第7夜 「嫉妬する男?」 (七夕企画2003)
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タイトル
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「七夕って知ってる?」アルはユウマに聞いてみた。
本日は、公園にいつものように散歩に連れられてきたのだが、運良くユウマに会えたのだ。ユウマは鶏冠のような髪型をした主人の膝で丸くなっている。
「ねえ、君。知ってる?」
アルはもう一度聞いてみた。するとユウマはようやく顔を上げてアルの方を向いた。真っ黒な毛が太陽に光ってキラキラとしている。黄金色の瞳はアルが惚れたものだった。
「五月蠅いな……俺、寝てるんだけど……」
「せっかく久しぶりに会えたんだから、少し話をしよう」
ユウマはいつも主人の膝で寝てばかりなのだ。せっかく公園に連れてきてもらったのなら、元気よく走り回ればいいのにと、アルはいつだって思う。だが、ユウマはほとんど公園を歩かない。
ユウマの主人もそれが変だとは思わないのか、ベンチに二人で座って談笑に耽っている。
「まあ……いいけど……」
一つ大きなあくびをして、ユウマは身体を起こした。
「うちのご主人様が七夕を恋人と一緒にしていたんだ。たくさん願い事を書いていたよ。七夕の日は願い事をもみの木にぶら下げると、叶うんだってさ」
アルは勘違いしたままそう言った。
「……もみの木?なにそれ。葉竹だろ?それ、七夕じゃないよ。ていうか、もみの木ってクリスマスだろ……」
顔をしかめてユウマは気味悪そうに言う。
「え、そうなのかい?」
アルはもみの木にぶら下がった短冊しか見たことがなかったのだ。確かにもみの木はクリスマスにも見たが、ああいったものをぶら下げる木は、みなもみの木なのだと信じていたのだから、驚きもある。
「……うちはどうして、もみの木にぶら下げたんだろうか……」
首を傾げているとユウマがからかうように言う。
「アルのうちって貧乏なんだ。だから、去年使ったクリスマス用のもみの木にぶら下げてたんじゃねえの?」
にゃあにゃあと笑いながら、ユウマはからかう。だが、自分の主人が貧乏にはとても見えない。マンションに住んでいるが、部屋は広く、快適だ。食べ物も豪華で、部屋にしつらえてあるものも立派だった。
「貧乏じゃない」
「だってさあ、七夕にもみの木って……どう考えても変じゃん。俺は別にいいよ。もみの木でも」
「貧乏じゃないと話しているだろう」
ムッとした顔でアルは答えた。
「だってさあ、もみの木に短冊をぶら下げるのなんて聞いたことねえよ」
ユウマのいい方に思わずアルは鼻に皺を寄せた。すると、ユウマの主人がアルの方を見て、睨み付けてくる。
「噛みつきそうだな……」
綺麗な顔立ちの戸浪が言って、鶏冠男の祐馬の膝からユウマを抱き上げた。以前の件があり、全面的に信用して貰えないアルは、こういうとき立場がない。これ以上、評価を下げたくなかったアルは、とりあえず、愛想よく尻尾を振って見せた。
「噛みつかないとは思うけど……。一度預かってもらったお宅の犬だし……」
祐馬はアルの頭を撫でてきたが、戸浪は不審な目を向けている。今日はこのくらいにして逃げた方がいいのだろう。あまり評価が下がると二度と会えなくなりそうだ。
アルは、人懐っこそうな顔をしながら、尻尾を振ってユウマのいるところから離れた。進展しないお互いの間には犬とネコという大きな壁が横たわっているのだ。もう、これはどうしようもない。
すごすごと、自分の主人のいるところまで戻ってくると、幾浦はトシと楽しそうに語らっていた。邪魔するわけにもいかず、アルがため息をついていると、ウサ吉が可愛い顔をした主人と砂場で戯れているのがみえた。
大地くんだ。
アルは思わずウサ吉のところに駆け寄って尻尾を振った。大地の相手はいないのか、一人でウサ吉と遊んでいる。これなら、邪険にされないだろう。
「わ、……びっくりした。久しぶり~」
大地は満面の笑みで微笑むと、アルの額を撫でる。自分が好かれているのが分かる大地は、アルも大好きだ。思わず尻尾をグルグル振って、親愛の情を示した。
「あ、アル……アルアル……だ」
ウサ吉は鼻を鳴らしてアルにすり寄ってくる。ウサ吉のこういう仕草がとても愛らしい。
「久しぶりだね。七夕のお願い事はしたのかな?」
顔を舐めて、アルが言うと、ウサ吉は若干垂れ下がっている耳を更に下へと下げた。
「七夕……七夕なんだけど、ぼ、僕のご主人様たち、それで喧嘩しちゃって……」
「喧嘩?」
「う……うん。だから僕は七夕嫌いだよ。喧嘩するの、見てると悲しくなっちゃって……」
ウサ吉は鼻をぴくぴくさせながら、大地の方を見る。アルから見ると大地が喧嘩をしているようには見えないが、言われてみるとどことなく寂しげだ。
「そうなんだ……」
「願い事はしてないのかい?」
「した。したよ。ご主人様たちが仲直りしますようにって。あと、アルともっといっぱい会えますように。それと……ユウマともずっと仲良くできますようにって……お願いしたよ」
ヴヴヴと鼻を鳴らして、ウサ吉は嬉しそうに言った。
可愛いしぐさに思わずアルの頬も緩む。
「こいつ、食いもんじゃねえの、分かってるな?」
いきなり大地がにこやかな顔をしてアルの頭をまた撫でてきた。どうも誤解されているようだ。あるは思わず大地の頬をベロリと舐めて、答えた。
