Angel Sugar

「初めまして大作戦・その後……」 (感謝企画)

タイトル
 どうしてこんな状況になったのか恭夜は考えてみる。
 何で俺だけここに置いてけぼり食ってんだ?
 俺が先に帰ろうとして……
 池にはまって……
 グルグルと考えているのだが、ジャックにあれよというまに服を脱がされて、今は素っ裸で敷き布団の上に座っている。
 寒いなあ……
 そろそろと、恭夜は毛布を引き寄せて膝にかけた。まだ濡れている髪が肩にしずくを落として冷えて仕方ないのだ。だからといって、身体全身を隠してしまうと、ジャックに何をされるかわからない。
 恭夜が自分の裸を隠すことをことのほかジャックは嫌うのだ。
 うう……
 やっぱやるつもりなんだろうか……
 問題の男の方を見ると、ついたてに引っかけた浴衣を選んでいる。多分、どれが恭夜に似合うのか考えているのだろうが、その様子は酷く怪しい。
「えーと……帰ろう。ジャック……」
「ん?何を言ってるんだ。これからだろう」
 言いながらピンクの浴衣を持ってこちらにやってきた。絣縞と呼ばれる模様で全体は薄いピンクなのだが、筋になっているところが濃いピンク。横に細かい金糸が縫い込んである。
「……あのさあ、そういうの、俺に似合うとマジでおもってんのか?」
 はあ……と、ため息をついて恭夜は言った。浴衣というのは女性が着て初めて絵になるものであり、当然恭夜の事ではない。
「嫌なら、本来目的にしていた着物も用意してあるが?」
「……げ。着物って……よせよ……」
「あれはな。着付けというのが理解できずに断念したんだが、次回までにきちんと習いに行くつもりだ。日本の文化はあなどれん」
 意味不明だ。
「な……な……あんたが着付け?よせよ……止めろよ……気持ち悪い……」
 想像すら出来ない。
「国の文化というのはとても大切なんだよキョウ……。私の仕事もそれに大きく左右されるからね」
 優しげな口調で言い、ジャックは恭夜の肩に浴衣を羽織らせた。
 しかし、ネゴシェイターの仕事と、恭夜が浴衣を着ることがどう繋がるのかよく分からない。かといってそれを言ったところで、どうせ意味不明な己の都合だけの理屈をジャックは並べるに違いないのだ。
「……着るだけなら着てやるけどさあ……。あんたって……なんて言うか……」
 逆らわずに恭夜は言い、自分の前で袂を重ね合わせているジャックの方を見る。本人は至極嬉しそうだ。
「何だ。赤じゃないな。まあ……ピンクでも良いか」
 どこからともなく出したマイ色見本を見ながらジャックは顎を撫でていた。
 それにしても本気で似合うとこの男は考えているのか、恭夜には分からない。しかし、当人はにこにことして嬉しそうな所を見ると、気に入らない訳ではなさそうだ。
「ジャック……なあ、もう止めようって……俺、着ただろ?それでっ……あたたたた」
 いきなり帯をギュウッと絞り上げられて恭夜は声を上げた。
「なんだ。お前は腰が太いな」
「あ……あのなあ、俺は女じゃないからくびれてる訳ねえだろっ!太ってる訳じゃねえっ!」
 恭夜は衣服を買いに行くとき、既製品が合わないという事がない。もちろん丈が短いことはあったが、ジーンズを選ぶときにも困ったことはない。このことで自分の体型は標準であるのだとある意味自慢だった。
 それが太いと言われるとなんだか腹が立つ。ウエストだけで言うと、どう考えてもジャックの方が太いはずだ。
「男がくびれているのも怖いな」
 真面目な顔でジャックは言い、懐から一枚の紙を取り出した。一体ジャックの懐にはどれだけのものが隠されているのか恭夜は興味がわいたが、確かめようと言う気は起こらなかった。
「こんな感じにしたい」
 差し出された紙を恐る恐る手に取り、恭夜はそこに書かれているものを見た。それは紙ではなく、一枚の絵だった。
 薄暗がりの中、あんどんの光のみで浮かび上がっているのは丸髷を結った女性だ。着物を着崩して肩をだし、敷き布団に身体を伸ばしている。上半身は起こされて片足はやはり裾から見せているのだが、酷く色っぽい。手にもった扇子がどこか気怠げだった。
「……ていうか、俺でこれを再現しようと思っても無駄だと思うけど」
 裾から見える太股が妙に気になる。
 恭夜はもちろん、男性しか興味はないが、こういう姿に少々ドキドキしてしまうのは男の本能なのかもしれない。
 じっと絵を見つめていると、ジャックによって絵が奪われた。
「なんだ。女がそれほど良いのか?」
 くしゃくしゃと絵を丸めてジャックは不機嫌そうに言った。
「え、あ……別にそう言う訳じゃねえけど、あんただってこういうの見たらちょっとドキドキしないか?」
「しないね」
 きっぱりと言ったジャックは機嫌を傾かせている。あまり良い傾向ではない。ここは一つおだてておかなければ何をされるか分かったものではないと判断した恭夜はジャックが喜びそうな事を言おうと考えた。
 しかし当然のごとく出てこない。恭夜には苦手なことだったのだ。
「え……と……あのさあ……」
「私がすれば、ハニーはドキドキするのか?」
 ……
 はあ?
