「んで・・・?どーすんだよ?この状態を!!」
志保の作り出した新薬の間違った投薬方法のために、お互いの体が入れ替わってしまうという事態に陥ってしまった新一と蘭。
勝手に自分を新薬の実験台にした事に加え、蘭と過ごすわずかな時間さえ奪われた新一がふてくされ、志保に不満をこぼす。
「大体、体の入れ替わりなんて非現実的なこと・・・!!」
「あら、体が縮んだ経験のある貴方ならすんなり受け入れられると思ったんだけど・・・?」
志保はそう、シニカルな笑みを浮かべてシレッと言い返す。
「てめ・・・!」
新一が、切れそうになり抗議しようとしたところ
「悪いのはポツンと置かれた怪しげなものを確かめもせずに食べちゃう新一でしょ?
そ・・・それに・・・。あんなコトするからこんな変なコトになっちゃうんじゃない・・・!!」
蘭が原因をはっきり言えず、顔を真っ赤にさせながらも膨れて見せる。
「ら、蘭・・・!だけどなあ!!」
そんな蘭に言葉を詰まらせる新一の隣から志保が平然と告げる。
「そうそ。一人で犠牲になってれば問題なかったのに・・・。いくら蘭が咳き込んだからって口移しで飴を渡すなんて!!
・・・少しくらいは自制心っていうものを鍛えてみればいいんじゃない?工藤君。」
「志保も人のこと言えない!!」
蘭に便乗して、新一へ言いたい放題だった志保だったが、蘭の矛先が自分へと向くとわかるととたんにおとなしくなった。
「大体、志保も薬の実験っていって新一に薬飲ませようなんてマネしないで!もし、何かあったらどうするつもり?」
「・・・。アポトキシンにも打ち勝った彼だもの。ちょっとや、そっとの薬じゃ死なないって思ったのよ。」
「志保!!」
口調その他は思い切り不満っぽかったが、蘭の言うことなら、志保は聞く。だから、蘭の抗議にも、
「もうやらないわよ。」
と、返事を返したのだ。
・・・・。新一の言うことはいくら彼が怒鳴ったところで聞く耳さえ持とうとしないのに・・・・。
それがわかっているから、新一はますますふてくされて、二人のやり取りを見ていた。
「んで?どーすんだよ。解毒薬とか・・・。」
「そりゃ、この薬の解毒薬はあるわよ?・・・でもこんな全く異なった結果じゃ効かないことは分かりきってるわ。」
そう志保は肩をすくめて見せる。そんな彼女に対して蘭が、不安そうな表情を浮かべる。
「じゃあ・・・!!」
「まあ・・。その元薬をもとにして改良してみるわ。2、3日くらい・・・かしらね?」
そんな蘭の表情を読み取った志保が、なだめるように蘭の肩に手を置きながら話しかける。
「2,3日・・・。連休中にはなんとか・・・!!」
「ま、頑張っては見るけど・・ね。まあ、蘭ここに泊まるんでしょ?工藤君の自制心を高めるのにちょうどいい機会じゃない?」
「宮野、てめえ!!」
蘭の方へ意識を向けていた志保が急に新一の方へ向き直り、平然と告げると新一が思わず怒鳴ってしまうが、蘭がそれをいさめる。
「とりあえず!!志保は薬を完成させて!!」
「分かってるわ。じゃあ・・・ね。」
2,3日で改良版の薬を完成させるべく、志保は研究室にこもるようになった。
「あー!ったく・・・!!えらい目にあったぜ!!」
「ともかく、連休中に出来上がることを願いましょ。」
「ああ・・・。あああ〜〜〜〜〜!!」
いきなり新一が素っ頓狂な声を上げた。
「な・・・!何よ!!新一。いきなり大声出さないでよ〜!!」
蘭がびっくりして新一を見咎める。
「どーすんだよ!!」
「?何が?」
「今日!これから服部と和葉ちゃん来るんじゃねーか!!」
「あーーーーーー!!」
そう、この連休を利用して東京へ遊びに来る予定になっていた服部と和葉のことをこのとんでもない事態のせいで、
二人ともすっかり忘れていたのだ。
「ど・・・。どうしよう・・・?しんいちぃ〜〜・・・。」
「どうするって・・・どうしょうもねーだろ・・・?」
「取り繕ってみたって・・・・バレちゃうよ・・ねえ・・・?」
「あー・・・。多分な・・・。」
平次や、和葉にばれないようにとおもってみたところで・・・。
もともと勘の鋭い二人のコトだ。すぐばれるに決まっている。と、そこへ
ピーンポーン!!ピポピポ、ピーンポーン!!
