「ユウマ、祐馬を語る」 (15万ヒットキリ番リクエスト)
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タイトル
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俺の名前は今「ユウマ」と呼ばれている。いくつか付けられた名前の中で一番気に入っていたのだが、ある人間と同じ名前だと知ってかなり不快に思っているが、仕方ないだろう。
「祐馬、明日のことなんだが……」
俺の最愛の人が俺ではない不快な人間に対して同じ名前を呼ぶ。すると祐馬がやってきてキッチンにある椅子に座った。
「明日……うん。あのでっかい公園に行くんだろう~朝からさあお弁当なんか作っちゃおうか……」
何がでっかい公園だあ?
また俺を一人にする気だな……
ニヤニヤと笑っているであろう祐馬に俺は思わずテーブルの下から爪を立ててやった。
「ぎゃーーーっ!!し、下に隠れてやがった!」
祐馬は絶叫した後、身体を沈ませて机の下に座っている俺を睨んできた。そんな祐馬に俺も負けじとにらみ返す。すると、祐馬は情けなくもすごすごと両足を椅子の上で正座させた。
ち……
最近は少し賢くなりやがった……
「お前が尻尾でも踏んだんじゃないのか?」
戸浪ちゃんはそう言ってやはり体勢を低くしてテーブルの下を覗き込んできた。その戸浪ちゃんに俺は猫なで声を出してすり寄った。すると戸浪ちゃんは俺を抱き上げ、頭を撫でてくれた。
心の優しい戸浪ちゃん……
俺をあの暗闇から救ってくれた。
あの駐車場で助けられた日から俺は戸浪ちゃんに心底惚れている。
「そいつの爪攻撃は何時になったら止むんだろ。俺もう両手両足傷だらけだよ……」
祐馬は溜息を付いてそう言った。
お前が嫌いって程じゃないんだけどな……
良い奴なのは分かる。
あの駐車場では助けて貰ったし……
何より祐馬はどんなことがあっても俺を殴ったりしない。
鍋の蓋等使い防衛はするけど……
それで殴ったりしないのは褒めてやろう。
だから最近少しは手加減してる。
だけど……
お前は俺のライバルなんだっ!
ジロリと祐馬を更に睨み付け、うう~と言う声で威嚇した。すると祐馬は肩をすくめた。
何よりどうしてこういう軟弱な祐馬を戸浪ちゃんが選んだのか俺には全く理解できない。
情けないし……
いつも戸浪ちゃんに怒られてるし……
それに対して全く言い返せないみたいだし……
度胸もないし……
とにかく、男としてないないずくめのこの祐馬を見ていると、同じ名前をもつ男として本当に俺は情けない。
「やっぱり止めた方がいいよ戸浪ちゃん。こんな奴ちっとも頼りにならないって……」
俺は戸浪ちゃんに向かってそう言ったが、当然人間である戸浪ちゃんに俺の言葉など通じない。
「どうしたユウマ?餌でも欲しいのか?」
俺の言っている言葉が分からない戸浪ちゃんはそう言って俺を餌の皿の前に下ろした。
何故俺が猫なのか……
この不幸をどう嘆けば良いのか俺も分からない。
俺が人間だったら、このへなちょこ祐馬を蹴散らし、俺は戸浪ちゃんを自分の恋人にしていた。
「明日はさあ、そいつも公園に連れていってやろうよ。ユウマもマンションの中から外に出られないの可哀想じゃん……」
「そうだな……ユウマもたまには外に出たいだろうしな……」
言って戸浪ちゃんは俺の背中を撫でてくれた。
だが俺はその仕草より祐馬の提案の方に驚いていたのだ。
え?
祐馬いいのか?
お前何時からそんな俺に優しくなったんだ?