「……何言ってるんだよ?」
「私だって、ハニーにドキドキされたいね」
 そんなことを仁王立ちで言うものなのだろうか?
「ていうか、あ……あんた、以前やったエプロンみたいな事はよせよ。俺、俺は嫌だ」
 想像するだけで怖い。
 しかもジャックは冗談を言わない男だ。やると言えばやるし、興味のあることは自分がどう見られているのかも分からずにやらかしてしまう男なのだから、ある意味最強なのだ。
 恥という言葉がジャックの辞書には無いに違いない。
「……そうか。嫌なら止めておくか。だがキョウにはチャレンジしてもらう」
 ようやく機嫌が戻ったジャックはまた嬉しそうにしていた。
「いいけどな……もうさ……」
 ジャックの変化を見せられるより良いだろうと恭夜は思ったのだ。
「後は扇子とカツラか」
 ……はい?
 カツラ?
「……おい、そ……そこまでやるのかよ?」
「私はどういう事でもとことんやらないと済まない性格でね」
 それは知ってるけど……
 ああもううう……
「ほら、被って見ろ」
 またどこからともなく出してくる丸髷のカツラを手に持たされて、恭夜はゾッとしながらも、とりあえず頭に被ってみた。自分で自分の姿が見られないことをこれほど感謝した日は無いだろう。
「……どうなんだよ」
 じいっとジャックの様子を窺っていると、向こうもこちらを凝視して一言言った。
「似合わんな」
 クスリとも笑わずに言われると、逆に恭夜の羞恥心は一気に身体を覆う。思わずカツラを脱いで床に叩き付けた。
「分かってることをさせてんのあんただろっ!いい加減にしろよ!」
「なんだって?」
 ジロリと冷たい視線を飛ばされて、恭夜は顔を逸らせた。怒らせると多分この世界で誰よりも怖い相手だと言うことを知っているからだ。
「別に……」
「扇子はどうした?」
「なあ……もう帰ろうって……俺帰りたいよ」
「扇子だ」
「……ったくもう……」
 恭夜は扇子を持ってとりあえず敷き布団に座る。だが無理矢理肩を掴まれて敷き布団に押さえつけられると、浴衣の裾をはだけさせられ片足を露わにされた。
「……うがああ……いてえっ!」
「叫ぶな。全く。どうしてこう、ハニーには遊び心がないんだ」
 あそび……
 心ってなんだ~!
 ばたばたと足を交互に動かしていると、太股とパシッと叩かれた。
「うう……」
 結局絵のようなポーズを取らされて恭夜は敷き布団に横になったが、これっぽっちも嬉しくなかった。それよりも益々ここから逃げ出したくなる。
「イメージが違う」
 こちらを見ながらジャックは面白くなさそうに言う。
「ならもういいだろ?」
 ぽいっと扇子を放り投げ、恭夜は身体を起こして立ち上がると、ジャックが側に近寄り身体をギュッと抱きしめてきた。
「……なんだよ……」
 顔を上げるとジャックはニヤリと笑って、いきなり帯を引っ張った。その勢いで恭夜は床に叩き付けられるように転がった。
「いってえええええっ!何するんだよっ!」
 しこたま顔面を打ち付けて、鼻を押さえながら恭夜が立ち上がるとジャックは言った。
「上手く回らんな」
 っておまえ……
 普通回らないんだっての。
「あ~の~な~!あんたが何見てどうしたいのか俺はわからねえけど、駒じゃねえんだから、帯引っ張ったからって回るわけねえだろっ!普通に考えても分かるはずだぜっ!」
「……見た映画ではもっとこう、くるくるっと回っていたんだが……」
 役者が演技してるって普通は考えるよな? 