「ならいいよ。ウサ吉も友達がいないし、寂しいもんな~。博貴ばっかと遊んでたら駄目だぞ」
大地はウサ吉の頭も撫でて、嬉しそうに微笑んでいた。
あ~なんか……
大地くんもいいなあ……。
どうもユウマの主人--特に戸浪にはあまりいい印象がないのだ。もっとも、一度ユウマを追いかけて川に落としてしまったのだから弁解もできないだろう。あれから、ことあるごとに、アルは愛想よくしてきたが、一度失った信頼はなかなか回復できないようだ。
はあ……とため息をついてアルは大地の隣に腰を下ろした。ウサ吉はお腹の辺りでアルの長い毛と格闘している。
微笑ましいなあ……。
ウサ吉くんは。
ウサ吉を見ていると、恋愛感情は浮かんでこないが、微笑ましい気持ちになってくるのだ。仕草がとても子供っぽいからだろう。いや、まだ子供なのだろうが。
「俺、いつも思ってたんだけど、お前ってすげ~毛が長いよな。鼻も長いし……。ワンレンの女みたいで、変な顔だよな」
ぷっと大地は笑い、アルのプライドを凹ませた。
変な顔……
変な顔って言われたぞ。
「アルって変な顔してる?ぼ、僕はそんな風に思わないけど……か、か……格好いいよ」
ウサ吉は真面目にそういってアルを喜ばせてくれた。
「ウサ吉はいい子だね~。私はとっても大好きだよ」
「僕もアル好き~!大好き」
毛に絡まりながらウサ吉はアルの腹の辺りで戯れていた。ユウマがこんな風にしてくれたらどれだけ嬉しいだろう……なんて、密かに考えていると、草むらの向こうからユウマがこちらをじっとみていた。
しかもなんだか表情が少々怒っている。
どうして怒っているんだろう……。
じーっとアルが草むらの方を見つめていると、大地がそれに気がついた。
「うわっ!ネコだっ!ウサ吉。気をつけろよ……って、こんなでっかい犬がいるから大丈夫か……」
大地はユウマを知っているはずなのだろうが、草むらに身を潜めているネコの姿はとてもユウマに見えなかったのだろう。
「お前、ちゃんと見張っててくれよ。ネコに食わせるわけにはいかないんだからな。全く……うちにもウサ吉の肉を狙ってる奴がいるんだから、どうしようもないな」
ブツブツと大地は言って、また草むらに横になる。
「……ねえ、ウサ吉。君を狙ってるって……なんだか、すごい環境なのかい?」
「え、ううん。ぼ、僕、可愛がってもらってるよ。たくさんご飯も食べさせてもらってるし、大ちゃんがいないときは博貴にいっぱい遊んでもらってる」
嬉しそうにウサ吉は鼻の頭を後ろ足で掻いていた。
いやでも……
いま、肉を狙ってるって……。
疑問に思うが、あまり深く聞かない方がいいだろう。ウサ吉はどう見ても愛玩動物で、食べられるタイプのウサギではない。多分、大地が冗談で言ったに違いないのだ。
「あ、……思いだしたけど、じゃあ、七夕はしなかったのかい?」
「博貴がしてたよ。一人で。いっぱい大ちゃんに殴られてたのに、嬉しそうに短冊をつけてた」
「……面白い人達だね……」
「い、いつものことだから……うん。別に変じゃないと思うけど……よく殴られてるから博貴」
ニコニコとすごいことを話しているウサ吉だ。
もしかすると、サド・マゾカップルなのかもしれない。
これも深く聞かない方がいいのだろう。
「アルは、願い事した?」
「そうだな……たくさんしたよ」
ハッと気がつくとユウマが更に近づいていた。だが草むらに隠れて身を潜めているつもりのようだ。ただ、こちらからではよく見える。
その距離二メートルだ。
「え、何?何?教えて~」
ウサ吉は鼻をぴくぴくさせながら、アルの背に登ってきた。
「ご主人様二人がいつまでも仲良くしてくれますように……だね」
ユウマは更に近づいていて、今では一メートルくらいの距離だった。
「それから?」
ウサ吉は更に聞いてくる。
「ウサ吉くんが、ずっと仲良くしてくれますように……かな」
ユウマはますます草むらを移動し、近づいてきた。
「他には?ユウマのことは?」
「そうだなあ……ユウマのことはね……」
草むらからユウマの黒い耳がピンと立っているのが見える。ユウマは自分の姿が隠し切れていないことに気がついていないのだろう。
「……ちょっと照れくさいが、実はね……」
ユウマの耳はぷるぷると震えていた。
じっと耳をそばだてているのだ。その姿がなんだかアルには嬉しかった。
だが……。
「うわーーーーっ!ネコがこんなところまで来てやがるぞ!やっぱり狙ってるんだなっ!あっちに行けっ!」
大地がユウマに気がついて飛び起き、手を振り回した。ユウマの方は驚いたように、飛びはね、走っていった。
……。
聞かせたかったのに……。
アルはユウマが去っていった方向を見ながらちょっぴり残念な気持ちになっていた。だが、気にしてくれているのが分かっただけでも満足だ。
「ねえねえ、今のユウマ?」
「違うと思うよ」
なんとなくアルは今のユウマのことを自分だけの秘密にしたかった。
「……あ、さっきの続き教えて~教えて~」
「……そうだね、内緒かな」
アルは満足そうに笑みを浮かべてウサ吉にそう言った。
―完―
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実にほのぼのとした終わりを迎えてしまいました(笑)。なんだかもう、小学生の片思い……みたいな感じ?? ここを書くときはいつもそんな気分になりますねえ。それにしても大地の言動であの後どうなったのか少しかいま見られるような感じですね(笑)。がんばれアル! |