まあ、基本的に祐馬は俺を可愛がってくれている。爪を立てた時は流石に叫んで俺を怒鳴りつけるが、俺のことを心底嫌いではない事をよく分かっている。
分かっているのだが、祐馬は俺を抜きにしてよく戸浪ちゃんと二人きりになろうと画策するのだ。
確かに俺がいるとイチャコラ出来ないのだろうが、俺はそれが不満だった。俺には家族の一員だなんて言いながら、時に俺をのけ者にするその根性が許せなかったのだ。
だが……
明日は外に連れて行って貰える……
俺は久しぶりのお出かけにしばし心が何処か遠くに飛んでいた。
元々俺は野良で、外で過ごすことが多かった所為か、緑に満ちあふれた公園がとても好きだった。
雨上がりの後に香る草の新鮮な匂いは思い出すと堪らない。
雨の日は軒下でしのぎ、時には建物の下に入り込んで身体を休めてきた。辛いことも沢山があったが、楽しいこともあったのだ。
まあ……
今はここに住んでるけど……
チラリと祐馬を見ると、テーブルに頬杖を付き嬉しそうにニコニコしていた。
仕方ないな……
今晩は大人しくして置いてやるか……
なんて思いながら俺の気持ちはまた緑の公園に向けられていた。
「なあ……なんか……あいつ……不気味なほど静かなんだけど……」
寝室の端に戸浪ちゃんによってあつらえて貰った、俺専用のベットに丸くなっていると、祐馬がそう言う声が聞こえた。
今日は大人しくしてやろうと思ってるんだよ……
俺はそう思いながら、丸い籐のかごに敷かれている柔らかい毛布に再度丸くなった。
「疲れて居るんだろう?」
戸浪ちゃんはそう言って俺の方などチラリとも見ずにそう言った。
ベットの上では戸浪ちゃんの視線はあのすっとこどっこいから離れない。
あんな男でも好きなんだよな……
人の趣味にとやかく言う気はないがやはりいい気分がしないのは俺が戸浪ちゃんに惚れているからだ。そうであるから毎度俺は二人の間に割って入るのだが、まあ……今晩は大人しくして置いてやろうとしていた。
今晩俺が邪魔をすると、明日置いてけぼりを食らいそうだったからだ。
だが習慣になっていることを我慢するというのは結構辛いかもしれない……
俺はそんな事を考えながら、チラと祐馬の方を顔も上げずに見ると、「げ」という表情になった。
なんだよその顔は……
邪魔しないって言ってるだろ……
俺はそれを分かって貰うために薄く開けた目を閉じた。
「祐馬……」
戸浪ちゃんが精一杯の誘い声を出しているのが俺には分かった。
どうも戸浪ちゃんは誘うのが下手だ……
いや……
あのぼんくら祐馬がムードを作るのが下手なのがそもそもの問題なのだと思う。
俺がムードの作り方を教えてやろうかと言うほど祐馬はムード作りが下手なのだ。
不器用なんだろうな……
全く……
なんて思っていると、戸浪ちゃんのうわずった声が聞こえた。
……
気に入らないな……
我慢我慢……
更に俺は丸くなって、眠ろうと努めた。
「あ……そこは……嫌だっ……あ……」
ぴくり……
嫌だってえええ……
「嘘……戸浪ちゃんここ好きだろ?」
言って祐馬はくすくすと笑う。
「嫌だ……や……あっ……」
嫌だと言ってるだろうーーー!
どうして嫌だなんて言わせるんだーー!
俺はだんだん腹が立ってきた。
だがまだもう少し我慢することにした。
今日は大人しくするんだ……
「……あ……ああ……祐馬……あ……」
なんて艶っぽい戸浪ちゃんの声なんだろう……
俺はその戸浪ちゃんの声に思わず耳をそばだててしまった。
「戸浪ちゃん……好きだよ……」
お前の声なんか俺は聞きたくないんだよ……
たく……もう……
「祐馬……祐馬あ……」
言って戸浪ちゃんが必死に祐馬に抱きついているのは見なくても分かる。
好きなんだなあ……
あんなぼけでも……
俺には分からない……
恋すると相手が見えなくなると言うのは本当の事なのだろう……
溜息しか出ない……
はあ……
「ひっ……あ……だ……駄目だっ……そんな奥まで……あっ……いや……」
びっくーーん!
俺は尻尾が今度立ってしまった。
駄目だとか嫌だとか言わせるなと俺は言ってるんだーーー!
戸浪ちゃんが嫌がってるだろうっ!
「戸浪ちゃんホントは悦んでるの俺分かってるから……」
祐馬はそう言ってやはり嬉しそうだった。
お前はサドかっ!
それとも戸浪ちゃんがマゾなのか?
いやいや、あれは嫌がっているぞ。
嫌だという事を好きな相手にするなーーー!