けたたましく鳴り響くチャイムの音。しかも鳴らしている人物をあらわすかのように騒々しく。
「きやがった・・・。」
「え・・・?」
何処かため息めいた声を出しつつ新一が言葉にする。
何のことを言っているのか分からなかった蘭だったが、ちょっと考えてそれが服部が鳴らしているのだと理解した。
「あ・・・・。早いね。ついたみたい。はーい!!」
蘭はチャイムの音を止めるべく玄関へと足を運ぶ。
その蘭の背中を見つつ、どうするべきか悩んでいた新一だったが、下手な言いつくろいは無駄であると悟り、
そのまま、ゆっくりと歩を進めた。
ガチャリ
と、大きな音を立てて工藤邸のその重厚なドアが開く。
「よう!工藤来たでー!!」
「工藤君、ごめんなー。」
そこには普段と全く変わりの無い二人・・・。
服部平次と遠山和葉が立っていた。
「いらっしゃい」
新一の姿をした蘭が二人を出迎える。今まで見たことの無い一種異様な光景に平次と和葉は目をパチパチさせて二人、顔を見合わせた。
「?どうかした?」
「あ・・・。うん。すごい珍しい事もあるもんやなあ・・・って・・・思ってしもて・・・。」
「え?」
「工藤が出迎えにくるやなんてよーやっと俺のよさを認めたって事か!!」
「え・・・。あっ・・・・!!」
平次と和葉の言葉に不思議そうに首をかしげていた蘭は自分の「普段の行動」が仇となった事にようやく気づいたのだ。
・・・と、そこへゆうるりと蘭の姿をした新一が、「早々にうかつな行動をとるなよ・・・。」と言わんばかりの不機嫌顔を浮かべながら
玄関の方へとやってきた。
「あっ・・・!!蘭ちゃ・・・・ん・・・・?」
和葉が蘭の姿に気づき、声をかけかけて、そのあまりの似つかわしくない行動を目の当たりにして、声のトーンが落ちた。
平次は平次で「新一」をまじまじと見、あまりのおかしさに不信感を募らせていた。
「ちょ・・・。ちょお、平次。今日の二人・・・おかしない・・・?」
「お前もそう思うか。・・・めっちゃ変やな、二人とも!!」
新一と蘭からすこし離れて、こそこそ話を繰り広げる平次と和葉。そんな二人が不信感を募らせていると気づき、あせる蘭。
「え・・・えーっと・・・。な、何二人してこそこそしてんだよ!!」
できるだけ新一らしく見せようと努力する蘭。初めはそんな蘭の行動に困惑していた新一だったが、やがて蘭の意図に気づき
彼も同調し始めた。
「そ・・・そうよ。そんなところで突っ立ってないで上がって!上がって!!」
「あ・・・ああ・・・。じゃまするで・・・。」
「う・・ん・・・。お邪魔・・・します・・・。」
平次と和葉は、何処か不信を持ちつつも、一見普通に戻ったように見える新一と蘭に素直に応じた。
だが・・・。
普段の生活行動というものは侮りがたく、つい普段の行動を取ってしまうものである。つまり平次と和葉から見たら
新一が家事その他・・・。今は夕飯の支度のためにキッチンをバタバタとせわしなく動き回っている。
蘭は蘭で、ソファにもたれ掛かり難しげなホームズの原書などを読んで、くつろいでいる。
「く・・・。工藤が家事しとる!?」
「え・・・?」
「蘭ちゃん何で原書なんて読んでん・・・の・・?しかもホームズ!!」
「あ・・・。」
「おかしい・・・。」
「めっちゃ変やで!?二人とも!!」
「普段の行動、真逆やろ、自分ら!!」
半ば叫ぶように平次と和葉が声を上げる。うかつすぎる自分たちの行動に、もう隠し切れないと悟った二人は
顔を見合わせて同時にため息をついた。