくらい。
何を言われてもとにかく対応できるように俺は内心構えた。





「体調悪くて保健室で寝てる無抵抗の彼女に勝手にキスするような男は知りません」





え?


は……。










あああぁぁぁぁーーーーーっ!!










そうだ。
月曜日、は気分が悪いって言って保健室に行っていた。
大丈夫かなって様子を見に行ったらベッドで寝てて。
その寝顔があんまり可愛かったから……その、つい………。



「きっ、気づいてたの!?」
「気づく気づかない以前の問題。するにしても少しは周りを気になさい」


絶対寝てたと思ったのに。
いや、だからこそ怒ってるんだろうけど。



「半分くらい意識あったかなかったかってトコだったけど…。
問題は、センセーに見られてたのよ」




え?え?え?
ますますヤバイ。
ってか先生いたんだ?
うわ、すっかり頭に無かった。




「で、言い訳は?」
「………ありません」




弁解の余地も無い。
先生覗いてんなよー!いや、忘れてた俺が悪いんだけど。


シューンとうなだれた俺に、またも重いタメ息が吐き出された。
もうこれで何度目だよ。




はそういうの嫌いだから。
キスすることだってなかなか許してくれない。
それを他人に、それも教師に見られてたとなるとそう簡単には許してなんかもらえそうにない。







「……そんなにしたかったの?キス」
「だって、いっつもさせてくんないし」


黙ってしたのは悪かったと思う。
けど、いつも拒まれてばかりの俺の気持ちだって無視しないで欲しい。
俺はが好きで、だからそういうことしたいと思う。
なのにはそうじゃないって。そういうの、結構辛いんだけど。




「…せめて他人のいない時にして。頼むから」
「うん、ごめん」



そう言うと、はやっと許してくれたのか俺の頭をポンポンって叩いた。







「じゃーさ、今しよ?」
「は?」
「他人がいなかったらいいんでしょ?だから、今」



ふざけんなって言われるかと思ったのに、は顔赤くして俺を睨むと素直に体を預けてきた。


「え、あれ?ホントにいいの……?」
「……じゃ、ダメ」
「ウソウソ!したいです!」


俺が慌ててそう言うと、はしょうがないなと言う風に笑って俺を見上げた。
目を閉じてるの唇に、俺のそれを重ねる。
去年までは俺がかがむことも、が俺を見上げることも無かったけど、今はそうしないとできない。


俺たちは変わらないようで、それでも確かに時間は流れてるんだって証明でもあった。






。……大好き」






唇を離して抱きしめて。
耳元でそう言うと、は小さく「バカ」と呟いた。
顔は見えないけど、耳は真っ赤になっていた。





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  はーずーかーしーいー!
  なんで菊は書く度にこうも恥ずかしい話ばかりになってしまうのか。
  そしておバカでごめんなさい。
  菊丸英二の男らしさを求める方、更にすみません。
  ヒロイン強すぎだし。
  でも最後はおいしいトコどりな菊丸くんでした(笑)

                             ’02.5.31.up


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