聖なる誓い










クリスマスソングの流れる街を二人並んで歩く。

一応、恋人同士の二人。
青学テニス部一年レギュラー・越前リョーマと、同じくテニス部マネージャー の
付き合うようになってからも、その関係は今までと大差なかったが。
それでも越前は、事あるごとにが自分のものだと先輩たちに誇示していた。



先輩。今日何の日か知ってる?」
唐突に言われた問いには怪訝そうな顔をした。
当然だろう。
どこを見てもクリスマス一色。
今日は12月24日。
クリスマス・イブである。
これで他の答えを出せという方がどうかしている。

「何って、クリスマスでしょ」
何を今更と返された答えに、リョーマはやっぱりと言ってタメ息をついた。

「え、何?私間違ったこと言ってないよね?」
リョーマのリアクションを見てもまだ気づかない彼女にリョーマは「自分で考 えてみて」と言った。



だが。







「…………まだわかんないっスか?」

先ほどの質問から、ゆうに半時間。
は歩きながらずっと考え続けていたようだったが、全く答えを出せないで いた。

「うぅ〜〜。リョーマ、ヒント!ヒント頂戴。聞くってことはわかるはずのことな んでしょ」

………。
確かにそうなのだが。
しかしヒントをもらわなくてはわからないのか。
リョーマは諦めてヒントどころか答えを言った。






「誕生日っス。俺の」







その言葉には動きを止めた。



10秒。

30秒。



「えぇっ、マジで!!??」


フリーズ時間、およそ1分。


(本当に知らなかったんだな…)



その反応に、流石のリョーマと言えどもショックは隠しきれなかった。
仮にも彼氏の誕生日を本人に言われるまで気づかないものだろうか。
マネージャーならば知ろうと思えば簡単に調べられるだろうに。
そうでない女子からでさえ色々とプレゼントを渡されたぐらいだったので余 計にショックは大きかった。


「ゴメン、全然知らなかった。今日で13歳なんだね。おめでとう」
自分で言ってからそう言ってもらっても、嬉しくないわけではないがやはり 複雑である。

「ゴメンって、リョーマ。私が悪かった。お詫びに何でも言うこと聞いたげるか ら」
両手を前で合わせて必死に謝罪する
そうは言われても、怒っているというよりはショックの方が大きいのである。
ただでさえ逆年齢差を気にしていて、ようやく少しでも彼女に近づけるように なる日なのに、当の本人はコレなのだから。




「……何でも?」
「うん、何でも!」
必死にそう言うを見ていると、いつものいたずら心が湧いてきた。
いたずら、というか。
聞いてくれるというならこれを利用しない手はない。
ずっと心に引っかかっているあのことを。
そのことに気づかないは、「お姉さんに何でも言ってみなさい」と言ってい る。



「じゃあさ」
「うん」



ようやくリョーマの機嫌も直ると思って、その提案に乗ってきてくれとことを喜 ぶ
そしてリョーマが口にしたのは。



「年上ぶるのやめて。ガキ扱いするのも」


といういたく簡単な内容だった。




「…それだけ?」
「だけってワケじゃないけど…一番重要っス」

罰の悪い顔をして頬を薄く赤に染めて横を向いたリョーマが可愛くて、
彼を抱きしめた。
だがいつもはされるがままのリョーマが、今日はそのの腕を振り払った。
少し乱暴に。

「だから、そういうのが嫌なんスよ」

あと数年すれば解決する問題なのかもしれない。
だが、まだ13歳になったばかりのリョーマには、その日はまだまだ遠すぎ て。
大切なのは、今。
彼女の横に並んで、ちゃんと自分のものであると認められたい。
誰に認められなくても、少なくとも彼女自身には。

自分たちの周りには彼女の横に並んでも何ら見劣りしないどころか十二分 に似合う人たちが大勢いて。
しかもその人たちはこれ見よがしに自分の前で彼女と仲睦まじくする。
そんな風に彼らとが仲よさそうにしているのを見ると、自分が置いていか れているようで嫌だった。
に言えばそんなこと気にする必要はないと言うだろう。
だが、これは女にはわからない。
男として譲れない部分なのだ。



はしばし呆然とリョーマを見ていたが、すぐに笑顔になった。
「わかった。ごめんね、リョーマが気にしてるの気づかなくて」
そうやって、自分の望むことは大抵叶えてくれる
それが嬉しくもあり、年の差を感じて寂しくもあり。
だが、今は素直に喜ぼう。
差はこれから少しずつ縮めていけば良いのだから。




「それと、もう一つ」
「え、何?」

今度はクリスマスプレゼントの分、と言って、に耳を寄せるように手招きし た。
素直に耳をリョーマの口元に近づける。





「っ!?」




唇に、暖かな柔らかい感触。
それを感じたと思った時にはもう離されていた。


「リ、リョー…マ………今…」

真っ赤な顔で口を押さえるに、リョーマも赤くなりながら、それでも余裕 ぶって言った。



「メリークリスマス、









聖なる日に交わされた誓いの口付け

それは、彼らの仲を近づけたとか






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  12/24と言えばクリスマス・イブであると同時に
  リョーマの誕生日。
  これは書かねばと思って初の王子ドリー夢です。
  普通彼氏の誕生日を忘れるとも思いませんが、ソコは
  天然ということで(ヲイ)
  年上ヒロインってどうも書きにくいんですよね。
  今まで書いたのも、裕太の『策士たち』だけですし。
  あれに関しては周助さんを際立たせるためというだけであって…。
  リョーマもきっとこの頃には背も高くなっているのでしょうけど
  どうしてもそんなイメージが湧きません。
  ごめん、リョーマ。
  何はともあれハッピーバースデー・リョーマv

                        ’01.12.24.up


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