「あれは演技だろ?」
「どうしてキョウは演技をしない?」
「はあああ?俺に回れって言うのか?」
「普通は回るんだろうが」
 怒っていた。
「回らないっての。ていうか、こういう事を実際にやるのはあんただけだよっ!普通は映画で見たからって実演はしねえの」
「日本人はチャレンジ精神が無いな。面白みのない国民だ」
 やはり真剣に言う。
「なんだそりゃ?」
 畳間に座り込んで恭夜は唖然となった。いつものことだが、本日はいつにもましてジャックが分からない。すると、解いた帯をまたいそいそと恭夜の腰に巻き付けてくる。まだ納得していないのだ。
「もーーよせって」
 ぐいぐいとジャックの肩を押してみるものの、止めようという気配が全くない。
「なんなら、私がお手本を示してやろうか?」
 冗談ではなく本気で言うジャックの恭夜は慌てていった。
「いい。嫌だ。みたかねえっ!よせよ。マジでやるなよ?俺にも拒否権があるだろ?な、ぜってー嫌だからな」
 ジャックが回る姿を見て恐ろしいのは恭夜だ。普通誰であっても見たくないはずだ。もちろん映画やドラマなどでやられるのは別に構わないが、ジャックは男で、見てみたいという好奇心すら沸かない相手だった。
 しかも、恭夜とてやってみたい、それを見せてみたいと思わないのだから、やらせたい、見てみたいと思うジャックの方が変だろう。 
「……随分と嫌がるんだな」
「あんた……あんたな。恥ずかしいとか、感じねえか?普通は強要されても絶対嫌だと思うぜ」
「日本人はどうしてこう、食わず嫌いなんだ」
 って……
 そこでどうして食わず嫌いが出てくる?
 あれは、嫌いだと思っていたものを食べて、意外にいけるじゃ~んと言うときに使う言葉だろう?と、もう、反論する言葉も出てこない恭夜は口をぱくぱくさせてあっけにとられていた。
「回れ」
 きつい視線と共に言われて、恭夜は涙を堪えて、とりあえず回ってみた。二人きりなのだから恥も外聞も投げ捨ててしまえばいいのだ。
「ハニーは不自然に回るんだな。ピポットターンでもやってるつもりか?」
「ピポットターンってなんだーーーー!」
「なんだ。ダンスの基礎もしらんのか?」
 知識があるのか無いのか分からないジャックだった。
「……あああああもうううう……訳が分からないぞっ!」
 ぜえぜえと息を切らしながらまた座り込むとジャックが言う。
「飽きた」
 ……
 散々、俺を回して置いて、それか?
 ぐううっとこみ上げる怒りが恭夜にはあるのだが、ジャックにぶつけるとそのままこちらに返って来るために当然口から出せない。
「もういいよな?俺、帰りたい」
「帰る?何を言ってるんだ。これからだろうが」
 がばっとのし掛かってくるジャックはようやく機嫌を戻した表情でそう言った。しかしもう、恭夜にはそんな気はさらさら無い。
「俺がもう、その気がなくなっちゃったって……」
「ハニーにはいつもそんな気などこれっぽっちもないだろう。一番好きなくせに、本当に恥ずかしがり屋さんだ」
 はだけた胸元に手を置き、なで回しながら言う。
「……ジャック……も、帰ろうって……っ……あ……」
 グリッと胸の尖りを潰されて恭夜は思わず声を上げた。こうなると、行くところまで行くしか帰らないのがジャックという男だろう。
「……キョウ……」
 耳元で甘く囁かれて、身体がじんわりと体温を上げる。ジャックの声はそれだけで凶器なのだと恭夜が思うほど、簡単に翻弄されてしまうのだ。
「……帰りたい……っん」
 口元を掬われて恭夜は目を閉じた。すると胸元を彷徨っていたジャックの手が腹に移動し、そこで暫く動いていたかと思うと、次に茂みの方へ滑っていった。
「……っあ……」
 まだ力のないモノを緩やかに揉み上げられて恭夜は口元を自ら離して喘ぐように唇を震わせた。断続的にやってくる快感はそのまま恭夜の欲望を煽り、己のモノを立ち上げていく。そんな恭夜の雄を楽しそうに手の中でジャックは弄んでいた。
「キョウをその気にさせるのは簡単だな」
 含み笑いに似た声を出し、ジャックは頬や額にキスを落としてくる。
 そう。
 簡単なことだ。
 恭夜は素直になれないが、身体は素直なのだ。自分でも信じられないが、これほど気持ちと身体が相反するのも珍しいだろう。
 いや、心の底ではジャックを愛しているのだから心が伴っていない訳ではない。ただ、素直に態度や言葉に表せないだけ。
「……ジャック……っあ……」
 そろそろとジャックに手を回し、力を入れると、ジャックは笑みを浮かべた。
「可愛い私のハニー……」
