「ねえ、知ってる?天使に魅入られたらね。未来永劫天使から離れられないんだよ?」

小さいとき、近所に住んでいたお姉さんがくすくすと笑いながらそんな話を俺にした。
きっとお姉さんは俺が怖がって震えるのを見たくてそんなオカルトじみた話をしたんだと思う。

あいにく俺はそんな非現実的な話を信じるような純真な子供ではなかった。
天使?
そんなもの居るわけないだろ?
何かの本で読んだ。
天使は人間の目には見えないんだって。
もし天使に魅入られてたとしても、俺に見えないんじゃ、追いかけられてたってわかんねーじゃん?





「これっ!読んでください!」

真っ赤な顔をした女が一人、俺の前に居て手紙を差し出している。
内容は見なくても誰でもわかるシチュエーション。

「俺、受け取る気ねーから。」
「あ、あのっ・・・!!」

女が何かを言う前に俺はその場からさっさと立ち去った。
すすり泣く声が聞こえるが完全に無視して歩く。
女の涙が男には有効だって?
あいにくだったな。
俺にはんなもん通用しねーんだよ。

「相変わらずつれないね〜、シンイチ。」
「よーモテんのに誰一人相手にせーへんやんけ。」
「るせーよ!」

悪友のカイトとヘイジがからからと話しかけてくる。

「俺が女を振ったからってオメーらに迷惑なんてかけてねーだろが。」
「そりゃそやけどなぁ。」
「もったいないなあっておもうだけでしょ?」
「ふうん。じゃあ今度アオコとカズハを相手にすることにするさ。」

しつこい奴らに一撃必殺をお見舞いする。
アオコとカズハは奴らの親の決めた婚約者。
ぎゃあぎゃあと悪態をつく割りに奴らにとっては一番大事な女。
案の定、あせっている。

「や、カズハはやめといたほうがエエで!あんなはねっかえり相手にしとったら体もたへんで!」
「アオコもやめたほうがいいぜ!あんなじゃじゃ馬相手にしてたら頭おかしくなるから〜!」

ヘイジもカイトも必死だ。
言っていることはめちゃくちゃだが、独占欲丸出しなのが透けて見える。

「あほらし・・・。誰が盗るかよ、人の女なんて興味もねーよ。」

俺は二人を放って、すたすたとその場を後にした。
女に興味がねーというよりも、俺はヒトに興味がねーのかも知れない。
本に囲まれ、誰にも邪魔されずにすごしているのが一番性に合っているのだろう。
そう思っていた。


彼女に会うまでは・・・・・。



「あん!」
「?」

いきなり聞こえた声に思わず振り向いてしまった。

「んも〜・・・またやっちゃった・・・・。」

女が一人、道端にものをばら撒いていた。
ただのどじな女か・・・・。

と、俺の足元に彼女のものであろうペンを手に取った。

「これ、落としてるぜ。」
「え!?」

普通に声をかけたつもりだったのだが、彼女は大きな声を上げて、びっくりした瞳を更に見開いてこちらを見ている。

「あ、あなた私がみえるの・・・?」
「?何言ってんだ?あんた・・・。」
「・・・・ホントに見えてるんだ・・・。私の事。」
「あんた、何言ってんだ?」

どっかおかしいのか?この女・・・・。

やばいヤツと係わり合いたくない俺はさっさとこの場を立ち去ることを決めた。
のに、彼女は俺をじーっと見つめてくる。
いや、正確には俺の手の中にある俺が拾ったペンだ。

「ああ、そっか。これが貴方の体に触れたから私が見えたんだ!」
「は・・・?」
「私、天使なの。」
「は?」
「普段は人間の目には見えないんだけどね!天使のペンに触れたら人間に見えちゃうの!」

本格的にやばい女と遭遇しちまった!と思った俺は思った。

「大体、天使がペンを持つなんて聞いたことねーぞ!」
「何よ!人間が私たちの何を知っているというのよ!」


・・・頭おかしいヤツと話し合ってなんか居られねえ・・。
と俺は早々にその場から離れようとした。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「んだよ?」
「一人でも人間に見えちゃったら私、その人から離れちゃだめなんだから。」
「んだと?」
「そうしないと天使は天界に帰れなくなっちゃうのよ!」
「はあ?」
「とにかく!次の満月までは貴方のそばに居なくちゃだめなの!」


彼女のそんな無茶苦茶な言い分で俺と彼女は奇妙な同居生活を送ることになった。


「まず改めて、自己紹介ね!私の名前はラン。天使をやってます。」
「・・・・あ、そ。」
「あ、そ。じゃ無いわよ!自己紹介!貴方の!」
「・・・・。シンイチ!クドウ・シンイチだよ!」
「シンイチね!次の満月までの二週間、よろしくね!はい!」
「・・・はい?」
「握手。親愛の意味もこめてv」
「・・・・あほらし・・・。」
「んもう!こういうことはきちっとしなくちゃだめなの!ハ・イ!」
「・・・・。」

彼女・・・。
ランの言い分に押されて俺は渋々、自分の右手を差し出した。

「ん!よろしくね!」

ランはニコニコと笑みを浮かべながら俺の手を握り返した。




10月4日はエンジェル=蘭ちゃんの日v
に乗っかろうといきなりお話を書き始めてしまいました。
エンジェルな蘭ちゃんvと分りやす短絡的な思考(爆)。

一回で仕上げてしまいたかったけど、パラレルは長くなるにこれもどーやらのっとるみたいで。
早々に断念しました。

・・・・来年の10月4日までには仕上がってたら良いなあ・・・(笑え・・・ない・・・)。