俺はとうとう立ち上がり、二人が抱き合っているベットにひょいと身体を踊らせた。
このぼけがーーーー!
がぶりっ!
「ぎゃーーーっ!け……尻に噛みついたーーー!!」
「あああっ……ゆ……祐馬っ……あ……そ、そんな奥まで入れるなっ……駄目だ……も……すごすぎる……っ……」
なんだ……
何だか戸浪ちゃんすっごい悦んでる……?
祐馬の背中に乗り組み敷かれている戸浪ちゃんの顔を覗くと、これでもかという程うっとりした顔をしていた。
……
なんか俺……
煽ってる??
よく分からないけど……
俺が噛んだから良かったのか?
「せっ……背中に乗るなーーー!!」
祐馬は俺を落とそうと身体を揺するのだが、そんなものに振り落とされる俺じゃない。思わず爪を立てて、俺は必死に祐馬の背中にしがみついた。
「あいったーーーー!いてえええっ!」
「ひっ……あっ……祐馬っ……よせ……もっ……それ以上っ……だ、駄目だっ……」
更に下にいる戸浪ちゃんが言葉とは逆に悦んでいるのが俺にも分かった。
……
何で悦ぶんだろ????
駄目とか良いながら変だな……
分からないな……
俺がちょっかいかけるとすっごい悦んでないか?
実は俺も少しは貢献してるとかいう??
何だか俺はよく分からなかったが、一晩中祐馬の背に乗り、サーフィン宜しく爪を立てては囓ってやった。その度に戸浪ちゃんが悦んでいたのを俺は上から満足げに覗き込んでいた。
翌日……
貢献した俺は、ちゃんと公園に連れて行って貰った。
当然だな……
俺は良いことをしたような気がするんだからな。
朝起きて怒鳴られることも無かった。普段二人の邪魔をすると、翌日祐馬にこれでもかと言うほど怒られるのだ。だが本日それはなかったのはきっと俺がしたことが良いことだったからだろう。
二人とも何だかボーっとしているのはまあ置いて置いて、俺は自分が良いことをしたと何だかとても満たされていた。
公園に着くと、二人は人気のない奥に向かった。そうして、木立を抜けた奥に着くと戸浪ちゃんはやはりボーっとした顔で地面にシートを敷いた。そうしてそこに座ると、ようやく俺をかごから出してくれた。
にゃ~
嬉しくて俺は戸浪ちゃんに猫なで声ですり寄ると、視線が定まらないまま戸浪ちゃんは俺を撫でてくれた。その横に祐馬が仰向けに寝ころぶ。祐馬もやっぱりぼんやりしていた。
何だか……
気味悪い……
二人とも魂が抜けてるぞ……
祐馬と戸浪ちゃんを交互に見て俺はそんな風に思った。
……
まあ……
いいか……
二人がぼんやりしているのと良いことに、俺は辺りを散策することにした。久しぶりの緑はとても心が安まる。
天気は快晴で、辺りは和やかな風が凪いでいる。
ああ……気持ち良い……
野良だった時を思い出しながら俺は草むらを歩いた。すると突然目の前に赤いフリスビーが飛んできた。俺は驚きながらも素早くそのフリスビーを避けた。
ざざっ!
フリスビーの次に草を割って飛び込んできたのは、何処かで見た大きな犬だった。
「あっ……君はっ!」
その毛足の長い、どう見ても手入れが大変そうな犬は俺を見て驚いた顔をした。
「……ああん?あんた誰だっけ?」
俺はその大きな犬にそう聞くと、犬は言った。
「ほら、覚えていないかい?以前動物病院で会った筈だよ」
そう言えば……
恥ずかしい俺を見られた記憶が……
「あっ!アルだっ!」
「そうだよ。覚えていてくれたんだね。こんにちはユウマくん」
何故かその犬はそう言って頬を赤らめている。
何が恥ずかしいんだ?