 首筋から鎖骨にかけて愛撫し、鳩尾部分をしつこく攻めたてた。
 そこには毎晩の行為によって付けられた印は薄れることなく恭夜の身体に浮き上がっていて、当然、薄れる前に新しい印をつけられている。 
 ジャックはどうしても恭夜に自分の証を刻み込んでおきたい様なのだ。だからしつこく身体を愛撫してくる。毎晩良くも飽きないものだと思うが、そのたびに限界まで喘がされている自分自身を知っているためにあまり文句が言えないところが恭夜には辛いところだった。
「……っく……」
 急に窄んだ部分に指を突き入れられて恭夜は身体を仰け反らせた。
「濡らすものが無いな……」
 世間話のように言い、それでも指を抜くことなくジャックは内部をかき混ぜる。これでは痛みしか感じない。
「……痛いよ……ジャック……あっ……」
 恭夜が言うといきなり身体を裏返しにされて敷き布団に顔をぶつけるように俯きになった。抗議の声を上げようとしたが、露わになっているであろう部分に口づけられて息が詰まった。
「……う……あ……」
「わがままな恋人を持つと苦労する。まあ、それも可愛いんだが……」
 言いながらジャックは先程まで指を突き入れていた部分を舌で丁寧に舐め上げてきた。窄んだ襞の一つ一つを舌先で捉えては唾液で濡らす。
 想像するだけで堪らない快感が恭夜の身体を覆った。
「あ……い……嫌だ……」
 両手で顔をかくし、羞恥心に耐える。明るい場所でやるのはとても勇気がいるのだ。例え二人きりであっても恥ずかしい。
「ここが気持ちいいはずだぞ?ん?」
 舌を使いながら、更には手を使って恭夜の前を攻める。敏感な部分は触れられるだけでも感じるのだ。
「ちが……あっ……」
 声はやはり素直に認めようとしない。しかし、身体が既にジャックの手で翻弄されているのだからあまり説得力はないだろう。
「……あ……」
 響き渡る粘着質な音が堪らなく恥ずかしい。もうどうにかなってしまいそうなほどだ。いつだってジャックは恭夜の身体を快感で埋め尽くしてしまうのだ。
「キョウ……私ももう限界だよ……」
 言ってジャックは背から身体を重ね合わせてきた。すると背にはいつも感じることがないさらりとした羽織が擦れる。
「……ジャック……服……」
「脱ぐのも煩わしい……」
 いきなり突き入れられて恭夜は言葉が継げなかった。まだそれほど濡らされていない場所は擦れて痛みが走る。それでも尚感じる快感は身体を伝わっていた。
「……はっ……あ……っ……」
 シーツを掴む手がピリピリとした刺激に震える。
「こういうのも良いだろう?」
 数度深く突き入れられて、恭夜は頭が真っ白になりそうだった。痛みも快感も吹っ飛んでしまった様な感覚だ。
「……あっ……ああ……」
「そうだ……」
 ジャックは最中に良くしゃべる男だった。
「挨拶も済んだことだし、次は正月に挨拶に行かないとな。日本人は儀式に五月蠅い民族だから、面倒くさいが仕方ない」
 は?
 はい?
 今何を言った?
「……あ……な……なんだよ……っ……それっ……ひっ……」
 散々腰を振られて、意識が飛びそうな恭夜であったが、不穏な事を言ったジャックに問いかけておかなければとふらつく意識をなんとか戻して必死に言った。
「だから、年始の挨拶だ。まあもう少し先だからいいとするか」
 まさか……
 まーさーか……
 こいつ、今度は兄貴のマンションに行くとか言い出したのか?
 しかも年始の挨拶って……
 なんだーーーーーー!
 抗議の声を上げようとしたが、それらは全て喘ぎ声に変えられた。
「……あっ……いやだっ……あ……っ……」
「感じているくせにいつもキョウはそうだ……分かっているんだよ……」
 くすくす笑うジャックには何故恭夜が嫌だと言っているのか理解していないのだ。
 ああもう……
 嫌だ……こいつ。
 苦労はいつまでも続くのだろう。
 それがジャックとつき合った代償なのかもしれない。
 快感に流されながらも、恭夜はそれとは違う理由の涙が出そうになった。

―完―
タイトル

くだらないショートですみません。ほんのお気持ちだけというところで許してやってくださいね。あはは。で、この後はまた、あけましておめでとうお兄さま~に続くと。お、恐ろしい。リーチたちというかトシがそこにいるのかが謎ですが、また羽織袴を着てご挨拶に向かうジャックでした(汗)。本人しごくまじめなんですけどねえ……
なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね!

↑ PAGE TOP