指揮の"聞こえない"と"時間遅れ"
2004.6.6 東山裕一
ベートーベンが自身作曲の交響曲第9番「合唱つき」を初演したときは、もう耳は完全に聞こえない状況でした。演奏者はベートーベンの指揮を見ずに、もう一人の代理指揮者を見て演奏しました。終わったときベートーベンは拍手さえ気づかず、促されて観客席の様子を振り返って初めて成功だったことを知ったという話は有名です。
1872年にアメリカ、ボストンでの国際大音楽祭が開かれ、ワルツ王ヨハンシュトラウスが「美しき青きドナウ」を指揮、演奏したときのことです。合唱とオーケストラの団員2万人という大演奏で、ヨハンの総指揮のほか、副指揮者が100人いました。聴衆は10万人規模だったそうです。
ステージの広さがどれほどだったかわかりませんが、1m2/人で計算すると(πr2=20,000を解いて)半径80mの円になります。音速は340m/秒ですから、端から端まで0.5秒近くの時間遅れがあったことになります。演奏する方も大変だったでしょうが(現にヨハンは「もはや芸術家ではなく、まとめ上げるだけの技術者だった」と言ったらしいです)、聞いている方もちゃんとした音楽に聞こえたかどうか疑問です。でも、とにかく大成功を収めたと伝えられています。
最近、インターネットを経由して世界をまたいで同時演奏しようという試みがあります。電信速度は音速に比べて比較にならないくらい早いですが、パケット交換遅延という違った問題がでてきます。でもうまく制御すれば、時間遅れがさほど気にならない程度に抑えられるのでしょう。面白い実験です。
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