ことばのレシピ語楽 故事成語 解説

覆水盆に返らず

 呂尚(りょしょう)と馬氏(ばし)は夫婦でした。夫である呂尚は読書ばかりしていて暮らしのことなど全く考えていませんでした。妻の馬氏はあきれてしまい、実家に帰ってしまいました。後に呂尚は立派に学問を積んで有名になり、「太公望(たいこうぼう)」と呼ばれて高い位につき、斉の国を与えられるまでになりました。それを知った馬氏は、馬に乗って近くを通りかかった呂尚の前でひざまずき、自分が家を出たことを詫(わ)びて、再び夫婦になりたいと願い出ました。

 呂尚馬氏の目の前で盆に水を入れ、それを傾けて地面にこぼしました。そして「願いを叶えたいのなら、私がこぼした水をすくってみなさい。」と言いました。馬氏は言われたとおりに、必死ですくおうとしましたが、手ですくえるのは泥だけでした。呂尚は「君は自ら望んで私と別れたのだ。今、あらためて私と一緒になりたいと言っているが、覆した盆の水が再び戻せないのと同じで、復縁は無理だ。一度してしまったことは、もう取り返すことができないのだよ。」と言いました。

 馬氏は自らの軽率さを悔やみ、死ぬまで悲しみ嘆いていたということです。

■離婚した夫婦は二度ともとに戻らないこと。一度してしまったことは二度と取り返しがつかないこと。
<例> 一度してしまった過ちは、覆水盆に返らずだよ。