Angel Sugar

第4夜 「暑い日の二人」 (超短編)

タイトル
 夏だから暑い。
 だから休みの日は一日クーラーの利いた部屋でごろごろするに限るのだ。
 恭夜はリビングでごろごろしながらそんなことを考えていた。趣味もないため、折角の休みだから何処かに出かけようなどと、これっぽっちも考えない。日差しに焼かれるのが嫌で、マンションから一歩も外には出たくないのだ。
「なんだ。まだごろごろしているのか?」
 不機嫌な声でジャックがリビングに入ってきた。
 朝からずっと書斎にこもっていたジャックだ。夕方まで出てこないだろうと恭夜は予想していたが、すぐに出てくるところを見るとそれほど重要な仕事をしていた訳ではなかったのだろう。
「まだって……暑いから今日は一日、外に出る気になんてならないっての」
 ち……
 残念だなあ……
 夕方までこもってろって。
 昨晩も散々エッチにつき合わされたのだから、休みの日くらいゆっくりと身体を休めたいと思っても当然のことだろう。なのに、励んだ男は疲れなど全く見せない表情で涼しげにしていた。
 一体どれだけ体力があるのだろうかと訝しく思うほどだ。
「お前は気が付くとごろごろしているからな……」
 笑いもせずにそう言って、ジャックは呆れていた。その原因を作っているのは自分であるという自覚が全くないのもジャックならではだろう。
「ほっとけよ。俺の休みなんだから……」
 恭夜はぶつくさ文句を言ってソファーの背もたれの方へ身体を横にする
「腹を冷やすとひどい目にあうぞ」
 ジャックは恭夜の身体にタオルケットを掛けた。珍しく優しげな行為に恭夜は驚いて、横にした身体をジャックの方へ向けた。
 ジャックはちらりともこちらを見ずに、恭夜の前にあるソファーに座って新聞を読んでいる。当然、英字新聞で、何社からもジャックは取っていた。恭夜は読めないとは言わないが、やはり事件よりテレビ欄が気になるため、一つは日本のものが混じっている。
 時々恭夜の新聞をジャックは読んでみようとするようだが、今のところまだ日本語が堪能でないために眉間に皺を寄せて放り投げるのが常だった。
 あいつにすると、こう静かなのが珍しいけど……
 そっとしておこうっと。
 恭夜はジャックが掛けてくれたタオルケットを掴んで隙間無く被る。確かに朝からクーラーの利いた部屋にいたために冷えていた。
 あったけ~
 こういうのもいいなあ……
 タオルケットにくるまりながら、恭夜は気分が良かった。ジャックもおとなしくしてくれているから余計にそう思うのだろう。
 休みだからと言ってジャックはおとなしくなる男ではない。散々夜に突っ込んだからさすがに飽きただろうと思っていても、翌日になると昨夜のことなど忘れたように、朝から盛ってくるときがあるのだ。一体どういう性欲を持ってるのだろう……と恐ろしくなることもしばしばだ。
 つき合う自分もすごいと思うが、恭夜が好きでつき合っているのではない。気が付くと上に乗られて服を脱がされる。
 ジャックには朝も昼も夜も関係が無いのだろう。
 ま、いいや。
 今日はおとなしくしてくれるみたいだし……
 だが、普段と様子が違うと気になるのは仕方のないことだった。
 恭夜は、横になって眠ろうとするのだけれど、目の前で静かに座っているジャックが気になって仕方がない。時折新聞を繰る音ですら身体がびくびくと反応するのだからよほどジャックの行動が気になるのだろう。
 あいつ……
 絶対なんか変だ……
 新聞を見ているせいで、ジャックの表情が見えないのだが、その向こうでニヤニヤとした顔をしてこちらの反応を窺っているような気がしてならない。
 くっそ……
 こっちに来なくても、書斎の方で読んだらいいだろ。
 気になるんだよ……
 ばさっ!
 新聞を読み終えてテーブルに置いたジャックの目と恭夜の目が合った。ニヤニヤしていると思った表情は冷めたようなもので、恭夜が想像したものとは違った。
 暫くじっとこちらを眺めていたジャックではあったが、別に声を掛けるわけでもなく、スッと立ちあがるとリビングを出ていく。
 だが、すぐに帰ってきて、またソファーに座る。
 今度は耳にイヤーフォンを付け、手にはウオークマンを持っていた。
 ……
 表情は変わらないんだけど……
 あいつ……
 何、聞いてるんだろう。
 やばいものでも聞いてるとか?
 ……
 うお~
 気になって寝られねええ~
 俺のエッチな音でも取って聞いてるとか?
 あいつならやりかねねえ~
 絶対そうだ!
 疑心暗鬼にとらわれた恭夜は、もう寝ていることも出来ずにソファーから身体を起こして立ち上がると、ジャックの側に行き、イヤーフォンを無理矢理引き剥がした。
 こんな事がジャック相手に出来るのは恭夜だけだと本人は気付かない。
「なんだ?」
 端正な顔立ちが恭夜の方を向く。
「何、聞いてるんだよっ!」
「演歌だが……」
 え……
 演歌?
 な……
「なんじゃそりゃああああ~」
「日本の心はここにあると聞いたんだが……暑苦しい歌い方をするんだな。聞いているだけで退屈だ」
 面白くなさそうにジャックは言った。
「……いや……その顔で演歌は似合わないと俺は思うけど……」
「そんなことはどうでもいい。さっきからなんだ?」
 肩に掛かる髪をかき上げてジャックは不満げに言う。
「さっきからって?」
「人の行動を逐一追いかけていただろう?気味が悪い……」
「……え?」
 俺、追いかけてたか?
「違うだろ?あんたが……その……あの……」
 恭夜が言い訳を見つけられないでいると、ジャックは急に笑顔になった。
「そうか。構って欲しかったのか。なんだ。それならそうと言えばいいんだろう。いつもハニーは恥ずかしがり屋で、自己表現に乏しいが、それも可愛い」
 がしっと腰を羽交い締めにされ、ジャックに引き寄せられた恭夜は腰が砕けそうになった。
「あた……あたたたたた……痛てえええ……」
「満足できなかったならそう言えば良い。全く……」
 ジャックは恭夜をソファーに押し倒すと、ニンマリとした笑みを見せた。
「……あれ?」
 暫く事態が把握できず、恭夜は服を全て脱がされてようやく自分からジャックの懐に飛び込んだことを深く後悔することになった。

 その日の夕方。ジャックが昼間の恭夜の行動を隠しカメラで確認し、悦に入っていたことを恭夜は知らなかった。

―完―
タイトル

なんだかアツアツな二人という感じが……とはいえ、恭夜はあれでジャックのことが気になっているのだろうと(笑)。実は構ってほしいんでしょう~。本人は認めないでしょうが……はは。

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