へんてこな犬だ……
「何やってるんだ?そいつは何だ?」
赤いフリスビーを見ながら俺はアルにそう言った。
「これはフリスビーと言って、これをご主人様が投げてくれるんだよ。それを私は口でキャッチする遊びなんだ」
ニッコリ笑いながらアルはそう言った。
「ご主人様?」
チラリとアルがやってきた方向を見ると、男性二人が仲良さそうに何やら雑談していた。
「……ふうん……あっちも男同士か……」
最近はどうなってるんだろうなあ……
男同士のカップルが増えた……
でも……あの男は何だか変だ……
「背の高い男の隣にいるあの、可愛らしい感じの男……何だか変だぞ……。妙な雰囲気が漂ってる……」
じいっとその妙な男を見ながら俺はそう言った。
「あ、トシのことだね。トシは身体にもう一人入ってるから……」
と自分だけ分かったようにアルはそう言ったのだが、俺には分からなかった。
まあいい……
人のことは……
「ふうん。でもあいつらも男同士のカップルみたいだな……」
「あいつらもって……君の所もそうなのかい?」
アルは首をやや横に傾けてそう言った。
「そうだよ。苦労するよ……」
俺は溜息を付いてそう言った。
「私は苦労はしていないな……まあ……夜はちょっと辛いが……」
そう言ってアルは笑った。
夜が辛い……
同じ悩みを持ってるんだ……
「俺も辛い!同じなんだな……」
何故か同士を見つけたような気がした俺は嬉しくなって、滅多にそんな事はしないのだが、アルに自分の苦労話を聞かせてしまった。
「……君……」
俺の話を聞き終えたアルは困惑したような表情で言った。
何かまずいことでも言ったのだろうか?
「なんだよ……」
「邪魔をしたら駄目だ……」
「俺は邪魔をしているつもりなんか無いけどな。仕方ないだろっ!俺の大事な戸浪ちゃんをあいつは苛めてるんだから……」
俺はムッとしてそう言った。
好きな相手に嫌だと言わせる祐馬に腹が立つのだ。
邪魔等しているはずもない。
「その……嫌といってるのは……上辺だけであれは悦んで居るんだ。人間っておかしな生き物で、心とは正反対のことを言うことがあるんだ。特に……、夜にセックスしてるときに多い」
セックス?
あれが?
あんな風に泣かせるのがセックスなのか?
俺には経験が無いだけに分からなかった。
まだ発情期を迎えていないのも、分からない理由なのだろう。
「……じゃ……じゃあさ、あれが人間のセックスか?」
やや慌てた風に俺はそうアルに言った。するとアルは目を細めて楽しそうに言った。
「そうだよ。だから、邪魔したら駄目なんだ。ちょっと耳には五月蠅いのが困りものなんだが……」
アルは苦笑しながらそう言った。
じゃあ……
俺は……
セックスの邪魔をしていたのかっ!?
かあああっと顔を赤らめた俺はもう恥ずかしさの余り穴があったら入りたいほどだった。
「知らなかったんだね……」
くすくすと笑いながらアルはそう言った。だが俺は馬鹿にされたような気がした。
「う、五月蠅いっ!し、知ってたよ!」
俺はそう言ったが、アルは相変わらず笑っていた。
むかつく!
「君は本当に可愛いね……」
アルはそう言って突然俺にすり寄ってきた。長い鼻が俺の首筋を撫でる。
ぞぞぞぞ……
なんだこいつっ!
「なにすんだよっ!」
長い鼻先から逃れた俺はそう言って毛を逆立てた。
「……いや……悪かったよ……」
済まなさそうにアルはそう言って肩を落とした。
妙な犬だ……
一体何だって言うんだ……
「実は……私は……」
アルは何か思い詰めたような顔で俺を見る。
何だかこいつやばいぞ……
と、思っているとアルの飼い主の声が聞こえた。
「アル~何してるの?」
可愛らしいけど奇妙な男がそう言ってこちらを覗き込んでいた。
「お前のご主人の恋人が呼んでるぞ……」
俺はそう言って逆立てた毛を元に戻した。するとアルは何か言いたげな顔を向け、次に可愛らしい男を見上げた。
「駄目だよアル、子猫ちゃんを苛めたら……ほら、行こう。恭眞が呼んでるよ」
可愛らしい男はそう言ってアルの頭を撫でた。アルの方は俺をチラリと見て、きびすを返すと、可愛らしい男と一緒に行ってしまった。
なんだいあいつ……
気持ち悪い……
なんか言いたそうだったけど……
実は……なんだったんだ?
