推 敲
唐の時代に賈島(かとう)という僧がいました。賈島は詩を作るのがとても上手でしたが、どういう文字を使うのがよいかいつも苦労していた人物(苦吟=くぎん)として有名でした。あるとき、賈島は当時の官吏(かんり)になるための国家試験で超難関だったという科挙(かきょ)の試験を受けるために、はるばる長安の都へやってきて、驢馬(ろば)に乗って街を散策しながら詩を作っていました。
鳥は宿る 池中の樹
僧は推す(おす) 月下の門
という一句を作り上げたのですが、「僧が門を推す」という表現よりも「僧が門を敲く(たたく)」という表現の方が良いかもしれないと迷いだして、賈島は手綱をとるのも忘れ門を押す動作や叩くまねをしながら進んでいました。あまりにも夢中になっていたので、行列がやってきたのにも気づかず、そのまま行列に突っ込んでしまいました。ついていないことにそれは都の長官の行列でしたから、処罰されることは間違いありません。そのまま捕らえられ、長官の前に連れて行かれたのです。
ところが幸いなことに、その時の長官は文筆家としても有名だった韓愈(かんゆ)でした。韓愈はなぜ無礼な事態になったのか賈島から事情を詳しく聞きました。そして話を聞き終わると、作品に興味を持った韓愈は「それならば、敲の字のほうがよいだろう。」と言いました。無礼を許されただけでなく、二人はそのまま打ち解けて、馬を並べたまま詩を論じながら進んだのです。こうして、天下一の長官として有名だった韓愈と単なる一詩人である賈島が交友を深めるようになったのです。のち、賈島は韓愈の門人(=弟子)となり、詩人として独立しました。
■詩や文章を作るのに、字句をいろいろ考えて念入りに直すこと。作文をしっかり練ること。
<例> もう一度はじめから推敲しなおすことにしました。