故事成語

虎穴に入らずんば虎子を得ず
 今から2000年以上も前の話です。中国の敦煌(とんこう)から西へ、砂漠の中を16日ほど進んだあたりにロプ=ノールという湖がありました。ロプ=ノールはタリム川末端にある内陸湖で、古代の中国人は、この湖の水が地中を通って黄河の水源になると信じていました。湖水の位置や様相がかなり変化して砂漠の中を移動するので、謎の湖として人々から“さまよえる湖”と呼ばれるようになった湖です。
 ロプ=ノールのほとりには楼蘭(ろうらん)という王国がありました。楼蘭王国はシルクロード東部の中心都市でした。世界中のいろいろな言葉が飛び交い、隊商宿の前には、ペルシアのじゅうたんや中国の絹が並べられ、夜になるとあちらこちらで酒宴が行なわれました。旅人たちは楼蘭人のあついもてなしで旅の疲れを癒していました。

 栄えていた楼蘭王国でしたが、匈奴(きょうど)に攻められて、紀元前176年にとうとう支配下におかれてしまいました。その後、漢の武帝が匈奴の討伐をはじめ、紀元前77年になると、今度は漢の属国にされてしまいました。
 ある時、漢の将軍である班超(はんちょう)が西国を巡回し、王国に立ち寄ることになりました。最初、班超たちは手厚くもてなされていましたが、ある日突然冷たい態度をとられるようになりました。不思議に思った班超が調べさせてみると、どうも匈奴からも使者がやってきているようでした。国王は漢と匈奴のどちらを味方にしたらよいか迷っているが、どうも大軍で来ている匈奴に気持ちがなびいているようだ、ということがわかりました。

 班超が部下に相談したところ、みんなが口をそろえて「将軍の判断にお任せいたします」というので、班超は決意を述べました。
 「虎が住んでいる穴(危険な場所、行為のたとえ)に入らなければ虎の子(大切なもの、めずらしいもの、貴重なもののたとえ)を手に入れることなどできない。夜のうちに、匈奴の使者がいる宿舎を焼き打ちにする以外、私たちに勝ち目はないと思う。私たちは少人数だが、相手は私たちの兵力がどれほどいるか知らないので、一気に攻めれば恐怖に襲われて混乱し、全滅させることができるはずだ。大軍である匈奴をやっつければ、迷っているこの国の王はわれわれ漢の力を恐れるようになるだろう。」

 班超たちは計画を実行して、匈奴の使者を全滅させることに成功した。どちらの臣下になるべきか迷っていた国王は漢への服従を誓うことになった、ということです。
■危険をおかさなければ大きな利益は得られない

<例> 思い切った投資をするのは、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だからです。