第5夜 「雪の日の二人」 (超短編)
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タイトル
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雪が一面に積もった日に、どうして公園になど出かけようと思うのか、ユウマには分からなかった。こたつの中で丸くなって、惰眠を貪っていたかったのだが、祐馬が「初めての雪をユウマに見せてやろうよ」などと提案したことからこんな事になったのだ。はっきり言ってユウマには迷惑なことだった。
俺は猫なんだぞ……
猫はこたつでまるくなるものなんだ。
ちくしょう……
寒い……
入れられた籠の中で丸くなってみるものの、空気穴から吹き込む冷気が毛を撫でて逆立てる。戸浪や祐馬は暖かなコートを身にまとい、なにやら楽しそうに雪と戯れているのだが、ユウマは自前の毛しかないのだ。せめて籠の中に暖かな毛布を入れるくらいの気遣いが無いのだろうかと首を傾げるほど、扱いはひどかった。
寒い……
寒いっての。
「ユウマ。ほら、雪だぞ。すごいだろう」
放って置いて欲しいのに、祐馬が籠を開けてユウマの身体を外に出した。折角温もっていた腹の辺りに風が吹き付け一気に体温が下がる。
「にぎゃあああっ!」
両腕を抱えるように持ち上げている祐馬に対してユウマは爪を飛ばした。身体のあちこちを撫でていく風が堪らなく寒いのだ。だが、祐馬は一向にそんなユウマの事など分からない顔で嬉しそうに笑っていた。
「祐馬、猫は寒いのは駄目なのじゃないのか?」
横にいた戸浪がユウマの形相を見て慌てて言う。
そう、猫は寒がりなのだ。
犬は逆に走り回るものだろうが。
犬は……
視線を上げると、アルもこの公園に来ていたのか、遠くの方で走っている姿が見えた。雪を蹴散らし、フリスビーを銜えては力強く走る。
ユウマと違い、身体を包む毛が多いアルだからさぞかし暖かいのだろう。
いいなあ……
アルは。
毛が一杯で。
ていうか、寒いっての!
だっこしろ!
だっこ!
ぶらんと身体を伸ばしたように持ち上げられている身体はだんだん身体の温度を下げて、このままでは凍え死んでしまう。
「にぎゃにぎゃ!」
「戸浪ちゃん。これって下ろして欲しいのかな?」
違うーー!
寒いからだっこしてくれって言ってるんだよっ!
「そうかもな。初めての雪をみて興奮しているのかもしれない」
微笑ましいものでも見ている表情で、戸浪は言う。
違う……
戸浪ちゃん違うよ~
ぎゃあああああっ!
ポンと積もった雪の上に下ろされたユウマは、肉球から直に伝わる冷たさに毛が逆立った。これほど冷たいものだとは思わなかったのだ。
つ……
つめてええええ!
こたつ……
こたつに入りたいっ!
じたばたと足を交互に振っていると、二人は椅子に座ってこちらを眺めていた。悪気はないのだろうが、猫は寒いのは苦手なのだ。どうすればこの二人にそれが分かって貰えるのだろう。
ユウマは雪の上から一時たりとも足をつけていられなくて、そのままジャンプすると戸浪の膝の上に乗った。
「やっぱ寒いのかな?」
もぞもぞと戸浪のコートの下に入ろうと悪戦苦闘をしているユウマを見て祐馬が言う。
「家猫だから仕方ない。きっと寒いんだよ……」
前を開けてユウマをコートの下に入れる戸浪に感謝しながら、膝の上で丸くなった。ようやく温もる身体にホッとユウマは胸を撫で下ろした。
これ以上ここに長居をしたくないのだが、この二人は暫く雪を眺めるつもりのようだ。別に構わないのだけれど、こういう日は外に連れ出して欲しくない。ユウマは本気でそう思って腹を立てていた。
「あ、確かあの犬アルって言ったよな。以前はお世話になったね」
コートの向こうから祐馬の声が聞こえた。アルが近くにいることを分かっていても顔を出すことが出来なかった。
寒かったからだ。
「世話になったからあまり強くは言えないが、私はこの犬は好きじゃないんだがな……。毛が多くて鬱陶しい」
そういう犬種だからなあ……。
でもアルの毛は綺麗だと俺は思うけど……。
言葉を話すことが出来たらユウマはそう言っていただろう。だが、所詮猫だから鳴いたところで伝わらない。
顔……
出してみるかなあ……
顔くらいなら良いか。
ようやく温もったせいで、少し余裕の出てきたユウマは、コートの隙間から顔だけを出した。するとアルが嬉しそうにこちらを見た。
「やあ、久しぶり。こんな日に君が外に出ているなんて珍しいね」
「仕方ないよ。戸浪ちゃん達はそういうの分からないみたいで、日光浴させないと~なんて、機嫌良く連れてきてくれたんだし……。文句言えないんだよな。俺は早く帰りたいんだけどね」
心の中では散々文句を言っていたが、悪気があってここに連れてこられたわけではないのだ。だから悪口は言えないだろう。
「ふうん。そうなんだ。走り回ったら温もるけど……どう?」
どうって……
なにが?
俺に雪の中を走り回れっていうのか?
かんべんしてくれよ~
「やだよ。寒いの嫌いだから……」
「良かったら……その……」
急にアルは声を濁した。
「なんだよ」
「そんなに……寒かったら、私の毛にくるまってみないか?暖かいと思う」
ちょっと照れながらアルはそう言ったが、ユウマには何が言いたいのか分からなかった。
「もう身体を外に出す気なんて無いよ。アルの毛もぬくそうだけど戸浪ちゃんの膝の方が良い」
「……そう。じゃあ、また今度ね。私のご主人様が呼んでいるみたいだから行くよ」
くるりときびすを返してアルは走っていった。
「あ、行っちゃったよ」
祐馬の間抜けな声が響く。
「あの犬はどうもうちのユウマを構うのが好きなようだな……」
戸浪は何故か呆れたような声を出す。
う~ん……
構うのが好きって言うより……
俺のこと気に入ってるみたいだけど……
それにしてもアルって変なの……
私の毛にくるまってみないかって……
ぷっ!
なんだよそれ……
コートから出していた顔を引っ込めて、またユウマは丸くなった。
確かにアルの毛もぬくそうだけど……
……
あれ?
もしかしてなんか……
俺を誘ってたとか?
……
ようやくアルが何を言いたかったのか気が付いたユウマは薄暗い戸浪の膝で顔を赤らめながら悪態を付くことしかできなかった。
―完―
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なぜか人気のアニマルズ(笑)アニマルズの超ショートはないんですか? という問い合わせをいくつもいただいたので書いてみました。なんとなくほのぼのしてもらえるといいかなあ~なんて。どろどろした恋愛は彼らには似合わないと思いますし。でも……どこまで行っても不幸なのはアルなのかも(汗)。 |