そんな事を思いながら俺は、戸浪ちゃんのいる場所に戻った。すると二人は何やら会話をしていた。俺はすぐに二人の側には近寄らず、何を話しているかこっそり聞くことにした。
くだらない俺の悪口を言っていたらまた噛みついてやる……
そう思っていたのだが……
「んな……何か俺……昨日……すんげー良かったんだけど……」
ぽつりと祐馬は言った。その祐馬はいつの間にか戸浪ちゃんに膝枕されていた。
「……ま……まあな……うん……そうだな……」
こほと小さく咳払いして戸浪ちゃんは真っ赤になった顔でそう言った。
「……俺……噛まれたり、背中引っかかれたけど……でも……まあ……その……」
言いにくそうに祐馬はそう言う。
「……うん……痛かっただろうな……」
戸浪ちゃんはそう言って、祐馬の背中を撫でている。
「毎日は……嫌だけど……まあ…なんていうか……」
今度はもじもじとしだした祐馬だった。
「……そうだな……」
ぐがーーー
どうしてこの二人ははっきり何がどうなのか言わないんだ~
でも……
なんだか……
幸せそうじゃないか……
急に俺は疎外感を感じてしまった。
実は俺……
邪魔なのかな……
アルも言ってたよな……
邪魔したら駄目って……
俺は……
二人にとっていつも邪魔なんだろうか……
急に俺はそんな気持ちに捕らわれた。
普通はマンションで猫は飼えない事を俺は知っていた。確かにあのマンションはペットオッケーらしいが本当に良いのだろうか?
実は俺は……
二人にとって邪魔以外何者でも無いのかもしれない……
そんな事を考えて落ち込んでいると、俺に気が付いた祐馬が叫んだ。
「あっ……帰ってきた。ユウマっ!おいで~も、そろそろしたらお昼だぞ」
戸浪ちゃんの膝から頭を起こし、祐馬はそう言って俺に向かって手を振った。
俺……いいのか?
一緒にいてもいいのか?
邪魔じゃないのか?
俺はその考えを振り払うことが出来ずに、その場から動けなかった。
「んも……何やってるんだよ……」
動かない俺に業を煮やした祐馬が立ち上がり、脱いだ靴を履くとこちらに近寄ってきた。
「お前帰ってこなかったら、探しに行くとこだったんだからな」
言って祐馬は俺を抱き上げた。
いつもは反抗する俺だが、本日は大人しくしていた。
「あ、こいつ今日はすっげー大人しいぞ……」
嬉しそうにそう言って祐馬は戸浪ちゃんの所に戻り、俺を戸浪ちゃんの膝に乗せてくれた。
複雑だった。
「ユウマ……心配したんだからね……」
そう言って戸浪ちゃんは俺が惚れた笑顔を向けて頭を撫でてくれた。
「お前の分もお弁当持ってきたんだからな……。煮干しと……ハム……ほらお前ハム好きだろ。それと……一応キャットフードも持ってきた。どれ食べてもいいぞ~」
祐馬はバスケットからまず俺の食べ物を紙皿に入れてくれた。
実は俺……
すごい幸せなのかもしれない……
じいんと来た俺はそんな風に思った。
俺は可愛がられている……
多分……
ここに幸せがあるのだ。
俺は孤独じゃない。
こんなに大事にされている。
嫌なことも一杯あった。
人間にいたずら半分に背中も切られた。
だから人間が嫌いだった。
だけど……
この二人は別だ……
俺……
この二人に出会えて良かったと思う……
涙が出そうになるのを俺は必死に堪え、それを誤魔化すようにハムを囓った。すると祐馬が俺の耳にそっと囁いた。
たまには、また頼むな……
俺にはその意味が不明だった。
邪魔されたいのだろうか?
アルはそれをしたら駄目だと言ってたけど……
また……アルに会えたら聞いてみよう……
そんな風に思いつつ、俺はハムをひたすら食べることにした。
―完―
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ちなさまからいただいたリクエスト作品です。いかがでしたでしょうか? ふふ。ちょっぴり切ない感じに仕上がってしまいましたが……。なんだかこれ、アルサイドの作品も一つ作りたいですね。また記念に何処かつっこみましょうか? ふふ。こちらも結構長くなってしまいましたが……楽しんでいただけましたか? なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね! |